彼の世界と影法師の誘惑
「頼むから、全部消えちまえよ」
by響夜
「・・・・・・・・・」
どうも、鳴神響夜だ。今、俺の前には修羅がいる。それも二人。
「さあ、吐け」
「・・・吐く」
ノアが俺の下に来て四日が経とうとしている。どうやらあの恐怖は想像以上に俺を追い込んでいたらしい。普段と様子が違う俺に全員が気付くのもすぐだった。
「・・・・・・・響夜、大人しく素直に吐いた方がいいぞ」
流石に二人の状態は拙いと判断したのか翁が俺に言う。その顔は引き攣っている。正直出来るのなら逃げ出したい。話す前に消されそうだ。
「5・・・4・・」
「3・・・2・・・1・・・」
知らず知らずのうちにカウントダウンをするマオとハク。どうやら俺の人生はここで終了のようだ。
「ちょ!ま、待つのじゃ二人とも!!!この城が崩れる!!!」
今にもここを瓦礫の山にしようとする二人を翁が止める。
「・・・ほう、邪魔をするか翁」
「・・・・そこをどいて」
「む、無理じゃ。此処を瓦礫の山には出来ん。せ、攻めて外で「無理じゃ、わざわざ逃げるチャンスをやるわけなかろう」・・・・・」
その言葉に俯く翁。やがて何かを決意すると顔を上げた。
「ならば止む無し。少し頭を冷やしてもらうぞ!!」
その言葉と共に俺&翁VSマオ&ハクという決闘が始まった。
◆
荒れ果てた荒野の世界。既に場所はマオによって変わっていた。
「消え失せろ!」
「三重固界術式!」
マオが放った一撃を翁が空間を固定させることで防ぐ。最後の一枚。それでようやくマオの一撃は止まった。その瞬間翁の後ろから俺が前へ出て拳を振るう。
「疾走する魔狼の牙!!!」
俺が拳を放た瞬間爆音と共にマオが吹き飛ばされる。だが追撃へと動こうとした瞬間地面と空から巨大な氷の塊が現れ俺を潰す。
「ちい!ハクか!!」
俺は氷から脱出しようとするが想像以上の力の前にびくともしない。前を見れば俺へ一撃を放とうとしているハクの姿。
「響夜!」
その声と共に氷に何かがぶつかり砕ける。それによって俺は間一髪抜け出すことが出来ハクの一撃を躱した。
「・・・・っち」
何やら舌打ちが聞こえたが気のせいだろう。ハクがそんなことをする筈がない。・・・・ないよな?
「成程、遠距離は空間ごと魔力を爆発させ吹き飛ばすか」
そう言って悠々と歩いてくるマオ。その姿には傷など見受けられない。
「だがそれは近距離でこそその真価を発揮するのであろう?」
「・・・・マジかよ」
いや、あれで倒れるとは思わなかったけどよ。直撃させたんだぜ?それで無傷ってどういうことだよ。
「・・・っ響夜!後ろへ跳べ!!」
その言葉が聞こえた瞬間俺は空を舞っていた。そして下にいるのは拳を構えるマオ。
「―――――」
「・・・がっ!ぐっつうだ、がああ!!」
最早竜巻、轟音を伴って放たれた剛腕の一撃は俺の背骨を完全に粉砕し貫いた。
「さ、吐くのじゃ響夜」
笑顔で言うマオ。だが目が笑っていない。完全にきれている。そこから感じ取れるのはあの男に会った時と同じ恐怖。
・・・・・ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな
「ふざけんなあ!!!」
それは今まで無い程の心からの怒声。その声に三人の肩がビクリと動く。
「我が軍勢よ!!!」
俺は周囲の空間に軍勢を呼び出す。次の瞬間俺の目の前は閃光で白く塗りつぶされ絶え間なく続く轟音を聞きながら俺は意識を手放した。
◆
「・・・・・・・」
目を覚ました俺が最初に見たのは朝も夜かも分からない闇の中に光る月。それが俺にはどうしようもなくおぞましいものに見えた。
「・・・最悪だ」
俺は悔しさから歯噛みする。屈辱だ。恐怖を感じたことにでは無い。奴から感じた恐怖で俺が取り乱したことにだ。
「・・・・・?」
俺は身体に何かが圧し掛かっているのを感じ身体を起こす。
「・・・・・・ん、・・・・」
「・・むう・・」
そこにいるのは戦っていた時の怒りは何処へやらあどけない顔で眠っているマオとハクの二人だった。
「・・・・悪かったな」
俺は二人の頭を撫でる。すると二人は柔らかい笑みを浮かべる。
それを見た俺は気持ち良さそうに眠る二人をあとにしてベッドから出る。扉を出て廊下に出るとまる出てくるのが分かっていたかのように翁がいた。
「もう大丈夫なのか?」
「・・・・まさか」
たぶんまた恐怖を感じたら俺は頭が怒りで染まると思う。てかなる。
「・・・その原因は?言っておくが黙っているという選択は無いぞ」
「・・・・・・・・」
まあ、何時までも黙っていられるものではないか。俺はそう考え取り敢えず廊下から誰もいない部屋へと翁と共に向かう。
「ふむ、ここなら誰もいないじゃろう」
部屋を見渡して翁が言う。ま、誰がいても関係ないんだが・・・・。
「・・・そうだな」
俺はあいつが言っていたことを話す。クラウンのこと、あいつが俺のことを黄昏の破壊者と言ったこと。その話を聞いていくうちに翁は今迄に見たことが無いほど真剣になる。
「・・・・ふむ」
全て話した時翁は何かを思案していた。何を考えているか分からないが此奴が此処まで真剣になるとは正直予想してなかったから驚いた。
「成る程のう」
やがて翁は俺を見る。
「・・何故響夜をクラウンに入れたのか。だが響夜。気を抜くなよ。相手が何を考えているか分からないいじょう隙を見せる訳にはいかない。気をつけろ」
「・・・・・ああ」
「では、儂は戻るとするか。お前も早く戻れよ」
そう言って翁は部屋を出ていこうとするがドアノブに手を掛けたところで振り向き俺を見る。
「そうそう、お前の恐怖は儂ではどうにも出来ん。他を当たるんじゃな」
「・・・・・・・・」
そう言って今度こそ翁は部屋を出ていく。俺はそれを見送ると部屋の隅を一瞥し溜息を吐いた。
「お前らもいい加減出て来い。何時までそこにいんだ?」
「・・・・・どうして分かったのじゃ?」
「・・・・・」
そこから現れるのはマオとハクの二人。その質問に俺は再び溜息をついて答える。
「・・・・なんとなく、だ」
何となくそこにいるのが分かる。理屈ではなくて直感のような説明のできない第六感の様なもの。あいつに会ってからそう感じだした。
「・・・・聞いてたろ、今の会話」
俺はそういいながら煙草を取り出す。
「そう言う訳だ。俺はクラウンに入る」
「「・・・・・・・・・」」
「・・・・どうした?」
俺は黙っている二人に首を傾げる。
「・・・響夜、本当は行きたくない。って思ってる」
「は?」
「手が、震えておるぞ?」
俺に近付き手を握るマオとハク。
「響夜、ずっとおかしかった」
俺の目を見るハク。どうしてもそれを見れなくて俺は目を背ける。すると俺の腹部に衝撃が襲い思わず俺はバランスを崩して尻もちを着く。
「・・・・ってえ」
俺は体を起こそうとするがそこには俺を見るマオとハクの顔。二人が圧し掛かっているからか俺は身動きを取れなくなる。
「・・・響夜、目を逸らさないで」
「響夜、もし苦しかったり悲しいことがあったら私達を頼ってくれ」
『ああ、彼女らはそうして嘘を吐く。いや、生物というものは総じて嘘を吐くものだ。黄昏の破壊者』
俺の頭に入るな。それ以上口を開くな。俺を汚すな。俺を染めるな。
「私達は響夜のこと心配、なの。無理しないで・・・」
『本当にそう思うかね?もし、彼女らが君を利用しようとしていたら?いや、そもそもこれ自体が君を手に入れる為のものだったら?果たして彼女らは君に何を望んでいる?』
ヤメロ俺を心配するな。ヤメロ、俺は■■以外は頼らない。
「・・お願い、一人で苦しまないで」
『君は今迄の心には何があった?果たして君はこれを望んでいたかね?』
「・・・・か」
『そうだ、全て解き放て。君にこれは必要か?君には彼女達がいるだけで良かった筈だ。奪われないようにする為にはどうしたらいい?』
ヤメロヤメロヤメロヤメロそれじゃあの人みたいなことを言うな。あいつと同じことを言うな。■■以外が言わないでくれ。お願いだから、お願いだから・・・
「家族以外が、俺を心配するなあ!!!!」
『ああ、その通り。簡単なことだ。破壊すればいい。何も残さず、骸の山で甘美に酔いしれるといい。ただ只管に無垢なままに、君は骸の山を登り高みへ行けばいい。そうであってこそ、黄昏の破壊者だ』
「ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ!!奪うな汚すな邪魔をするな!それは俺の物だ、それは俺が手に入れた物だ!消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ!!!!」
炸裂する殺気とまるで狂ったように叫ぶ響夜。そして感じられる魔力は以前の比ではない。
「「響夜!!!」」
「失せろ消えろ果てろ奪え潰せ殺せ死んじまえぇ!!!!」
『そうだ。素晴らしいぞ、黄昏の破壊者。君から奪う者など消してしまえ。その血に従って全て殺してしまえばいい。それが鳴神響夜だろう?く、ふふふ、ははははははははは!!』
その荒れ狂う姿を影法師は遥か高みから嘲笑っていた。
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・・・もう少し上手く表現できないものか。自分の文才の無さが悔やまれます。
あとクラウンの方々は基本偉人の名前で構成されてます。(エルザは除く)