開幕する前の舞台の裏方。戦争はそう簡単なものじゃないよね
「おいおいおい!神様も粋な計らいすんじゃねえのォ!?」
by響夜
「・・・ああ、何だか良いことがありそうな予感がすんなぁ」
byノーレン
「ほれ次じゃぞ!」
「氷獄」
「火葬祭!」
マオから放たれた無数の土槍を俺とハクは迎撃する。お互いの魔法の属性が反対だから結構魔力を調節させるのが難しい。
次々に迫りくる土槍を俺達はぶつかる瞬間だけ魔力を爆発させて破壊する。俺の場合はハクと違い炎を爆発させないと破壊できないから威力の調節が難しい。
「ではこれじゃ」
そう言ってマオが創るのはゴーレム。全身が土で出来たものだ。
「・・・・・」
ハクは氷槍を出現させゴーレムを貫くがゴーレムの体は周囲の土をで体を再生させる。
「ぶっ壊れろ!」
俺はゴーレムを殴りつけると同時に炎を爆発させる。それによってゴーレムの上半身と下半身が吹き飛ぶがまるで何事もなかったかのよう再生する。
「おいおい」
これ神器か魔剣使わねえと俺倒せなくね?俺はハクとアイコンタクトをとるともう一度炎を爆発させゴーレムを吹き飛ばす。
「凍てつけ」
再生しようとするゴーレムにハクが氷槍を放ちその全身を凍らせる。これでもうこのゴーレムは再起不能。流石にもう再生はしないだろう。
「で?次は何だ?」
俺が座っているマオに問い掛けるとマオは腕を組んで悩む。
「ここまで早く倒すとは思っていなかったからのう。・・・あ」
マオは何か閃いたのか俺達を見る。その目は俺の半月板を破壊した時の目と同じだ。つまり
「・・・・碌なことにならねえだろ」
「・・・うん」
俺の言葉に賛同するようにハクも首を縦に振る。そんなことを言っているとマオの魔力が膨れ上がる気配がする。
「「――――――」」
「汝、理を外れし異なる者よ その魂は海より深く その身体は空より広く 」
マオの詠唱が進むにつれ俺達の周囲の景色が歪む。ただ何となくだがこの感覚は倉庫を使う時と似ている。だが何よりも感じるのは――――
「その力は破壊 総てを壊す原初の魂 さあ迷える子羊よ今この瞬間我は解き放たれる 」
これはマズイ!!
走り出す俺。だがマオの詠唱は既に終わり周囲も変貌していた。
「この場なら我が暴れても問題ない」
笑顔で言うマオ。無邪気な笑顔だがこれは最早生物の出来ることではない。周囲は荒れ果てた荒野になり草も木も、そもそも生命という物の気配を感じない。
「空の魔法。その終極と言っても良い術じゃ。これを使えるのは世界で十人もいないじゃろう」
俺が空の魔法を使えるからだろうか。感じ取れる。これの危険度が、これに辿り着くまでにどれ程年月が費やされるのかも。
俺の隣にいるハクもまたこの魔力を感じ取って一言も話すことが出来ない。それほどにこれは完成された魔法。
「では行くぞ」
俺達に放たれる言葉。
「―――――は?」
次の瞬間には俺は宙を舞っていた。今の状況も分からないし何をされたかも分からない。ただ俺は重力に引かれ地面に落ちた。
「―――――かッ!?」
受け身も取っていなかった俺は突然の衝撃に息を詰まらせた。だがその衝撃は俺を目の前の現実に引き戻した。
「・・・・・!!」
追撃が来る前に立ち上がった俺が見たのは俺と同じく吹き飛ばされていたハクに凸ピンをしているマオの姿。
冗談じゃねえ。凸ピンで人を飛ばす?洒落にならねえぞ。おい。
俺はマオのことを完全に見誤っていた。死ぬ気で挑めば傷位は負わせられると思っていた。甘い、甘過ぎる!これが魔王、これがあいつの力。俺は気合を入れる。マオは俺達を殺すことなど羽虫を払うほどに簡単なことで羽虫が束になろうとも傷などつけられる訳が無い。
「神殺しの鎖!!」
「我が軍勢よ!」
「汝等の力その牙をもって目の前の障害を食い千切れ!暴風に潜みし獅子の牙!!!」
マオに向かう無数の鎖と呪われた無数の弾丸。その鎖は獲物を追いこみ獅子の牙は獲物の喉元に噛み付く。放たれた弾丸はマオに触れ―――――止まった。
「な―――!?」
止まったのだ。確実に当たったであろう物が全て。マオに触れた瞬間にまるで時が止まったかのように。・・・・時?
「!!――くそ!!」
全身に魔力を張り巡らし離れようとした瞬間目の前にマオが現れる。
「時、か」
「正解じゃ。尤もクラウンの様な者には油断してなければ聞かないだろうがの」
マオが俺を捉えてから既に何秒と経っている。だが唯一ハクの動きが遅く見えるということは・・。
「体感時間」
「正解。ではご褒美じゃ♪」
それと共に放たれるか細い腕。だがそれはどんな生物よりも危険な一撃。
「――――ぐっ、が・・・ごぉ」
生き物が出せるとは思えない声。俺はその一撃で四肢が爆散し吹き飛ばされる。悪魔の心臓が(グリモア・ハート)が痛みが来る前に治してくれるのが幸いだ。もしそうじゃなかったら死んでいた。
「氷獄!!」
その声が響くとともにマオの足が凍らされ身動きが取れなくなる。こんなもので止まることはないだろう。だがほんの一瞬とまればそれで十分。マオは迫りくる氷槍に襲われた。こんなものではあいつは止まらないだろう
「燃やしつくす業火の世界 それは常世全てを焼き尽くし 貴方が愛する全てを燃やす 」
「ああ燃やせその総てを ああ焦がせこの我が身を ただその想いのままに荒れ狂え狂気の焔」
「焼き尽くす劫火の剣」
降り注ぐ劫火と赤く輝く剣。それは真下にいる獲物へと落ちていく。瞬間鳴り響く轟音と襲いかかる熱風。ハクは射程範囲内から逃れているから問題ない。あとはマオだが・・・。
「・・・だよな」
そこから起きたことは予想出来ていても認めたくないこと。凍ったのだ。総てを燃やす炎が。爆心地を中心として。
「勝てる気がしねえ」
俺は剣を創り出す。
「うむ、今のは良かったのう」
まるで何事もなかったかのように出てくるマオ。人の心をナチュラルに折ってきやがる。ハクの方も足止めと氷槍にそうとう魔力を込めたのだろう。既に立つこともままならないようだ。
「ハクもそろそろ限界のようだし終わりにするかの」
その言葉が聞こえ俺の意識は暗転した。
◆
「・・・・・・・」
寝起き、最悪。体中が痛い。なにやらされた?全身がボロボロになる程の攻撃を受けたのか?どうやら特に問題なく宿に戻って来たらしい。
「っ~・・・てえなあ。」
俺は起き上ると身体を確かめる。取り敢えず特に問題はない。それを確認すると部屋の扉を開ける。廊下はひんやりとし外の暑さを感じない。俺は一回に降りると誰かいない確認する。
「あ、起きましたか」
「ようロシェル。久しぶり・・・か?」
どうやらロシェルしかいないらしく。あいつらは何処かに行ったようだ。畜生、冷たい奴等め。今の時間を聞き飯を食うと俺は宿を出た。街の中は何時もより人が少なく聞いてみるとどうやら魔王と聖王の戦争で人通りが少ないようだ。まあ、誰だって巻き込まれたくはないだろうからな。教えてくれたおばちゃんにれ礼を言って俺は城へ転移する。
「・・・相変わらずだな」
城の中は魔族の奴らが多い。多いというのはマオの城には魔族以外にも一応いるからだ。構成としては基本的に長寿の奴らばっかりだがな。今は戦争もあるからか全員訓練や警備に精を出している。俺はその様子を横眼で見ながらマオの部屋へと向かう。街にもいなかったから多分ここにいるのだろう。
「マオ、開けるぞ」
「響夜か。入ってよいぞ」
その返事を聞いて俺が扉を開けるとそこにはハクの他にクソ騎士や部隊長の姿がある。
「全員ここにいたのか」
「うむ、先程聖王が軍を動かすと情報が来ての」
成程。通りで全員集合とかありえねえことが起きてんのか。扉を閉めながら俺もハクの隣に立つ。
「それで、どうだったのです」
マオの前一番右端にいる部隊長のガルドスが聞く。容姿はスキンヘッドのおっさんだ。隊長の中じゃ二番目に年取ってる奴だ。その分戦というのを長く経験し中々の腕前だ。
「今、ヴァローナのとこの勇者が先発隊として出発したそうじゃ」
・・・・あいつか。
「で?そのまま進める訳じゃねえだろ?」
「無論迎え撃つ。今回はその為にお前達を呼んだのじゃ」
あいつが来るのか。・・・おもしれえじゃねえか。
「・・・・俺が行く」
その言葉に周りの奴らが俺を見る。マオも俺に厳しい視線を送る。
「響夜、今回は遊びではないのじゃぞ?勝算があってのこと発言か?」
「ああ。あいつに勝ってやるよ。任せとけって」
というか他の奴らにあいつを取られたくねえ。折角あいつが俺を殺すとか言ってくれたんだ。俺も殺しに行くべきだろ。
「・・・。良いじゃろう。じゃが恐らくこのまま戦うことはないじゃろうな。あ奴らも真っ向から戦って勝ち目があるとは思っていないじゃろう」
だろうな。数はほぼ同じ。だが兵一人一人の実力は向こうより此方が高い。尤も勇者や聖女っつう化け物もいるんだが・・・。
「・・・・戦力はほぼ互角ってか?」
「いや、此方の方が上じゃろうな。・・・・主が札を総て使えばじゃが」
何で知ってやがる此奴。くそ、妙に勝ち誇った顔すんじゃねえ。いらっとするんだよ。
「キョウヤ、お前まだ何か持ってんのか?」
ガルドスが少し驚いたように俺を見る。
「生憎、俺はお前ら見てえに才能も実力もねえんだよ」
非力で経験も浅い。そんな状態で勇者と戦ったら殺されるわ。俺は自殺志願者じゃねえんだよ。何時の間にか自殺行為をしてることはあるが・・・。
「使う代わりに配置、俺がやっていいか?俺の持ってる札は味方ごと巻き込む奴なんだよ」
流石にそれは許容出来ないのかマオは少し渋った顔をする。だが実際問題味方がいたら俺は札を使うことが出来ない。むしろ近くにいるのは邪魔になるだけだ。
「いいんじゃないか魔王様。此奴が札を使えばある程度の戦力は埋められるんだろ?」
「無論。決めるのは我々もその配置を見てからですが・・・」
思わぬ助け舟。ガルドスとクソ騎士が俺の意見に賛同してきやがった。ただしクソ騎士。テメェの賛同とか鳥肌超えて蕁麻疹ものだから止めろ。ありがたいが止めろ。
二人からの推薦にマオは他の奴らを見るが特に反対もないのか反論する奴はいない。信頼されてんのか配置を見てからでもいいかと思ってんのか。生憎、頭ぶっとんだ様な配置にしかしねえけどよ。
「・・・・分かった。その配置を見てから考えよう」
第一段階はクリア。俺は思わず顔をニヤつかせた。
◆
「――――――」
一閃、ただそれだけで私の前で構えていた兵士が倒れる。私はその様子を見て一息吐く。
ぱちぱちぱち
私が剣を納めると拍手をしながら近付いてくる影。私はその人物を見た。
「いやあ、やるねえアリア王女様。ここまで戦いが得意な王女ってのは中々いないぜ?」
ノーレン・ヴィ・ヴィスカヴァル。そういえば此奴は先発隊に選ばれていた筈。
「そんな怖い顔すんなよ。美人が台無しだぜ?」
肩を竦めてやれやれといったように言うノーレン。どうやら無意識に彼のことを睨んでいたらしい。尤も悪いとは思わないが。
「まだあの男に剣を向けたの根に持ってんのか?」
これだから女は・・。と呟くノーレンに思わず私は語気を強める。
「貴方は自分がしたことに責任を持ちなさい!彼は貴方に危害など加えていないでしょう!」
「あ~はいはい。それは耳にタコが出来るほど聞いたよ。そんなにあいつに惚れてんのかい」
「ほ!?私は貴方があのようなことをしたからこう言っているのです!勝手な解釈をしないでください!!」
「分かった分かった。お前は別に惚れてない。良く分ったから少し落ち着け」
まだいいたいことはあったけれどもここでは辺りにいる兵士にも迷惑だろう。そう考えた私はそれ以上彼に何か言うのをやめる。
そう、この男は彼、ナルカミ様に危害を加えようとした。それも面白いという理由で。勇者としても人としても決して許されるものでもないだろう。
「で?結局あいつがどこの奴か分かったのか?」
そう、彼の容姿は目立つしウサギという特徴的な使い魔も連れていたから検問で何か知らないか聞いてみたが兵士たちも見たものの何処の者かは分からないと言っていた。従者も連れていなかったようだし・・。
「ま、いいや。今回の戦争。中々楽しめそうだぜ?」
私が悩んでいるとそれを遮るようにノーレンが言う。その言葉の意味が分からず私は首を傾げた。
「魔王と戦えるかもしれないからですか?」
「いやぁ、それも楽しみっちゃ楽しみだが・・・」
彼はそこで言葉を区切ると猛禽類の様な目を細め不敵な笑みを浮かべる。
「それ以上に楽しめることがありそうなんだよ」
ま、あくまで勘だが。そう言うと彼は去っていく。結局彼が私に何を伝えたかったのかは分からない。
「私も気を引き締めなくては・・・・」
先発隊が出たら私の部隊も出発しなくてはいけない。父上は心配していたがやらなくては・・・。
「出来るなら・・・」
どうか人間と魔族が手を取り合えますように・・・。無駄だと分かっていても私はそんなことを願ってしまった。
夜が明けノーレン率いる先発隊は出発した。
感想、批判、意見、評価など良かったらお願いします。
評価ありがとうございます。見てみたら10ポイントも増えてて驚きました。
お気に入りにしてくれた方もありがとうございます!やはり増えるのを見るとつい喜んで舞い上がってしまいます!
お気に入りがだいたい話数-1か2なので「・・・・何か法則でもあるのだろうか?」などと液晶を見てつい呟いてしまいました。・・・恥ずかしい。
お気に入りが話数を抜けるよう頑張りたいのでこれからもこの作品をお願いします!