殺人鬼は勝ち逃げなど許さない
「ストーカーも不審者も人として結構終わってるよな。殺人鬼?・・・普通だろ。」
by響夜
「・・・・・鬱陶しい。」
俺は目の前にいたゴブリンの頭をデザートイーグルで吹き飛ばす。ゴブリンは短く断末魔の叫びを上げると倒れ地面を赤く染めた。
「・・・依頼は完了か。」
「・・・・キョーヤ。」
俺がゴブリンの死体を見ているとハクがやって来る。どうやら向こうも依頼が終わったらしい。
それを確認すると俺達は依頼完了の証を剥ぎ取り街へと戻って行った。
◆
マオがいなくなって既に四日が経とうとしている。最初はハクも泣き出しそうになるしエルザも混乱していて落ち着かせるのが大変だった。今では落ち着いているが必死にマオの居場所を探そうとしている。
・・・・そして俺は
「で?どうじゃったんじゃ?」
馬鹿に誘拐されている。
「どうもこうもねえよ。今までと同じようにはいかねえんだから苦労してる。」
マオがいなくなった日。あの後マオから供給されていた魔力がなくなった。証自体は消えていないがもう力も感じず今の俺は魔力のないちょっと強い人間だ。この世界だと魔力が無いのは致命的なんだがな。
「まあそっちもだが、連れの方はどうなった。」
また、それか。
俺は小さく舌打ちをして言う。
「あいつが自分で望んで消えたんだ。俺が引きとめる理由もないだろう。」
「まあそうだが。今まであれだけ楽しんで突然消えるのも妙だと思うぞ?」
考えられるとしたらあの不審者騎士だがそしたらあいつは魔王の関係者か何かということになる。
「・・・・何にしてもあいつの場所が分からねえんだから仕方ねえだろ。」
まあ、嘘は言ってねえ。実際あいつが今何処にいるのかは分からねえんだから。
「お前がそういうなら俺は何も言わないがな。」
「そうかよ。じゃあな俺はもう行くぞ。」
俺は席を立つとガルラに背を向けて歩き出す。
まさかあいつにまで言われるとは・・・。
◆
通りに出た俺は今宿へと向かっている。宿に戻ってもロシェルが煩いがあそこしか帰る場所が無いのだからしょうがない。・・・・・俺が家無き子のように思えてくるから不思議だ。
いや、でもあいつしつこいだろうからな・・・。
「・・・・・どうすっかな。」
・・・・金は問題ない。だが宿に帰ればロシェルからマオのことについて聞かれる。まじでどうするか・・・。
「・・・・・・・あ?」
俺はふと後ろを振り向く。
・・・・・なるほど。
「前世はストーカーかなんかなのかね。」
俺は思わずそう呟いて前を向く。
ああ、丁度いいところに獲物が来やがった。
俺は思わず嗤いそうになるのを抑える。お客様には丁重な御持て成しをしなくては・・・
「ああ、なら――――。」
最上級の御持て成しをしようか。
俺は宿へ向けていた足を街の門へ向けた。
◆
街の外に出た俺は今街道を逸れ森の中を歩いている。
「・・・・・・。」
街からは大分離れたか・・・。
俺はそこで足を止め後ろを振り返る。
「よう、ストーカー騎士。追い掛けるなら女の尻にでもしとけよ。」
俺は木の後ろに隠れているであろう男に話しかける。男もバレているという事には気付いていたのだろう少しの間をおき出てくる。
「・・・・・・。」
無言で俺を睨み付け男は腰に下げてある剣を抜く。
「・・・随分嫌われたもんだ。」
俺は騎士の様子を見て肩を竦める。まったく、人の話を聞かない奴らが多すぎる。
「―――――――死ね。」
男の姿がぶれ一瞬で俺の目の前に現れる。
速い!?
俺はスキルである魔神の観察眼を発動させその攻撃を躱していく。鬼神の武勇伝と魔神の観察眼は魔力が無くとも発動できる。恐らくこれは俺の元々の特技と能力だからだろう。
「テメェが死ね。」
俺は手に持ったナイフを騎士の眉間へと投げる。
「――――ッ」
その攻撃を騎士は仰向きに倒れ込むようにして躱す。その隙に俺は騎士の首目掛けてナイフを投げる。そのナイフはあと僅かというところで見えない壁のような物に弾かれた。
「なら―――」
俺は懐からデザートイーグルを取り出し銃口を向ける。弾も残り少ないがケチ臭いことは言ってられねえ。
「こいつでどうだ!!」
俺は騎士に向けその引金を引く放たれた銃弾を追うように発砲音が鳴る。だが続く断末魔は聞こえず血飛沫も上がらない。
「・・・・終わりだ。」
俺の背後で剣を振り下ろそうとしている騎士。その頬には浅く傷がついていた。
「っ!?くそ!!」
俺は咄嗟にナイフで剣を防ごうとするがナイフは一瞬で両断され―――――俺の身体は真っ二つに切り裂かれた。血飛沫を上げながら倒れる俺が見たのは此方に手を向け魔力をためている騎士の姿だった。
「消えろ。」
「・・・形無き略奪者」
魔力が無いことも忘れ思わず俺は魔剣の名を呼んだ。
その瞬間光が俺を飲み込んだ。
◆
私は丁度、喫茶店の中にいた。周りからは相変わらずの羨望や嫉妬が入り混じった視線。
「・・・・・はあ。」
思わず溜息を吐く。戦乙女と呼ばれていようと私だって一応人間なのだ疲れだって感じる。
「・・・・マオちゃん大丈夫かな。」
私はあの日のことを思い出す。もしあそこで私やハクちゃんが一緒に着いていけば・・・。そんなありえないifの物語を考えてしまう。私は自分に叱咤する。今更そんなことを考えてもしょうがないのだ。
「・・・・・・。」
よく考えれば三人は私を普通の視線で見ていた。世に名が広まれば皆私のことを普通の人としては見てくれなくなる。覚悟していたけれどやはり少し寂しい。ガルラや他のクラウン達の有名人は私と対等に接してくれるけど正直他の一般の人は私のことを対等な目で見てはくれなかった。
「そう考えると友達なんてあの子達だけかも・・・。」
・・・約一名捻くれているけれど。そんなことを考えて思わずクスリと笑う。
「よし、マオちゃんを探さないと。」
私が席を立とうとすると丁度通りに見覚えのある白髪の青年―――響夜君がいる。
噂をすればなんとやら・・。
私は青年から話を聞こうと会計を済まし店を出た。
「とはいえ・・・どこにいったのかな。」
青年を追い掛けたは良いけど見失ってしまった。門を出て行ったのは見えたけど・・・。
「魔物に会ったら大変なのに・・。」
響夜君―――本人は君を付けるなと言うけど―――はマオちゃんから魔力を供給してもらっていると言っていた。今は魔力の供給がないと聞いていたのに厄介な魔物に出会ったらどうするつもりなのか。・・・・これはマオちゃんが帰ってきたらハクちゃんも入れてお説教しなくては。
「・・・・でも本当に何処だろう?」
引き返そうにもやはり心配だし・・・でも何処にいるか分からないし・・・。
「・・・・・どうしよう。」
私は頭を悩ませる。・・・本当にどうしよう。そんなことを考えると森の中から突然巨大な
魔力の反応を感じ取った。そして続くもう一つの巨大な魔力。
「・・・響夜君!?」
思わず私は叫んでいた。彼は魔力が無いと言っていたのに・・・。
私はその魔力の感じた場所へと向かった。
「・・・・くっ。」
早く・・・早く・・。
私は歯噛みする。コンマ一秒でも遅く感じてしまう。そんな感情を抱きながらも私は全力で駆けて行った。
◆
俺は目の前に広がっていた光景に茫然とした。
「・・・・どういうことだ。」
俺に放たれた光は目の前に広がっている円状の盾にそれ以上の侵攻を阻まれていた。
何よりもその盾は・・・
「・・・形無き略奪者」
咄嗟に名前を呼んだとはいえ魔力のない俺が出現させられる訳がない。なら何故・・・。
「~~~~~!?」
驚愕から落ち着いてきていた俺に襲いかかる激痛。くそ、そういや切り裂かれたんだったな。
「・・・・・・・切り裂かれた?」
おかしい。どうして傷が塞がらない?悪魔の心臓は俺への魔力供給が無くとも勝手に動いていた。魔剣が出てきたのと関係してるのか?
・・・・まさか。
「・・・・・っ。」
俺がある結論を出そうとしていると激痛と共に視界がぼやける。・・・・くそ、思考が回らねえ。
俺が意識を失いかけているからか、形無き略奪者の形も朧気になっていく。
「――――」
まずい。そう思いながらも体はその意思に反し俺はうつ伏せに倒れる。徐々に地面には赤い血溜りができていく。
「響夜君!!」
・・・俺は地面に倒れ薄れゆく意識のなかそんな声を聞いた気がした。
◆
・・・目が覚めた俺の目に映る身に覚えのある天井。どうやら自室にいるようだ。俺は周囲に目線を移す。
「・・・・・。」
目が覚めたら知り合いが斧を振りかぶってるってどう思います?
「死ねええええええええええええい!!!!」
「ふざけんなああああああああああああああああ!!!!!」
俺は起き上るとすぐさまベッドから抜け出す。そして振り落とされた斧。見事ベッドは破壊されそこにはベッドと呼べるような物は無くなっていた。
「・・・・それだけ元気なら問題あるまい。」
「テメェに問題がありまくりだボケェ!!!」
やりきったような顔で頷くガルラを俺は蹴り飛ばす。普通病人に斧を振り下ろす奴がいるか!
「どうしたの(んですか)!?」
その音を聞きつけハクとエルザがドアを開けて入って来る。ハクがここまで心配していることに少し驚いた。
俺は無言で立ち上がっているガルラを指差す。二人はそれを見ると笑顔で魔法を放つ。顔は笑っているのに目が笑ってねえ。てか此処室内なんだが・・・。
「・・・・おい、落ち着けお前ら。」
俺はガルラを嬲っている二人に若干気圧されながらも言う。二人はまだ多少の不満はあるのか渋々といった様子で離れる。
「・・・・・怪我、大丈夫?」
ハクに言われ俺は自分の体に目を向ける。傷はもう完治している。どうやら悪魔の心臓が今度は機能しているようだ。
「ああ、大丈夫だ。・・・誰が俺を助けたんだ?」
俺はその人物について聞く。もし他人だったら色々と面倒臭いことになる。
「それは私です。貴方と別の魔力を感じたので・・・。」
「そこにもう一人騎士っぽい奴はいなかったか?」
その言葉にエルザは少しの間をおいて答える。
「・・・いましたが、逃げられました。幸いあの人物の魔力は覚えましたのである程度の追跡は可能です。」
魔力の追跡とか・・・。俺達三人は驚愕に満ち溢れた目でエルザを見る。
「・・・私一応クラウンの一人なんですけど。」
部屋の隅でエルザは体育座りをし「の」の字を書き出す。俺達はそんなエルザを視界に入れないよう体をずらして話しあう。
「その騎士・・どうしたの?」
「あの似非騎士。もしかしたらマオの関係者かもな。」
最初はガルラやエルザの可能性もあったがエルザはそんなことをする奴ではない。ガルラも考えていたが決闘が終わった後に戦いを挑むのもおかしい。殺したら決着もつかない。
「ホント!?」
珍しくハクが声を大にして言う。
「ああ。と言っても多分だが・・。」
「で、お前は行くのか?」
ガルラはニヤニヤしながら俺に聞く。うぜえ。
「・・・・行くわけねえだろ。」
俺は二人に背を向けドアに手をかける。
「・・・ほう。」
「「・・勝てないから逃げるのか(んですね)。」」
背後の二人の声に俺は後ろを向く。
「ああ?」
そこにいるのは何時の間に復帰したのかエルザとガルラ。
「勝ち逃げされてもしょうがないですよね?」
「魔力が無いと何も出来ないからな?」
分かりやすい程の挑発。
「勝手に言ってろ。」
俺はそう言ってドアノブを回し下へと降りて行く。
「響夜さん!怪我は大丈夫なんですか?」
また面倒臭いのが。俺は心配してくるロシェルに適当に返事をし席へと向かう。
「何でここにいんだ爺?」
のんびりと飯を食っている爺に話しかける。此奴はこんな所には来ねえ筈だが。
「主に用がの。」
そう言って渡されるのは一枚の依頼書。俺は爺の顔を一度見ると依頼書に目を通す。
「・・・・・。」
「これは立派な依頼。それに主当ての依頼だから何も心配することなどない。好きなだけやってくるといい。」
その言葉に俺が爺を見ると爺は不敵な笑みを浮かべる。
「・・・・主も男なら勝ち逃げなど許せんじゃろ?」
「どうなっても知らねえぞ?」
「クソ餓鬼の世話位どうということはないわ。」
爺は豪快に笑う。見ればロシェルもその小悪魔っぽい笑みを浮かべている。
「・・・・・きょーや。」
俺達が笑っているとハクが降りて来た。その姿からは沈んだ様子が感じられる。
「丁度いいところに来たな。」
俺はそう言って先程渡された依頼書を見せる。
「案内はエルザにでもさせる。準備しとけ。」
その依頼の内容を見たハクは先程から一転その顔を輝かせる。
「・・・うん!」
急いで準備をしに行くハクを見ながらもう一度爺を見る。
「悪かったな。あんたに責任押しつけちまって。」
「構わんよ。儂とガルラ達の権限を使えば問題ない。どうせ主もそこを気にしていると思ってたしの。」
「まさか、俺はこのまま放っとこうと思ってたしな。」
「そういうことにしておくかのう。」
俺の言葉に爺は愉快そうに笑う。そんなことをしていると既にハクが降りてきていた。早いなおい。どうやらエルザも連れて来たらしく早く早くと催促している。
「んじゃ行ってくるわ。」
俺は隣に座っている爺にそう言うとハク達の下へと歩く。
そんじゃ、ちっとばかし躾をしに行きますかね。
依頼書
依頼先 キョウヤ・ナルカミ
・マオ・オメテオトル・ヘーラーとの再会
・報酬金 ―――
依頼主 ロシェル・ブレンダー
感想、批判、ご意見がありましたらどうぞ送ってください。
ようやくてすとが終わり四日五日ぶりの投稿です。もうすぐ一部・・一章?ももうすぐ終わりますので頑張りたいと思います。クリスマスまでには・・・なんとか。