殺人鬼はRPGのラスボスに挑戦したようです
「怪しい人に声をかけられたら?右ストレートでこんにちはだろ」
by主人公
おはようございます。太陽が憎たらしいほどに輝いてやがる朝でございます。
「・・・・・・・」
まずは周囲の確認。相変わらず周囲は木々で埋めつくされてる。
「・・・・・どうせなら夢であって欲しかった」
俺はそう目の前の現実にそう愚痴りながら立ち上がる。化け物どもは寝る前にピアノ線を周囲一帯に張り巡らせたから一応大丈夫だと思うんだが。念には念をと言うことでピアノ線を見る。
「わお」
一部のピアノ線が血塗れになって張ってあるのを発見した。そしてそのピアノ線に引っ掛かっているよく分からない獣の死体。チーターのようにも見えるがその死体には目が三つあり角が生えている。さらにそこからすぐ近くにはもう一つの死体。・・・・こいつらって学習能力ないのかね。何かもう一つの死体はゲームで出てきそうなゴブリンの様な死体。
「・・・・・?」
見ればゴブリンが腰に着けている巾着袋から鉱石のような赤い欠片が見える。俺はそれを取り出すと日に照らして眺める。
「・・・・・何だこれ?」
日に照らされキラリと光る赤い欠片。俺は取り敢えずそれをポケットの中に入れる。取り敢えず巾着袋にはもう何もないようなので獣の死体を見る。
「・・・・朝飯にするか」
俺は獣の死体を掴むと寝床にある木の枝を組み再び火をつけた。これはなかなか・・・・。
◆
朝食を食べた俺はピアノ線を回収し鞄を持つと歩きだした。
「獣はなかなか・・・ただ実際に戦って仕留められるのか」
生憎衝動に駆られて殺すただの快楽殺人者じゃないんでね。先のことも考えて行動しないと後で痛い目を見る。現にそういった奴を何度も俺は見てきた。
俺が暫く歩いていく周囲の草がガサガサと揺れる。俺はその音を聞くと共につい条件反射で
ダァン!!
懐からデザートイーグルを取り出し引金を引いた。それと共に放たれる銃弾と硝煙の臭い。放たれた弾丸は一瞬で目標へ到達し
「ギャ!?」
目標は短い悲鳴を上げ血飛沫と共に倒れた。俺は銃とナイフを構え周囲を警戒する。すると草が揺れると共にピアノ線に掛かっていたゴブリンとよく似た奴らが飛び出してくる。
「・・・・・・・」
数は10、いや俺に向けられている殺気の数は15。まだ何処かにいやがるな・・・。ゴブリン共の表情にはハッキリとした殺意と憎悪が受け取れる。さっきの一匹を殺したことを恨んでるのか?
「中々仲間思いじゃねえか。・・・けどよ」
ダァン!
俺は一匹のゴブリンに向け引金を引く。放たれた弾丸はゴブリンの眉間に穴を開け、また一匹が死んだ。
「俺は優しくねえからよ」
流れ出る血から漂う鉄の臭いと銃口から昇る硝煙の臭い。それは俺を興奮させ殺人鬼としての本能を刺激する。
「精々足掻けや、虫螻がぁ!!!」
俺は目の前にいた一匹のゴブリン目掛けて駆ける。目の前で突然仲間が死んだことに動揺しているのだろう。ゴブリンはろくな抵抗も出来ず首を切り裂かれ血飛沫を上げながら血の海に沈む。俺は頬に掛かった血を舌で舐める。
「ヒカカカカカ!!!脆すぎだろぉ!?殺る気あるのかぁ?」
再び駆ける俺。残りのゴブリン達は状況を理解できたのか俺へ向かって殺到する。振り下ろされる棍棒、俺はそれを片手で受け止めるとそのゴブリンの首を掴みへし折った。骨の折れる鈍い音がしゴブリンの首はぶらぶらと揺れる。
「ギャア!!!」
俺が一匹のゴブリンに集中していると背後からもう一匹のゴブリンが俺の頭に棍棒を振り下ろす。
「んなもん食らうかよぉ!!」
俺は飛び掛ってきたゴブリンに先程の首が折れた死体をぶつける。それによってゴブリンのバランスが崩れ後ろにいた仲間達を巻き添えにして転倒する。それを見た俺はそのゴブリンにピンを抜いた手榴弾を投げその場を離れる。背後から俺を襲う爆音と衝撃、俺は転がりながら体制を立て直すとその爆心地を睨む。其処にあるのは小規模なクレーターそして辺りに飛び散っている肉塊と血。俺はそれを見て口笛を吹く。
「随分スッキリ消えたなあ」
あれだけの距離だったんだ当然俺も無事な訳がない。左手に走る痺れと痛み。火傷で済むってのは人間やめてるとしか思えないな。
「残りは5匹。さあて何処にいるんだい?」
手の中でナイフをくるくると回しながら俺は周囲を見渡す。次の瞬間俺の脇腹に刺さる矢とはしる痛み。
「ギャギャギャ!!」
ゴブリンは俺に当たったのが嬉しいのか声を上げる。その行動に俺は口元を歪ませた。やっぱこいつら馬鹿だ。
「死んじまえよぉ!!」
俺は声が聞こえた場所へ弾丸を連続で放つ。ゴブリンは苦し気に呻きやがて倒れる音が聞こえる。
「あと四匹。さあ次はどいつだぁ?」
その言葉と同時にまた引金を引く。そしてまた聞こえる血飛沫と断末魔の声。
「さ、残りは三匹」
ガサガサという音共に聞こえる三つの足音。ただその足音は徐々に遠ざかっている。
「・・・・・・逃がすと思ってんのか?」
先に手ぇ出してはいすみません?んなもん聞いてもらえると思ってんのか?俺はその足音の下へと駆けていく。
「舐めてんじゃねえぞ。小鬼風情が!」
俺は口元を歪め瞳を輝かせながら駆ける。やがて見えてくるのは三匹のゴブリン。奴らは俺の半分程の身長しかないんだ当然歩幅など俺より遥かに小さい。見えてきた標的を前に俺は舌舐りをする。
良いぜ良いぜ良いぜ。そうだその命を燃え上がらせろ!俺にその命の燃え上がる様子をみせてくれ!!
俺は手に持ったデザートイーグルを奴等に向け、引金を引いた。炸裂する弾丸、血飛沫を上げ血の海をつくっていくゴブリン。
「堪んねえなぁ!!これだから殺すのは止められない!!」
俺は額に手を当てて顔を覆いながら高笑いを上げる。最早此処が何処であろうと構いやしない!これが俺が求めたもの。この血風と快感を感じることができるこの場所が俺が求めたものだ!!ダイヤの金の輝きすらも凌駕する人の魂の輝きそれを俺は見続けたい!!!
「だからどうよ爺さんよお?」
俺の背後に立つ一人の老人。見た目は只の老耄だが中身がまるで違う。何か巨大なものを無理矢理人という容物に詰め込んだ化け物だ。
「是非とも俺と踊ろうじゃないか。爺は好みじゃないんだがな」
俺が問いかけると目の前の老人は笑う。
「ふふふ、こんな老耄と踊ってくれるのかのぉ。良いじゃろう」
老人が何処からともなく一本の杖を取り出すと地面にコンとぶつける。それが合図かのように老人の背後に出現するのは無数の方陣。
「たっまんねえ。こんなに昂るのは久しぶりだよ!!俺にもっと生を実感させやがれぇ!!!」
俺は今までにない程の速度で目の前の老人に疾走する。老人はその姿を見てニヤリと笑った。
「くくく、いいな。この俺『魔王』に挑むとはな」
一瞬老人の姿がぶれ、一人の長身の男が現れる。全身が黒く牙のようなものを生やし、背中には翼が生えている。
こいつは言った。魔王だと。俺は思わず笑を浮かべる。おもしれえ。
「見せてくれよ!魔王様の実力ってやつをよぉ!!!」
降り注ぐ方陣からの光をくぐり抜け俺は奴の目の前に出る。振りかぶる右腕。相手も俺と同じように左腕を振りかぶる
「ッラァ―――!!」
「フッ―――!」
ぶつかり合う拳。だがその決着は一瞬だった。
メキャ
鈍い音を発て潰れる俺の右腕。それは骨が折れ腕から突き出ていた。
「―――――」
その痛みに俺は顔を歪める。だが―――
「くたばれよ」
最後の力を振り絞り放たれた銃弾。それは魔王の眉間を確実に貫いた。
「ムゥ―――」
魔王は僅かによろめき仰向けで倒れていく。その様子を見て俺の意識は闇の中に落ちていった。
◆
「・・・・・・・」
あ?ここ何処だよ。俺はそう思いながら起き上がる。既に夜空には満点の星空が広がり大地を照らしている。あの爺は何処に行きやがった。つか何で俺生きてんだよ。
俺は自分の右腕を見る。そこにはあるのは無事な右腕ついでに火傷も綺麗に治っていた。
「む、目覚めたのか」
俺が立ち上がって体の調子を確かめていると茂みの奥から魔王とか名乗っていた男が現れる。男は俺の視線を気にせず近くに座ると隣を叩く。・・・・座れと?
聞きたいこともある。俺はそのことを考えると魔王の隣に座る。
「・・・・何で俺を生かした」
「開口一番がそれかのう」
魔王は面倒臭そうに頭を掻く。うるせえよ、俺には重要なことなんだよ。
「主には興味があったからのう。『門』を開けるものなど何千年といなかったからのう。ましてや向こうの者が開けるなど初めてじゃ」
「『門』?」
「主ではないのか?」
魔王は首を傾げる。・・・門。思い当たるのはあの光。
「・・・・たぶん俺だ」
「やはりか。門を開けられるなど儂ぐらいじゃからのう」
魔王は頷くと俺に顔を近づける。
「で、どうやって開けた?」
質問ばかりだなこいつは。少しは俺にもさせやがれ。
「大量のヒトの死体を集めて模様を描いたんだよ。そしたら光に包まれてここにいた」
「人?主はどれだけの人間を殺した?」
「さあ、その『門』ってやつを開けるのに百人近く、今まで全部含めて何千何万・・・よく覚えてねえよ」
俺にとって殺すのは飯を食うのと同じくらい自然なこと。正確な数なんて覚えてる訳がない。俺の言葉を聞いて魔王は愉快そうに笑った。
「フハハハハハハハ!!!!!主は本当に人間か!?そんな者など聞いたことがないぞ!!?」
「当たり前だ。他にもいたら世の中の人間は殆ど死んでるぞ」
その言葉を聞いて魔王はさらに笑う。うるせえんだよ。
「で、今度は俺の番だ。向こうってのは何だ?」
まず最初に聞きたいこと。此処がどこなのか、向こうとは何なのか。話とあのゴブリン達で大体の予想はつくが・・・
「向こうってのは主が生きていた世界じゃ。この世界は『アリアンロッド』と言ってな。お前達の住む世界とは別の世界じゃ」
・・・さいですか。いや、むしろゴブリンやら魔王やらが地球にいる方が驚きだけどさ。慣れってのはとんでもないな、ここが異世界だと言われてもまるで驚かない。
「で、魔王様は何でこんな所にいるんでしょうかね?」
皮肉を込めて俺は魔王に問う。魔王は腕を組んで悩むと何か思いついたのか言った。
「実は後継者を探していてな。ちょうど門を開いた者がいたから押しつけ・・・もとい継いで貰おうかとな・・・」
「巫山戯んな」
俺はそう吐き捨てて立ち上がる。そして歩き出そうと踏み出し―――足を掴まれた。
「離せ」
「まあ、待て。主はまだこの世界のことを知らんじゃろ?」
確かにそれはそうだ。俺はこの世界の知識がまるでない。当然あんな化け物共についてもこの世界の人間についても・・・。
「まあ、教える代わりに継げとは言わん。話を聞け」
・・・・・ただで教えてもらえるのはありがたい。ただ程怖いものはないとも言うが・・・。
「座れ、座れ」
そう言って魔王は再び隣を叩く。俺はメリットデメリットを即座に考え、座った。
「いいか、この世界には魔物というのがいる。まあこれはお前が殺していたゴブリン共が該当する。」
あれ本当にゴブリンだったんだ。
「魔物は総じて知能が低い。なかには人間以上の知恵を持つものがいるがそんなのは稀だし。自ら無駄な戦闘というのは行わない・・・たぶん」
こいつが一気に信用できなくなった。
「我らは姿は魔物に似てるがれっきとした魔族という生き物じゃ」
ふむふむ、翼、角、牙があるやつは魔族=信用できない、と。
「今変なことを考えなかったかのう?」
「気のせいだろう。で、他は?」
「まあ、種族は他にもあるが面倒くさいから先に他の説明じゃ」
グダグダ過ぎんだろこいつ。俺は深いため息を吐く。
「この世界には魔法というものがあっての。それぞれ炎、水、風、大地、闇、といったものがあるのう。因みに魔王は全ての属性が使えるんじゃ」
「あ?じゃあ、他の奴は全部は使えないのか?」
「うむ、複数使える者はいるが全ては無理じゃ。」
魔王はそう言って言葉を区切る。
「そもそも、魔法には今の以外にも呪い、聖、召喚、無、と様々なものがあるからのう。」
「ふ~ん。」
面倒くさいなそりゃ。
「あとは魔導具といってのう。魔法でも実現不可能なことを可能にするアイテムがあっての。それぞれランク分けされておる」
魔王はそう言うと溜息を吐く。
「他にも色々あってのう。正直説明すんのは面倒くさいんじゃ」
ぶっちゃけんじゃねえ。
「と、言うわけでの?主に直接この世界の知識、魔法の扱い方、や魔力を叩き込もうと思っての」
魔王はそう言って俺の頭を掴む。俺は逃げることも許されずに押さえつけられる。そして流れ込んでくる知識。それは激痛となって俺を襲う。
「ぐっ・・・が・・・ぎぎぎぎぎ!!!あ、たまがぁ!!!つぅ・・ってええええええ!!!!!」
頭が割るような痛み。俺は我慢できずに頭を抑えて地面をのたうち回る。
「があああああああ!!!痛い痛いいたい痛いイタイイタイイタイイタイイタイイイイイ!!!!!」
俺は思わず叫んだ。魔王が何か言っているがそれすらも耳には入ってこない。鼻からも血が流れ出てくる。やがてその痛みに耐え切れなくなった俺は再び闇の中へと落ちていった。
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