それぞれの戦い
「腰が痛いのう」
by翁
「死んどけクソ爺!!」
by響夜&ハク&ゼクス
突然の魔王の出現と聖王が吹き飛ばされたという事態に戦場に一瞬の静寂が訪れる。
「響夜!」
「はいよ!」
そんな中マオの言葉に響夜は返事をすると周囲にいた兵士達の下へ向かう。
「疾走する魔狼!!」
響夜は疾走する魔狼を呼び出すと飛び乗る。
「クソ騎士!ハク!!」
響夜は走り出すと戦っている二人に呼び掛ける。
「うん!!」
「貴様に言われなくとも!」
二人は返事をすると兵士達を薙ぎ払いながら響夜の後に続く。前面にいる兵士達は疾走する魔狼で蹴散らしながら勇者達へ向かう。
「ガルドスはどうした!?」
その姿が見えないことが気になった響夜は後ろを走る二人に聞く。
「あいつは既に他の勇者と戦っている!!」
「マジか―――うお!?」
そんなことを言っていると轟音と衝撃が三人を襲った。三人はその衝撃が襲った場所を見る。そこには大破した多数の魔導兵器とクレーターが出来ていた。
「ちい、天竜か!!」
空で響夜達を見降ろし吠えるアカーシャを見て響夜は舌打ちをする。アカーシャは周囲にあった魔導兵器を次々に破壊すると響夜たちを見る。
「掴まれお前ら!!」
二人が掴まると同時に響夜は速度を上げる。次の瞬間先程までの場所に閃光がぶつかるり衝撃と大穴を穿った。その光景に三人は冷や汗が流れる。
「おい!どうすんだあれ!!あんなもんに勝てるかあ!!」
そう叫ぶ響夜にハクも賛同するように高速で首を縦に振る。
「いや、手筈通りなら天竜の相手は翁がする筈だ!」
ゼクスは言うが本人も不安と焦りでその顔を歪ませている。
翁、その名の通りマオ程では無いものの数千年もの時を生きてきた魔王軍の図書館とも呼ばれる男である。その力はマオにも匹敵する程の者だ。
「おい!あの爺さんホントにやってくれんのかよ!?」
「・・・全然臭いもしない」
二人の言葉にゼクスはうっ、と呻く。
「ええい!お前の神器でどうにかならないのか!!」
ゼクスも諦めたのか響夜に叫ぶ。
「無理言うな!怒りの日と疾走する魔狼だけで魔力量ギリギリなんだよ!!」
「くそ!こんな時だけ使えない奴め!!」
「テメェ振り落とすぞ!!?」
三人が騒いでいる間にもアカーシャはその口を開け三人を狙っていた。響夜はさらに加速するがその射線上から逃れることをアカーシャは許さない。
「ハク!何かねえか!?」
「・・・・・」
無言で首を横に振るハクを見て顔を青くする。そしてその後ろに見えるアカーシャ。
「くっそ!迎え撃つぞ!!」
響夜は方向転換しようとし、止めた。
「そう慌てるな若いの」
すぐそばで聞こえる少年の声。次の瞬間アカーシャの前に何重と障壁が張られる。アカーシャの攻撃は障壁に阻まれそれ以上の侵入を許されない。そして対峙しているのは十五歳程の黒髪の一人の少年。
「翁!」
その姿を見たゼクスが名前を呼ぶ。翁と呼ばれた少年はニヤリと笑うと響夜たちを見る。目が見えないのか、その目は瞑っており開く様子が無い。
「中々スリルがあったじゃろう?感想はどうじゃ?」
そう言って笑う翁。だがアカーシャの攻撃を防ぎながらもこれほど余裕があるのは相当な実力者なのだろう。
三人は何か言おうとするがそれはアカーシャの咆哮で掻き消される。止められたことが彼(?)のプライドを刺激したのかその姿はまるで怒り狂ったようだった。それを見た翁は面倒臭そうにそれを見ると手で先に行くよう三人を促す。三人も自分達が邪魔になることを分かっているのか先へと進んでいく。
「全く、折角の若いのと時間を邪魔するでないわ」
翁はそう言うが返ってくるのは唸り声だけ。それを聞いた翁はやれやれ、といった様に肩を竦める。
「下等種族と話す気はないか・・・。まあよい」
翁が溜息を吐く。だが次の瞬間無数の方陣がアカーシャを取り囲む。
「ならば貴様が見下す存在に殺されるがいい!」
「Gaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
方陣から放たれた閃光と爆音が天竜に襲いかかった。
◆
「ハク!」
天竜の相手を翁に任せた俺達は勇者達を強襲した。幸いこの戦場の中でまだ俺達に気が付いていなかったようでハクの放った氷柱は奴らを分断した。
「くそ!あいつらか!!」
奴らが俺達に気付くが遅い。俺達は既に奴らに攻撃を開始していた。
「お前が異界から召喚された勇者か」
クソ騎士はあの茶髪の浩太とかいう餓鬼に。
「こんな小娘で俺の相手が出来んのかァ!?」
「貴方程度、直ぐに殺せる」
ヴィスカヴァルにはハクが。
「ってことで俺の相手はあんたらか」
俺は目の前にいるアリアとメイドをみる。どうしてこう俺の相手は面倒臭い奴らなのか・・・。
そんなことを考えながらも俺は疾走する魔狼を消す。正直怒りの日の維持だけで相当な魔力を持ってかれてんだ。
「あれだけの傷を負いながら何故立てるのかが不思議ですね」
此方を睨みながらもメイドは喋る。
「まあな、俺元人間、現化け物だから」
俺は自嘲気味に笑う。二人は何か言いたそうな顔をしているが生憎構ってられる時間は無い。
「悪いが。ここで死んでもらう」
俺は紅蓮の光を纏い疾走する。二人はその光に警戒してか遠距離での攻撃をしてくる。
「それは悪手だな」
俺はその攻撃を前面に紅蓮の光を障壁の様に展開し防いでいく。この光を突破したかったら相当上位の魔法を使わないと無理だろう。二人も無駄だと分かり武器を構える。メイドも厄介だがアリアの剣も厄介なんだよな。あれチェーンソーみてえな物だろ?絶対いてえだろ・・・。
俺は光を剣の様にして振りかぶる。その攻撃をメイドが僅かに時を遅らせることで回避しアリアがその隙を狙い胴へと剣を突き刺す。
「あめえんだよ!!」
俺は光を即座に鎧のように胴の部分に纏わせることで防ぐ。剣はその光に触れ嫌な音を立てながら壊れた。予想外だったのだろうその現象にアリアは注意が逸れる。当然それを見逃す程俺は甘くない。
「ぶっ壊れろオ!!」
「ぐ―――!?」
俺は茫然としていたアリアの腹を蹴り飛ばす。アリアは苦悶の表情を浮かべながら俺を見る。俺が追撃を仕掛けようとした瞬間
―――ごろん
「あ?」
俺の視界が反転する。また転ばされたか?いや
「酷いことするねえ。首を切り落とすなんて」
俺は嗤いながらメイドを見る。二人とも流石にこれで俺が生きているとは思わなかったのだろう。目を見開いている。いいねえその顔。何か得した気分だ。実際俺の方が損してるけど・・・。あ、血が俺の目に入った。
暗転。
「あらよっと」
首が切り落とされたことなんて無かったからどうなるか分からなかったが何時の間にか視界が元に戻っていた。見れば俺の頭は背後に転がっている。うむ、不思議だ。どうやって首が生えてきた?さっきまでの俺は?
「ま、いいか」
考えても分からないもんを分かろうなんてする必要はない。実際に起こった。この事実だけが重要だからな。俺は光を散弾の様に飛ばし二人を攻撃する。その攻撃をアリアがレーザーの様に水を飛ばしけん制していく。どうやら最初よりも相当威力が高いらしく光の弾はぞの勢いを衰えていくそしてその隙を縫うようにメイドは俺へと直進する。
その攻撃を回避しようにも体が動かず、いや、動いているが遅い。時の魔法か!
「貴方の回復能力がどれ程か分かりませんが」
メイドは何処からともなく大量のナイフを取り出し次々に俺を切り裂いていく。だが痛みは一向に俺を襲うことが無い。
「不死とはいえ貴方の精神もが不死ではない筈。意識を保っていられない程の激痛に貴方は耐えられますか?」
メイドの言葉。それと同時に今迄の痛みが俺に牙を剥く。
「―――っづァ!?が・・っァ゛ァ゛ァ゛!!?」
激痛が俺を襲い、全身を焼かれた様に体が熱い。目眩がして視界がぼやける。
「・・・・ぐ・・っそ」
俺はその痛みに膝を着いた。
◆
「小娘が相手かよ」
目の前にいる男――確かノーレンって言ったっけ?――は溜息を吐く。正直私もこんな変な男を相手にしたくない。何というか付き合ってられない。
「氷獄」
私はノーレンが油断しているうちに氷で閉じ込める。この程度で死ぬなんてことは無いだろうから氷柱を創り出す。
「おいおい、いきなりそれは無いんじゃねえの?」
氷を内側から破壊してノーレンが現れる。その瞬間私は創った氷柱を全てノーレンへ放つ。
「刈り取れぇ!!」
その氷柱はノーレンが腕を振ると同時に輪切りにされる。確か響夜の話だとノーレンは風の魔法が主体だとか・・。
「凍てつけ」
私は地面を凍らせノーレンの動きを封じようとする。ノーレンはそれを跳ぶことで回避する。けどそれは予想済み。私は凍った地面から氷槍を飛ばし追撃する。その攻撃をノーレンは空を自由自在に飛ぶことで躱し風の刃で破壊していく。恐らく空を飛んでいるのは風の魔法によるものだろう。
「あの餓鬼には勿体ぶってやられちまったからな」
瞬間、ノーレンの体が膨れ上がる。着ていた鎧は弾け飛び背からは白い翼が生え腕は猛禽類の鋭い爪に変わる。全身には獣の様に毛が生え、その顔は鷲の顔、そして下半身は獅子の姿。それは正しく
「鷲獅子」
この世界でも上位の魔物。勇敢な騎士の相棒になるとは聞いたことがあるけど人間になれるなんて・・・。
「オラァ!いくぞ小娘ェ!!!!」
ノーレンは咆哮と共に全身に風を纏い迫る。その攻撃を氷で受け流しながら回避した。ノーレンは旋回すると口から風のブレス攻撃をしてくる。防御しているもののその勢いに私の足が地面から離れた。
「災厄!!!」
「く―――!?」
そして放たれた暴風の塊。それは宙にいた動けない私へ迫り
―――ドゴォォォォォン!!
直撃した。
◆
「・・・・こんなもんかヨ。つまんねえなおイ」
ノーレンはそう吐き捨てると移動しようとする。だが
「Gaaaaaaaaaaa!!!!」
その咆哮が聞こえると共にノーレンを無数の氷槍が襲った。
「―――!・・ハッ、おもしれエ!!」
ノーレンはその全てを撃ち落とす。その顔には笑みが浮かんでいた。
「何だ、テメェも俺と同じだったのかヨ」
そこにいるのは白銀の毛並の巨大な狼。元の姿へと戻ったハクだった。その毛並は霞むことなく輝き周囲の大地は凍てついている。
「いいゼいいゼ、なあおい!!殺りあおうぜェ!!!」
「Gaaaaaaaaaaaa!!!!」
放たれる暴風と氷弾その二つはぶつかりあい周囲を巻き込み爆発した。
◆
「ハア!」
「甘い!!」
ハク達から離れた戦場。そこで浩太とゼクスは戦っていた。
「影踏み」
ゼクスが浩太の左腕の影を踏む。すると浩太の左腕が突然動かなくなった。その突然の事態に困惑する浩太をゼクスは影の槍を放つ。浩太は困惑しつつも右手に持つ聖剣で影を両断しながら距離を取った。
「く!光よ!!」
浩太は指先から無数の光の弾を放つ。しかしそれはゼクスの無の魔法の前に霧散する。それを見た浩太の顔が歪む。ゼクスは影の槍を放ちながら自身も浩太へと駆ける。
「フッ――――!!」
影の槍を聖剣で断ち切り横薙ぎに振るわれる剣を逸らしながら浩太は反撃のチャンスを窺う。ゼクスが剣を振り下ろした瞬間
「ハアアァァァ!!!」
浩太は剣を握る手に力を込め振り下ろされた剣を弾き飛ばした。その予想外の一撃にゼクスは剣を逸らされ大きな隙が出来る。浩太はゼクスに体当たりし体制を崩す。
「ぐ!」
地面に倒れたゼクスが立ち上がろうとすると浩太が馬乗りになり首に剣を当てる。
「俺の勝ちだ!大人しく投降しろ!!」
「・・・・・」
剣を突き付けられながらもゼクスは臆することなく浩太を睨み付ける。無言のと睨みつけるゼクスを見て説得は無理だと悟った浩太が止めを刺そうとした瞬間
「死ね」
ゼクスの影が動いた。その動きに気付いた浩太が止めを刺そう剣を振る速度と影が動く速度はほぼ同じ。そして影と剣が交わり―――
―――ドス
血が二人を赤く染めた。
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新年明けましておめでとうございます。
新年明けての初投稿です。少し短かったですがご勘弁。正直長いなあ進展しないなあと自分でも思いますが仕方がないんです。決して飽きた訳ではないんです。マジで。
設定や短編の方もちまちまと書いています。三章に行くまでまだ掛りますけどね。
あ、あと投稿予告ですが今の状態を考えると少し難しいので殆ど書くことはないかも・・・・。誠に申し訳ない。
ではまた次回。