誰だって憧れの一つや二つはあるもんだろ?
「悪いな」
「ううん、私は■■といられるだけでいいよ」
雪が降る中■■は無垢な笑顔を浮かべる。
「ありがとよ。こんな情けねえ奴を慕ってくれて・・・」
不器用ながらも隣を歩く少女の頭を優しく撫でる。だが少女は何処か起こった様に俺を見た。
「情けなくなんて無いよ!■■はカッコいいよ!!■■は私のヒーローだもん!!」
その言葉に驚きつつも俺は苦笑する。
「・・・そうだな。頑張ってカッコいいヒーローになるよ」
カッコいいヒーロー。まだ子供だった俺は最初はそうなろうと本気で目指していた。だが裏で生きて行けば分かる。そんなものはなくただ殺して薄汚れて汚水を啜って生きて行く。そんな生活しか自分には出来ないと。ただ目の前にいる少女が笑ってられるように穢れ続けた。いつしかカッコいいヒーローは曇り、そこには仮面を付けたハリボテのヒーローの姿だけがあった。
俺はヒーローにはなれない。なら汚れながらも彼女の味方であり続けよう。そう決めた筈だった。
・・・・・けど心のどこかで俺は大切な人を助けられるそんな姿に憧れていた。
「・・・・・・・・・」
フルプレートの黒い甲冑に身を包んだ響夜は周囲を見渡す。やがて響夜は丘の上に立つ聖女を見ると右手にフランベルジュを創り疾走した。
「!させるかあ!!」
最も近い距離にいた浩太が斬りかかるが響夜はその攻撃を上に跳躍し躱すと右手のフランベルジュを叩きつける様にして振り下ろす。
「ぐっ!」
その一撃を浩太は剣の腹で受け止めるがその重さに腕が悲鳴を上げる。響夜は空の魔法で空間を固定しそこを足場にすると浩太を吹き飛ばす。響夜はそのまま追撃をするが間を割り込んできたノーレンにそれ以上の追撃を防がれる。
「何だそりゃあ?騎士道でも語るのかァ?」
「・・・・・・・」
響夜はノーレンの言葉にその手に持つ剣で答える。
「―――――!?」
正しく神速。例え勇者であっても捉えられない速度での一撃が繰り出される。ノーレンはそれをギリギリで躱すが響夜は左手に創った槍を投擲する。
「がっ!―――ぐ、だあ!!」
その一撃はノーレンの左脇腹を貫き地面に縫い付ける。
「ノーレン!」
アリアとメイドがノーレンを助けようと動くが響夜は二人の頭上に剣群を創り落としていく。
「く!?(これは一体何の魔法なの!?)」
本来此処まで法則を捻じ曲げるようなスキルは存在しない。だからこそ彼らはこれが魔法と認識してしまう。
「爆」
響夜がぽつりと呟く。その言葉と共に落下した剣群は一斉に輝き
「――――まさか!」
―――――ドゴオオオオオオオオォォォォォン!!!!
爆発した。戦場を覆い隠す煙に紛れ響夜は聖女に肉薄する。彼女からしたらまるで瞬間移動をしたかのように見えただろう。
「く!主よ、どうか私の祈りを聞届けてください!!」
ミーナが言うとともに二人の間に落雷が落ちる。響夜は飛び退くとともに右手に持っていたフランベルジュを聖女へ投げつけるが煙の中にいる何かに弾かれる。響夜は両手に形無き略奪者を呼びだすと左手に槍を創る。
やがて煙が晴れそこにいたのは十体の使徒。その姿は様々で鰐や鳥、獅子を擬人化した者や女神の姿をした者までいる。だが彼らは皆共通して目の前にいる黒き騎士への殺意を宿していた。響夜はそれを迎え撃つように両手に持った槍を構える。
先に動いたのは使徒たちだった彼らは響夜へ肉薄すると各々の武器を振る。ある者は矢を番え、あるものは剣を振り下ろし、あるものはメイスを構える。
「―――――――――――」
だがその攻撃を響夜は両手に持つ槍で捌いていく。その動きは一国の騎士団長を遥かに超えた技量であり見るものを魅了するような華々しさと獣のような荒々しさを持ち合わせたものだった。このようなことは響夜には決して出来るもので無い。元来響夜には武の才も智の才も持ち合わせてなどいない。よくて凡人より少し出来ると言ったものだ。達人の領域などに入る技量は無い。
ならば彼が五人を相手にして戦えていたのは何故か。それはひとえに彼の生への執着だ。生きるために時に汚水を啜り、時に溝鼠の様に這い蹲って生きて来た彼は誰よりも死の回避に特化していた。それが最も現れているのが彼の観察眼と本能。逃げる為に全てを観察し続け次の行動を予測する。決して見破れない罠を第六感とも言えるもので回避する。だからこそ彼は五人を相手にして生き延びれた。
もしそれが達人をも凌駕する技量を持ち合わせたら?その答えは正しく今の現状だろう。カッコいいヒーローになりたい。薄汚れた彼が心の片隅に持っていたもの。自分では為れないからこそ、その願いはより大きなものとなっていた。それがこの神器だ。大切なものを護れる者。それは強くあれる者であった。
この神器の能力。それは全ての能力を上昇し、あらゆる技術を瞬時に習得する。大切なものを護るという殺人鬼の小さな願いの為に生み出された力だ。故に、この騎士は敗れてはいけない。それは大切なものを護れなかったということだから。
「かぁswでfrgthy!!!!」
槍に貫かれた天使が奇妙な叫び声を上げ死んだ。形無き略奪者は殺す程にその力を上昇させる。天使という神の使徒を殺したのだ。当然その力は別格といっても良いものだろう。残る天使は九体。ノーレンやメイド達も神殿にいる信徒の祈りからその傷を回復させてきている。だがやはりこれだけの戦場全体を範囲にするのも限界があるのだろう。回復速度が遅くなってきている。
「オラァ!さっきのお返しだぁ!!」
復活したノーレンがカマイタチを飛ばしながら肉薄する。響夜はその総てを叩き落とすと壊れかけている槍に炎を纏わせると投擲し爆発させる。ノーレンはその爆風の中を抜けると飛び掛かる。
「ハア!」
その攻撃を新たに創りだした大剣で受け止めようとするがメイドのナイフが背後から襲う。だがその攻撃を響夜は炎の熱ナイフを炭化させることで砕く。響夜はその場から飛び退くとつい先程まで立っていた場所に剣を構えていた浩太が降りてくる。
「水千花!」
二人の後方から無数の水の弾丸が響夜を襲ってくるが響夜は近付いていた天使の頭を掴むとその盾にし天使の頭を握りつぶした。その光景に天使達の動きが僅かに乱れたのを察知すると響夜は再び神器を呼び出す。
「神殺しの鎖」
鎖達は先頭にいた天使三体の身体を貫きながら後方に続いていた天使全てを拘束する。
響夜は右腕を振りかぶり圧縮していた魔力を解き放つ。
「疾走する魔狼の牙」
そこから放たれたのは極大まで圧縮された魔力の塊。それは劫火の炎を纏い絡め取られていた天使達を呑みこんだ。これもまた響夜が持つ神器、疾走する魔狼の能力。多重能力であるフェンリルはある意味所有者の肉体の一部と言える物でもあった。疾走する魔狼の心臓とも言えるエンジンを使用し込めた魔力の力を増大させ放つ。それによって込められた魔力は一撃必殺とも言える破壊力を誇る。
響夜は天使達を完全に消すため上空に無数の断頭台の刃を創り出すと無慈悲にもその全てを振り下ろした。
「・・・何だこの神器のオンパレードはよぉ。幻ってのが嘘に感じるぜ」
ノーレンの言葉も最もだろう。世界中を探そうともこれ程の神器を所有している者などいないだろう。響夜の神器は贋作とはいえその力は本物に迫り、物によってはへたな神器を超えるだけの力を持っている。
「・・・・・・・」
響夜はその赤い瞳を四人へ向ける。聖女の天使を始末した以上。聖女の魔力と精神力は大幅な減少を見せているだろう。ならば危険視するのは残りの四人。響夜は剣を構えると浩太へと加速する。その速度は魔力で強化こそされているが音速に迫るだけのものだ。浩太は自身が持つ神器である聖剣を構えながらその動きを見極めようとする。心眼、特殊ではあるもののその力は戦場で極められたものであり、それをさらに極めたものは最早予知の如き力を得る。だが響夜もまた観察眼という眼がある。浩太が防ごうとする動きに合わせてそれ隙を突こうとするが脇腹を掠りながらも回避される。
メイドが浩太を援護する為に近距離でのナイフによる斬撃を繰り出すが響夜はまるで鎧を着けていないかのような俊敏な動きで躱す。
アリアと浩太の挟撃を両手の大剣を巧みに時にその姿を変えながら響夜は応戦する。二人が離れた瞬間、メイドとノーレンが攻めに入り押さえつける。そして聖女が再び光の柱を落とし響夜はその攻撃を再び神器を発動させることで相殺する。その隙を突いたノーレンの一撃。だがそれは響夜の影から出て来たウサギの障壁に阻まれた。生存競争の底辺であるウサギは逃げる為にいつしか結界を持つようになった。だがそれでも勇者の一撃を防げるとわけがない。そこでそれを覆すのが響夜の想像形成である。増大機能が付与された魔導具を装備させることでインターバルが必要とはいえ勇者の一撃を防ぐだけの強度の結界を創り出す。
ノーレンは舌打ちをすると響夜の反撃が来る前にそのばから飛び退く。そして再びアリアが水の弾丸を放ち牽制しつつ三人が肉薄する。
次々に来る連撃を躱しながら響夜はその両手に持つ大剣とで攻勢に出る。ノーレンが振り下ろした剣を左手に持つ大剣を軽々と振りノーレン諸共吹き飛ばす。近付いてこようとする者を響夜は軍勢全てを使って迎撃する。徐々に疲れが出て来たのか五人は躱し切れずに負傷するが信徒達が五人に祈りを集中させたのか持ち直す。それを見ながら響夜は決着をつけようかとその魔力を集中させた時、それは来た。
――――GaaaaaaLuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!
轟く叫び。それはまるで雷鳴の様に響き渡り、それは姿を現した。
全身を白い鱗で覆われその背には四枚の純白の翼を生やし、口には鋭利な牙が生え揃っていた。その姿は正しく天を守護する者だった。天竜アカーシャ、そしてその背に立っているのは
「・・・・王」
兵士の一人が呟くと同時に飛び降りる偉丈夫。その者こそ聖王アルク・ジ・クラテーレ。ここに今連合軍主力七名が揃った。
響夜 総軍3500名VS 聖王 総軍5380名
今戦争は終結に向かい出した。
感想、批判、意見、評価がありましたらお願いします。
今回、は前回より短いです。少しお聞きしたいのですが二日三日開けて約一万字程の文章量で投稿するか3000~5000程でなるべく毎日投稿を目指すか。皆さん的にはどちらの方が良いのでしょうか?
良ければご意見ください。