ああ、はいはい。テンプレですか。勘弁して下さい!!
「今は出来ることをやろう」
byコウタ
俺こと柚木浩太は特にこれといった特別な奴ではなかった。身体能力と成績は平凡。友達付き合いも良好。顔は普通より少しだけ良いというだけ。
特に家族構成に何かある訳もなく今までも友人と普通に過ごしてきた。
「なのにさあ・・・」
異世界召喚ってどういうこと?
◆
俺の現状を説明するには少し時を遡らなくてはいけない。
その日、俺は学校の帰り道を歩いていた。明日友人から借りるゲームに想いを馳せつつ足早に家を目指していた。
「持つべき者は友だな」
そんなことを言いながら歩いていると突然俺の足元が輝き出したんだ。その突然のことに俺は上手く頭が働かなかった。そして気が付いたら
「異世界の者よ。どうか我らに力を貸して下さい」
目の前には白い髪の美少女とたくさんの人がいた。・・・・え?なにこれ。もしかしてテンプレってやつですか?
「え、あ、あの俺、どうしてこんな所に?」
自分でも思った以上に混乱していたらしい。自分でも何から聞いてどう理解すればいいか全然分からない。俺が混乱していると少女の後ろにいた人達の中から恰幅の良い男性が歩み寄って来る。
「此度は済まぬことをした異界の者よ。今は状況を理解するためにも部屋でゆっくりと休んでくれ」
男性は済まなそうな顔をし俺に言う。だが今はこの人のいうことは有難い。正直今の状況を俺は呑み込めていない。
俺は力なく頷くと騎士たちに案内されて宛がわれた部屋に入って行った。
◆
正直に言って泣きたくなった。改めて翌日広間でこの国の王―――俺が召喚された時に歩み寄って来た男性だった―――と謁見した時俺の心には絶望感が広がっていた。向こうでの友人や家族のことを考えると申し訳ないという思いで一杯だった。
それからの二週間は只管に剣と魔法の練習をした。手がボロボロになっても早く元の世界に帰りたいという思いでがむしゃらに鍛錬していた。他の皆も俺の鬼気迫る様子に気圧されながらも心配して何度も休むよう言ってきたが俺はそれを断って剣を振った。
そんな中だった彼女に会ったのは。俺が王立図書館で魔法の練習をしている時一人の少女が声をかけて来た。
「だ、大丈夫ですか?」
見ればそこにいたのは気弱そうな少女。俺を心配そうに見ているその少女に俺は見覚えがあった。
「・・・アリシア王女」
アリシア第二王女。この国の王、聖王の娘だ。長女であるアリア第一王女は男装の麗人という言葉がぴったりな少し堅い人だが第二王女は争いを好まない本当に優しい人だ。
「そ、そのもう夜遅いですしそろそろ休んだ方が・・」
この人は本当に気弱な人だ。軟弱者、弱虫などと言うかもしれないがこの人なりにこの国のことは考えている。
俺は王女の言葉に壁に窓を見る。どうやら熱が入りすぎたようだ。外は既に暗く満月が空高く輝いていた。もう真夜中だということが分かると眠気が襲ってくる。もう少し此処に居たいが王女を送り届けるべきだろう。王城の中とはいっても夜では何があるか分からない。
「そうですね。部屋まで送りますよ」
俺は王女にそう言うとペンや本を片付ける。待たせるわけにもいかないから迅速に片付けると王女に向き直る。
「あ、す、すみません・・・。」
少女は顔を赤くさせながらも申し訳なさそうに言う。
「いえ、俺が好きでやっているのでお気になさらずに」
俺は王女にそう言うと王女を送って行く。部屋に着くまで俺達は終始無言だったが決して気まずい雰囲気ではなかった。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
律義にも王女は俺に頭を下げる。その行動に苦笑しつつもそう言うと自分の部屋へと足を向ける。
「あ、あの!」
俺が帰ろうとすると背後から王女が声をかける。どうしたのだろうかと振り向くと王女は少し照れたように俯き何かを決心すると俺を見る。
「こ、今度一緒にお茶会をしませんか?」
その言葉に俺は少驚く。まさか王女様が俺にこんなことを言うとは思わなかったからだ。王女の善意―――何か本人が勇気を出していたようだし―――を無碍にするわけにもいかないだろうと俺は微笑んで頷く。すると王女は満開の花の様に顔を輝かせる。不覚にもその姿に俺は少しだけ見惚れてしまった。
その後王女とお茶会をしたりしていく内に只剣を振るっていただけの時期が嘘のように俺は笑うようになった。他の兵士やメイドの方ともよく話すようになり俺の荒んでいた心は次第に元に戻って行った。勿論、元の世界に帰るという目的を忘れたわけではないが・・・。
他にも様々なことがあった近隣諸国にも俺と同じ勇者という人物はいるようだ。ただ異世界から来ていたのは俺だけの様だが。それなりに友好的ではあったが中には受け入れられない者もいた。力が全てという者達等だ。人々に安寧を与えるから勇者なのではないかと思っている俺はどうしてもそいつらを受け入れられなかった。
「・・・魔王」
俺は誰もいない部屋の中ぽつりと呟く。俺達勇者が戦う相手。万の軍勢を蹴散らす力を持つ化け物。見たことはないがこの国や近隣諸国は魔王と魔族は敵だと言っていた。当然他の国の中には魔族を受け入れていたりなどもあるようだがこればかりは仕方が無いのだろう。人種が、信じる者が違えば人々は争い、異物を嫌う。それは古今東西歴史が証明している。そのことを俺は悲しくも思ったが割り切った。今まで魔物や山賊との戦いで俺は割り切ることも覚えたのだ。一人で世界が救えるわけではない。俺はそう考え戦争に向けより鍛錬に熱を入れた。
・・・最近知った。聖女様は毒舌だ。
あの日俺を召喚した際に目の前にいた人は聖女様と言われていた。何度か目にすることもあったが巡礼や祈りであまり会うこともなく会っても喋ることは殆どなかった。
つい前日俺は聖女様と話す機会があったが、・・・うん。なんかこう、凄かった。第一声が
「・・ああ、召喚されて頭の混乱したアレな勇者ですか」
というものだ。いや、認識的には確かに混乱もしたしその所為でアレな言動―――テンプレ等々言っていたこと―――があったけど流石にそれは酷いのではないだろうか。
だが国民―――特に子供―――にはとても優しくよく笑っているのを見かける。商店街の皆に聞いてみるがどうやら彼女の毒舌には慣れるしかないらしい。お陰で毎日心に傷を負っている。
「・・・・ハア」
ここ最近のことを思い出し俺は嘆息する。疲れた。一日が三日と思える程の濃密な生活をこっちでは過ごしている。
「・・・・」
魔王を倒せば果たして元の世界に帰れるのだろうか。だが今はそれしか道はなく。何よりも問題なのが
「俺はその時この世界をどう思ってるんだろう」
ふと声に出して言う。この生活を満更でもないと思い始めている自分。けれど元の生活には帰りたいと思っている自分もいる。まるで子供の様だ。どちらも欲しいから得ようとする。やはり人間は欲深い生き物だということが良く分る。
「あ、コウタさん!」
その声がした方向に顔を向けるとそこには笑顔で走って来るアリシア王女の姿。
俺はその姿を見ると座っていたベンチから立ち上がり王女に歩み寄る。またお茶会だろうか・・・。
「あの、お茶会しませんか?」
予想どおりらしい。俺は微笑むと彼女に返事をする。
とりあえず、今はこの瞬間、瞬間を楽しもう。俺はそう思い王女から差し出された手を握った。
◆◇
「・・・・」
マオの下へ殴り込みに行ってから既に二週間近く経った。既に季節は夏―――こちらではどういうんだっけか・・・風の期だっけか――――になっている。マオは最近はあの城にいる。なにやら重要な要件があるらしく連れ出そうとしたら魔族―――あの騎士除く―――が総出で土下座するもんだから流石に連れ出すのをやめた。というかあれは無理だ。全員がガチ泣きしながら土下座してきやがる。騎士は最後まで俺を睨んでいたが擦れ違う時俺にしか聞こえない程度の声量で、済まなかった。とか言いやがった。お陰で耳が腐るし鳥肌が立つわで堪ったもんじゃない。
マオの配下は皆マオのことを大切に思っているらしい。だがどうしても緊張してしまい中々本人と話すことが出来ないと言っていた。何だかんだで愛されているようだ。そしてそれはマオの友人である俺達にも適用されまるで何もなかったかのように俺達に対して友好的に接していた。
その後三日程してエルザはクラウンの呼び出しで帰った。ガルラも元々視察来た為か帰って行った。ハクは俺とマオと行き来してる。それで俺は
「想像・・・・形成・・・」
スキルを見極めている。スキルと言うのは本人が成長するごとに同じく成長していくらしい。何がどう成長していくくことでスキルも成長するのか、というのはまだ分かっていないらしい。最もだ、成長なんて個人で違う。身体なのか精神的になのか技術面なのかそれは数え切れないほどにある。
そして俺は成長したらしくその証拠があの騎士相手に使った神器だ。俺の想像形成は神器を創ることが出来るようになった。尤も戦闘中に創れるわけもなく、時間も掛るし魔力も食われる。そして俺の場合は呪の魔法を取り入れることが多いからハイリスクハイリターンの神器になることがある。と言っても創ったのは焼き尽くす劫火の剣を含めて三つだがな。創るのに約六日。それも魔導具や神器を組み込んで創るから多重能力になりバランスが崩れないよう神経を使う。
そして今は新しい魔法を創っている途中だ。創れれば戦闘の規模次第じゃ相当なものになる。
「やってられねえ」
俺は回路を組み上げるとそれを紙に書き写し倉庫に仕舞う。正直これは辛い、どこをどう創ればいいか頭を使いながら創っていく。マオからの知識が無かったら創るなんて無理だ。最も、複雑な物を創っている俺が悪いのだが。
因みにここは宿の裏庭だ。ロシェルの依頼報酬は此処を貸し出すと言うものだったから有難く借りた。本人的にはまた会えるのならば成功らしい。俺は汗でびしょ濡れになったシャツを近くの水道―――魔石とかいう物から発生しているらしい―――で洗い宿の中に入る。
ギルドの方も爺達が大分苦しんでたが受け持つと言った奴が悪い。精々苦しめ。
「・・・・・・・」
暑さにやられながら俺は向こうの世界のことを考えていた。こっちに来てから既に一ヶ月以上経っている。元の世界がどうなっているのかというのはどうでもいい。ただ向こうに置いて来た奴が心配だ。
「発狂してないかなあ。自殺してねえといいんだが・・・」
死ぬ時は俺に言えと言っていたがやはり心配だ。
「仕方ないか」
向こうに戻る手段もないのに向こうのことを心配しても仕方が無い。というか向こうに戻る気はない。連れてきたい奴はいるが・・・。
そんなことを考えていると念話が入る。恐らくマオだろう。
『響夜、済まぬが戻ってきてもらえないじゃろうか?少し頼みたいことがあるんじゃ』
『あいよ』
俺はそう返事をすると倉庫から指輪を取り出す。転移用の魔導具だ。それなりに値段が張るが一ヶ所だけ登録した場所に転移することが出来る。俺は路地裏に入るとマオの下へと転移した。
「・・・来たか」
帰ろう。もう一つ指輪を取り出そうとした俺の手を騎士は掴む。
「何だ?俺は男に触られて喜ぶ奴じゃないぞ?」
「私だってそうだ。魔王様からの頼みを聞く前に帰すわけが無かろう」
その言葉に俺はうんざりしつつ騎士の手を振り解く。何でこんな奴と顔を会わせなくちゃいけねえんだよ気持ち悪い。俺は騎士から離れる様に足早にマオのいる部屋へと向かう。
「何で追い付いてきやがる」
「貴様より遅れるなど恥だからだ」
俺と騎士はその場で立ち止まり睨みあう。
「あ?何こっち見てやがる。目が腐るだろクソ騎士」
「野蛮な言葉しか貴様の口からは出ないようだな。そんなに罵りたいならゴブリンと会話でもしていろカス」
「「あ?」」
「何をやっておるのじゃ」
俺達が何時でも目の前の敵を殺せるよう構えていると良く知っている声が聞こえる。
「何だマオ。邪魔するなち羽虫がうるせえから殺したいんだ」
「邪魔をしないでください魔王様。薄汚いコソ泥が入り込んでいるので少し痛い目にあわせたいのです」
再び睨み合う俺達にマオは溜息を吐く。
「重要な用件なのじゃ。喧嘩しないで早く来い」
顔は笑っているが目は全く笑っていない。その迫力に俺達は黙って頷き後を着いて行く。
「で?用件って何だ?」
「うむ、勇者たちの件じゃ」
その言葉に俺は納得する。
「済まぬが奴らの場所に潜って作戦の方をの」
「ああ、はいはい。成程ね」
俺は呪の魔法を使えるからその気になれば自分ごと相手を呪って逃げることも出来るし、呪は希少だからそこまで対策を取っている奴も少ないだろう。俺はその言葉に頷く。
「んじゃ、ちょっくら行って来る」
俺がそう言って城を出ようとするとマオが抱き着いてくる。
「あ?」
俺がどうしたのかと目をやるとマオはその顔を赤く染めている。クソ騎士も何時の間にか消えてやがる。野郎、無駄なとこだけ空気を読みやがる。
「き、気をつけてね」
そう言って俺の頬にキスをするとマオは離れる。その顔は茹でダコの様に真っ赤になっている。恥ずかしいならやらなければいいものを・・・。
俺は嘆息すると取り敢えずマオの頭を撫でその場を去っていく。
「勇者たちねえ」
真面目腐った奴らなんかなあ。俺はそんな想像をしながら歩いて行く。
「いやあ戦争は素晴らしいね。どんなに人を殺しても許される」
マオ達が聞いたら少し怒りそうだがこれは俺の本音だ。勇者とやらの首を捥ぎり取ってやりたい。俺は唇を弧の形に歪めながら廊下を歩く。
「また楽しくなりそうだ」
戦争のことを考えながら俺は歩いて行く。目指すのは聖王率いる勇者の国。その名をエクレール。
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はい、勇者です。テンプレです。後悔はありません。
もう少しでクリスマス。・・・・砕け散ればいのに。