成長と再開と二人の少女
「・・・・頑張った甲斐はあったか」
by響夜
「ラァ――――!!」
「シ――――」
互いの得物をぶつけあう。既に百合、いや二百合は打ち合っただろうか。地面には何百もの砕けた武器が落ちている。
「形無き略奪者!!」
その言葉に応じる様に響夜の胸から何百という槍が飛び出す。それは目の前にいる騎士へと迫るが突如騎士の影がの伸び槍を絡め取る。
「そんなもんで止められるかよぉ!!」
形無き略奪者はその姿を霧へと変え影の拘束から脱出する。霧は周囲を覆い二人の姿を隠した。
「我が軍勢よ」
手加減などしない。例えマオの配下であろうとも此奴は完全に屈服させる。
「目の前にある障害を汝等の手によって灰塵へ変えよ」
響夜はその牙を獲物へ向け引金を引いた。
「暴風に潜みし獅子の牙」
放たれる無数の呪いの弾丸。それは霧で姿の見えない騎士を蹂躙していく。
「お得意の無効化も効かねえぜ」
騎士の魔法属性。それは無の属性。聞くだけであれば属性が無いようにも思えるがこれは魔法、魔力無効化の力を持つ。極めればあらゆるものを無へと帰すことも可能とする魔法属性。だが恐らくこの騎士はそこまでの力量には達していないのだろう。そう結論付け響夜はこの技を使った。元が魔力であっても想像形成は物質を創り出す。それは無の属性で消せる物ではない。
だが―――
「―――――」
銃弾の嵐の中を掻い潜り漆黒の影が迫っていた。それを確認した響夜はデザートイーグルとグロックの二丁を取り出し狙いを定める。
「爆ぜろ!」
放たれた弾丸は超高密度の炎の塊となってぶつかり大地を揺るがせた。その炎は影の群れを消し去り霧の中を照らす。
「しぶてえなぁおい」
そこには鎧を破壊されながらも勝利を確信している騎士の姿。
ああ、むかつくな。その面ぁ今すぐ
「見れねえもんにしてやるよ」
瞬間響夜は脚に魔力を集中させ加速する。既に形無き略奪者はその姿を一本のナイフへと変えていた。
「この程度で俺が倒れるものか!!」
心眼で振り下ろされる騎士の剣を響夜は手に持ったナイフで防ぐ。だが騎士の力が僅かに衰えていることに響夜は気付いた。
「あ?しっかり食らってるじゃねえかよ」
恐らくこれは響夜の技による呪いによるものだろう。
「そんなもんじゃ俺の剣は防げねえよ!」
突如響夜の持つナイフは三又の矛へと変わる。
「ぐ―――!?」
その突然の変化に反応できず傷を負いながらも騎士は後ろに下がろうとする。
「神殺しの鎖」
だが下がろうとする騎士の腕に鎖が絡みつく。
「逃がすと思ってんのか?」
見れば鎖は響夜の腕にも絡みついている。両者の距離は2mもない。当然武器を振るえる距離ではない。
「高貴な騎士様には辛いかもなあ!」
響夜は全身を魔力で強化すると騎士に殴りかかる。その行動に騎士は呆気にとられ殴り飛ばされる。だが鎖は逃げることなど許さず響夜は騎士を引き寄せるとその胴に一撃を叩きこむ。
「がッ―――」
騎士がよろめき追撃するように響夜は拳を振り下ろす。だが――
「・・舐めるなよ。侵入者ぁ!!」
その拳を騎士は受け止め蹴りを放つ。
「っだぁ!?ってえな!!」
蹴りを食らい僅かによろめくが響夜は直ぐに体制を整え頭突きする。だが騎士もそれを同じく頭突きで返し鈍い音が響く。
「ざっけんじゃねえぞクソが!」
「ふざけているのは貴様の方だ!!」
騎士は叫ぶと同時に響夜の顔を殴る。
「あの方がどれ程の方かも知らずに連れ回す!!」
騎士は響夜に馬乗りになると何度も殴り続ける。自分の感情を吐き出すかのように何度も何度も。
「あの方は常に命を狙われているのだぞ!傲慢な人間達によって!!」
既に響夜は碌な抵抗もしていない。だがそれでも騎士は殴り続ける。
「あの方は何もしていないのに!!何故あの方がこんな目に会わなくてはいけないのだ!!」
「・・・・知らねえよ」
不意に響夜はポツリと呟き騎士の拳を受け止める。
「んなもん俺が知る訳ねえだろうが!!!!」
響夜は騎士を殴りつけ立ち上がる。
「生き物ってのはなあ。皆そうなんだよ!!全員が自分の欲の為に生きる」
響夜は騎士の胸倉を掴むと叫ぶ。
「あいつが苦しんでる!?だからどうした!あいつはな俺達といる時、心の底から笑ってたんだよ!苦しめたくない!?だったらテメェらが支えてやれば良いだろうが!!」
響夜は自身の魔力を全て解き放つ。
「口でどうこう言ってんじゃねえよ!テメェらが単に臆病なだけだろうが!!」
「ただ閉じ込めることしか出来ねえ奴が一丁前にほざくんじゃねえ!!」
「燃やしつくす業火の世界 それは常世全てを焼き尽くし 貴方が愛する全てを燃やす 」
「ああ燃やせその総てを ああ焦がせこの我が身を ただその想いのままに荒れ狂え狂気の焔 」
空に巨大な方陣が展開され現れるのは圧倒的な魔力と紅蓮に染まる刀身。
「焼き尽くす劫火の剣」
現れた炎の剣は神器に匹敵する程の魔力を持っていた。騎士はその姿に驚愕を露わにする。
「神器だと!?馬鹿なお前の神器は―――」
「無いなら創れだクソ野郎」
響夜の言葉と同時にその剣は真下にいる二人と振り下ろされた。
◆
月明かりに照らされた一室。そこにマオはいた。
「・・・・なんじゃろうな」
城の中が何時もより騒々しいことにマオは微かに疑問を覚えたがどうでもいいかと窓に目をやる。
「此処は相変わらずつまらないの」
「響夜たちといる時は楽しかったのう」
マオは皆で過ごした時間を思い出し微笑する。
「・・・・皆どうしてるかのう」
ハクやエルザ、ロシェル達はは心配しているだろう。響夜は・・・どうだろう。
マオは白髪の青年を思い出し苦笑する。怒ってる・・訳はないか。ふと扉の前が騒がしくなっていることに気付く。それと同時に部屋の窓が砕け散り誰かが入って来た。
「・・・・お久しぶりだ、魔王様」
◆
「くくく、っははははは」
やべえ、もう上手く笑うことも出来ねえ。俺は炎に包まれた中一人立っていた。
焼き尽くす劫火の剣。それは形無き略奪者の一部を混ぜ創り出した神器。本物でないから魔力は相当持っていかれるが悪魔の心臓を所有している俺には関係ない。
その効果は所有者以外の全てを燃やす。神話通り世界を焼き尽くすというものに沿った力だ。ただこれに欠陥があるとすれば
「激痛が襲うってこと位か」
この神器は燃やした物の分だけ所有者に激痛を与える。俺は動かない体に鞭打ち気力だけで立ち上がる。
「殺さなかった分だけ良いと思えよクソ騎士」
俺の目の前に倒れているのは焼き尽くす劫火の剣を食らった騎士。恐らく無の魔法で多少の軽減をしたのだろうがそんなものじゃ俺の神器は止められない。
『・・・響夜君?聞こえますか?』
俺が辺りを見回しているとエルザからの念話が届く。
「何だ?あと君付けすんな」
『マオちゃんの場所が分かりました』
「・・・何処だ?」
『貴方の場所から近いですね。そこから少し先にある城の最上階です』
「了解。分かった」
それに答えると俺は念話をきる。
「・・・・」
俺は騎士を一瞥すると走る。あ~全身が痛い。明日大丈夫かこれ?
俺はそんな呑気なことを考えながらも走って行く。すると中庭を超えやがて見えてくるのは巨大な城の外壁。
「今の状態をいうなら盗賊か?」
俺は苦笑する。うん、意外にピッタリかもしれない。俺は神殺しの鎖を外壁に突き刺すと一気に外壁を昇って行く。急な加速で全身が悲鳴を上げるが無視。そのまま昇って行くと見えてくる一つの窓。
「・・あれか」
俺はその窓ぶち破り中に転がり込む。俺は気配を感じそちらを向く。
「・・・・」
そこには何か信じられないものを見るかの様な目をしたマオ。俺は出来る限り微笑む。っつても王子様みてえのは無理だけどよ。
「・・・・お久しぶりだ、魔王様」
「・・・あ」
マオは此方に近寄る。それと同時に勢いよく部屋の扉が開く。
「マオ!」
「マオちゃん」
そこにいるのはハクとエルザ。二人とも急いだのだろう息を切らしている。
「・・・マオ!!」
マオの姿を確認したハクは笑顔を浮かべるとマオに飛びつく。マオも驚いた表情を浮かべるが涙を流しなら微笑むとハクのことを包み込むように抱きしめる。
「・・・・・」
俺とエルザは顔を見合わせると思わず苦笑。
『・・・良かったじゃありませんか』
エルザから念話が届き俺は泣いている二人を見る。
『・・・・・かもな』
・・・二人を見て知らず俺はそう呟いていた。
その日、夜の世界に二人の少女の鳴き声が響いた。
感想、批判、意見がありましたらどうぞ送ってください。
はい、マオとの再会です。一章?は次の話辺りで終わりです。あとこれからはもしかしたら不定期更新になるかもしれません。・・・と言っても週に最低二つは上げようと思いますが。