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殺人鬼は異世界に来てしまったようです  作者: ひまめ
殺人鬼と漆黒の御姫様
20/91

殺人鬼の決闘そして加速する物語

「・・・・勝手に決めてんじゃねえよ。」

                  by響夜




 今回長いです。恐らく過去最高の長さです。


「・・・・・・。」


人混みのなかを歩かないというのは実に素晴らしい。お陰で殺人衝動も何時もより控え目だ。

まあ、それ以外の問題があるんだが・・。

俺は左右にいる二人を一瞥する。


「どうしたのじゃ?」


「・・・?」


「いや、何でも。」


首を傾げる二人に俺はそう言って溜息を吐く。

さて、どうするか。決闘のこともあるがその後が一番の問題だ。どうやって逃げるかを考えておかないといけないからな。


「・・・・・・やってられん。」


そう呟きながら歩いて行くと何時もの訓練場の前でエルザが立っていた。


「あ、おはようございます。」


「ああ。」


「おはようなのじゃ。」


「・・・おはよう。」


笑顔で挨拶をしてくるエルザに俺達はそれぞれ挨拶をする。


「どうしたんだ。」


待つなら訓練場の中でもいいはずだが・・・。


「あ、いえ。ガルラが暴れるのに訓練場ここでは狭いと言ってあの中に・・・。」


そう言ってエルザが見るのは何やらドーム状に結界が張られた訓練場より一回りでかい建物。


「ギルドと軍が共同で管理している中で一番大きい闘技場ですよ。」


軍、というのは国の為に戦っているものだ。地球むこうとそう変わらないな。ただ軍は国の為に戦っていることに誇りを持ち自分のことしか考えていないギルドを嫌っている奴が多いらしい。エルザも軍の一員だがギルドのことを悪くは思っていない。むしろ友好的だ。


「私はそれを伝えようと思って待ってたんですよ。」


野郎勝手なことを・・。


「お陰で訓練していた方がぜひとも・・・見学しようとしてます。」


・・・・・・マジでぶっ殺そうかな。

エルザの言葉で俺の殺意が増す。三人は俺の表情かおを見て苦笑する。俺今どんな顔してるんだ?


「・・・なら早く行くぞ。これ以上見学人が増えるとか言ったら洒落にならねえ。」


俺は三人に言うと早くも重い足取りでガルラのいる闘技場へと向かって行った。


 ◆


「・・・・・・・・。」


闘技場、と言うよりも外と言った方がピッタリだろう。より実戦に近いようにするためかなかには植林がされた森のような景色が広がっている。他にも様々な場所が造られていたがあいつが何故こんな場所を選んだのかはよく分らない。・・・いや、見学人から見え辛いから俺には中々良い場所だが。

その中を中央に向かって歩いて行くと直径が200m程の石造りの円形の舞台フィールドそこにガルラがいた。両手に無骨な巨斧を持ち目を瞑っている。


「・・・・来たか。」


まるで嵐の前の静けさとでも言うべき声色。その決して大きくない声は嫌に響いた。そして感じる巨大な殺意の塊。ガルラは両目を開けると巨斧を片手で持ち上げ俺に突き付ける。


「ここへ来い。」


「・・・・。」


・・・本気か。

俺は舞台に上がり奴の目の前で止まる。


「よくぞ応じてくれた。」


この前からでは考えられないほどの真剣な表情。その顔は正しく武人の表情かお

面白い。


「いや、俺の方こそあんたみてえな奴と戦えるんだ。感謝するのは俺の方だ。」


俺の言葉にガルラはニヤリと不敵に笑った。


「ならば共に全力で戦おう!!」


ガルラは巨斧を振り上げる。


「ああ、俺を楽しませてくれよォ!!」


俺は全身に魔力を巡らせ奴へと駆けた。


 ◆


一言で言うなら嵐。それが響夜がガルラの攻撃を見て感じたことだった。荒れ狂う嵐のように周囲にある物を例外なく破壊する。その中を響夜は前へ進んでいく。後ろに下がってはいけない。

何故かは分からない。ただ本能が下がることを拒否している。


「オオオッ――――!!」


 ガルラが振り下ろした巨斧による一撃。それは響夜を確実に捉え粉砕する筈だった一撃・・・・・・・・・・


「だ・・・ラァ!!」


その一撃を響夜は自分魔力を纏った拳で無理矢理軌道を変える。弾き飛ばされた斧は響夜の傍の地面を砕き衝撃は響夜を巻き込んで周囲にあるものを吹き飛ばす。


「(・・・・何本かやられたな。)」


響夜は軽く舌打ちをする。だがそれも直ぐに治っていく。ガルラは僅かに眉を動かすが特に何か言う気はないらしく再び構える。


「(・・・・気付いたか。)」


自身の魔力を持たない響夜だけが持つ異常性。悪魔の心臓グリモア・ハートは常に稼働し決して所有者を殺させない地獄の神器。

そして再び響くのは破壊音と互いの得物ぶきが交り合う音。それは響く毎に闘技場を破壊し嵐が通ったかの如き跡が残るのみ。

それはたった二人の人間によって起こされた破壊。そしてその二人の均衡は揺らいでいた。


「がっ・・・!?」


振り下ろした巨斧の一撃を囮にし響夜の腹へ強烈な一撃放つガルラ。そこでその手を止めることなどなくガルラは神速ともいえる一撃を次々と放っていく。響夜はその連撃を紙一重で躱していく。

周囲の目が多少とはいえあるここでは響夜は想像形成を使うことは出来ない。頼れるのはこの世界の魔法と予め創っておいた武器そして――――


「形無き略奪者ジェロジーア!!」


響夜の現在最強たる武器―――魔剣の名を呼ぶ。


「!?」


それは一瞬。ガルラが響夜へその巨斧を振り下ろそうとした瞬間響夜の胸から紅蓮の如き輝きを放った槍が放たれる。

その一撃はガルラを確実に貫ける威力をもったモノ。故に食らえばただでは済まない。


「ハアッ――――!!!」


振り下ろしていた巨斧の軌道を変え槍へぶつける。そして巻き起こる爆風。それは両者を飲み込み爆発した。


「・・・・それがお前の切り札か。」


「ああ。これが俺の切り札だ。」


響夜は形無き略奪者ジェロジーアを薄く霧状に展開する。


「・・・・・む?」


「これでもう俺達の戦いは誰にも見られない。」


響夜の背後の空間が揺らぐ。


「さあ、存分に戦え。我が軍勢レギオンよ。」


その空間から現れるのは無数の銃口。ガルラはこの武器を知らないだろう。当たり前だこの世界に科学など無いに等しいのだから。


「目の前にある障害を汝等の手によって灰塵へ変えよ。」


そして銃口が赤く染まっていく。放たれるのは無数の呪いが掛けられた弾丸。それは一切の抵抗を許さずに蹂躙していく。


「暴風に潜むし獅子のシュトゥルムヴィント・シュトースツァーン!!」


「閃光纏いし爆音ブリッツ・レルム!!」


俺の詠唱と同時に魔法は発動しガルラもまたこれを危険と判断したのだろうその巨斧に光が集まる。そして銃弾が放たれた瞬間ガルラは地面にその巨斧を叩きつける。


 ◆


ドオオオオオオオオオォォォォォン!!!!


今までの比で無い程の爆発音。そして世界が揺れたかのような衝撃。それは霧の外にいる見学人達にも及んでいた。


「・・・・・。」


「凄いですね。」


「・・・うん。」


それは当然三人も感じていた。目の前にある霧とそこから放たれる魔力によって透視の魔法も狂わされ中を覗き見ることは許されなく。何が起こっているのかは見当もつかなかった。


「・・・・?マオ?」


「どうしたんですか?」


先程から黙り込み他の見学人がいる席を見ているマオに二人は首を傾げ尋ねる。


「・・・え?あっ、ううん。何でもないのじゃ!」


マオは二人の声に慌てて答える。二人はそれに首を傾げるが本人が何でもないと言うのならと霧へと目を向けた。


「・・・・・・・。」


その中をマオは只一人何かに耐えるように目を伏せていた。


 ◆


「死に晒せぇ!!!」


 響夜は空中に断頭台ギロチンの刃を展開する。その数四十。その全てが敵を斬り裂かんと殺意を剥き出しにして襲いかかる。


「笑止!!」


 その牙をガルラは手に持つ巨斧で薙ぎ払う。その斧は刃を光輝かせ一撃の下次々に刃を砕いていく。


「神殺しのグレイプニル!!」


響夜の(あるじ)の声に応えるように神器である魔狼を縛る鎖はガルラへと疾走する。


「神器だと!?」


 その内包されている魔力を感じたガルラは避けることに集中する。襲いかかる鎖を躱し、弾く。だがそれは縛られる時を遅らせるだけ次第に鎖は獲物を縛り付ける。


「――――ッ」


 ガルラは拘束されて尚鎖を破壊しようともがく。


「無駄だ。」¥


 神器は神器でしか破壊できない。それは決して覆されないこの世界の真理。響夜はガルラへとグロックの照準を合わせる。


「死ねや。」


 その言葉と共に放たれる銃弾。だが―――


「死ぬのはお前だろ。」


 ガルラの言葉と共に響夜の真上に七つの光の輪が出現する。


七天光輪しちてんこうりん


 直後、光輪は響夜へと飛来する。


「ちぃ―――――!!」


響夜はそれに気付くと照準を光輪へと合わせ放つ。僅かだが意識が逸れたことによって神殺しのグレイプニルの拘束は緩む。その一瞬を逃さずにガルラは拘束から抜け出し響夜へと疾走する。


「舐めるんじゃねえ!!!」


響夜は空間からパンツァーファウストを呼び出しガルラへと放つ。それは目の前の地面へと直撃しガルラは爆風に飲み込まれる前にそこから飛び退く。

そして響夜もまた目の前に迫っていた光輪の幾つかを破壊すると霧状に展開していた魔剣を大剣へと変え残りの光輪を破壊する。


「「―――――!!!」」


ぶつかりあう巨斧と大剣。最早言葉を出す暇すらない。ただ目の前の敵を破壊する。ふたつの力による衝撃で既に周囲は無残な姿へとなり果てていた。


「づ・・・オオオッ――――!!!」


 振り下ろされた一撃を響夜は大剣を盾代わりにすることで防ぐ。そのまま響夜は巨斧を押し返した。それによってガルラは仰け反り響夜はそこへ大剣を振り下ろす。


「汝が纏いし聖なる羽衣。それを持ちて我が身を護る盾となれ!」


 ガルラの身体が淡く光り、大剣がぶつかる。


硬い。それが響夜が感じたことだった。まるでコンクリートの壁を鉄パイプで殴ったかのような衝撃が走り手が僅かに痺れる。


「ハアッ!!」


 振り下ろされる右腕。響夜は衝撃によってそれを躱せず殴り飛ばされた。


「があ!!」


 吹き飛ばされた響夜はすぐさま起き上り体制を整える。両社はすでに息も絶え絶えになり足元もフラフラと覚束無くなっている。


「くくく―――」


「ふ、かかか――――」


「「はははははははははははは!!!!」」


笑い。この状況になろうとも二人は戦いを楽しんでいる。


「よう、強いじゃねえか。」


「そう言う貴様こそ。中々強いな。これまでお前の噂を何故聞かなかったのかが不思議に思える。」


 笑いあう二人は。既にもう殆ど体力は残っていない。なら――――


「一撃で終わらせてやるよ。」


「倒れるのは貴様だがな。」


 互いの武器に集中する魔力。それは大気を震わせ見学人達も目を剥かせた。


「死ね。」


「お前がな。」


 互いに振り下ろされる一撃。正しく自らの全て込めた一撃。その結果は――――


 ◆


二人を覆っていた霧が消える少し前。三人にも動きがあった。


「・・・・。」


「マオ、どうしたの?」


「何でもないのじゃ。・・・・少し忘れ物してしまったから一回宿に戻るぞ。」


 問いかけるハクにマオは笑って言い席を立ちあがった。その表情には僅かに影が差していたがハクが付いていくと言うと。


「大丈夫。」


と言い。闘技場から出ていった。




「・・・・・・・。」


 誰もいない通路。そこでマオは二人がいる場所を見る。


「・・・それで、何の用じゃ。」


 マオがそう言うと通路の陰から一人の男が現れる。


「お探ししました。魔王様。」


 その男は一礼するとマオを見る。上等な騎士服を着その姿はまさしく忠義ある騎士の姿だった。


「・・・・用件は?」


「城にお戻りください。」


 目の前の騎士の言葉にマオは溜息を吐く。


「断る。我はあのような退屈な場所にいたくはないのじゃ。」


 マオはそれを断るが騎士も引く気などない。


「聖王が勇者を引き連れ進攻してきます。」


 その言葉にマオは驚愕を露わにした。


「なんじゃと!?そのようなことは聞いておらぬぞ!!」


「今回のことは内密に進めてきたようで、異界の地の者を呼び出したようです。」


 騎士はただ淡々と真実だけを告げていく。だがその瞳は事の重大さを伝えている。


「魔王様。城へお戻りください。我らには魔王様が必要なのです。」


その言葉にマオは俯く。だがやがて意を決し―――


「分かった。」


 

 ◆


同時刻、ぶつかりあった二つの力も終わりを見せた。


「・・・・化け物じゃねえの?」


「・・・その歳でここまでの力を持つお前に言われたくはないな。」


 膝を着き荒い息で話す二人。マオから魔力供給のある響夜は魔力で無理矢理戦うことは出来るが肉体はほぼ限界。ガルラもまた気力で戦い抜くことは出来るだろうが魔力はほぼ無いと言っても過言でない。


「・・・・引き分け・・いや、」


「決着は持ち越しっつうことで・・・。」


響夜とガルラは互いを見る。考えは同じだった。


 引き分けなど認めない。


 ただ互いに目の前にいる男と引き分けたと認めたくないだけの子供だ。だがそれでも構わなかった。再びこうして戦えるのなら・・・。


「疲れちまったよ。」


「全くだ。だが・・・・いいのか?」


 ガルラの言っている言葉の意味が分からず響夜は首を傾げた。


「俺達が認めないとはいえお前は俺と互角に戦った男だぞ?」


その言葉に響夜の頬が引き攣る。


「見るがいい。見学人はお前に興味津津だ。」


 響夜は魔剣を霧状から大剣へと変えてしまったことを思い出す。それはつまり外界にいる見学人からは丸見えになったということで・・・。


「逃げるなら今のうちだぞ。」


 その言葉が終わる前に響夜は走り出していた。動かぬ体に鞭を打ち必死に走っていく。それをみたガルラは苦笑を浮かべていた。


「・・・・・まだまだ若いな。」


「・・・ええ、彼は若いのにあれだけの実力を持っている。」


 何時の間に隣に移動していたのかエルザが立っていた。


「まさかあれほどの剣・・・そして神器も持っているとは思わなかったぞ?」


「ええ、私も初めて見た時は驚きました。」


 エルザは笑う。


「まあ、今は奴が見学人に捕まらないのを祈るか。」


 二人は逃げて行った青年の姿を思い出し苦笑した。


 ◆


「ああ!鬱陶しい!!」


響夜は今屋根の上を昇り走っていた。既に闘技場からは随分離れていた。流石にもう追ってこないと判断した響夜は速度を下げる。


「・・・・・しつこすぎだ。」


 空は曇り、小雨が降っていた。


『・・・・響夜。』


 宿へと足を向けていた響夜に声が届く。


「・・・・マオか。どうした?」


 マオとの契約の証。それにはマオとの念話の機能もあった。


『・・・響夜、あの・・・。』


 何というか何時もより元気がない。

 そう感じた響夜はマオの名前を呼ぶ。


「マオ?」


『・・・今まで楽しかったのじゃ。響夜と会って、・・その色々あったけど一緒に依頼を受けたり、ロシェルも交えて話して、ハクとも友達になれて・・・。

 たくさん笑って、毎日が夢のような日々だった。凄く楽しくて凄く充実してた。』


 マオは少しまるで泣くのを我慢しているかのような声色になっている。

 響夜はそれを聞きながら考えていた。


「・・・・・・。」


 それではまるで、いなくなってしまうかのようではないか。


『・・・・何より響夜と一緒にいる時間はとても楽しかったのじゃ。』


「おい、マオ。」


『・・・・今日の約束は忘れて。・・今まで楽しかったよ。』


「おい、聞いてるのか!マオ!!」


 自然と響夜の走る速度は上がっていた。


『・・・・ハクにもごめんって言っておいて。』


「マオ!!」


『さようなら、響夜。』


 気が付けばもう響夜は宿の前に着いていた。響夜は宿の扉を開けると返事もせずに借りていた宿の部屋へと飛び込む。


「・・・・・・・・。」


 何もない部屋。置いてあるのは最初からこの部屋にあったベッドと椅子、そして机。

 響夜は部屋に入ると部屋を見回す。見れば机の上に一枚の紙が置いてあった。


「・・・・・・・。」


 響夜はその手紙を手に取る。

 書かれているのは謝罪の文と今までのこと。楽しかったという言葉とごめんという言葉。

 その文面に響夜は俯き手紙を握りつぶしていた。


「・・・・・・馬鹿野郎が。」


 外はただ暗雲と土砂降りの雨が広がっているだけだった。


感想、批判、意見がありましたらどうぞ送ってください。



はい、今回凄い長いです。あと今までの文でこれからグレイプニルも神殺しの鎖と神器等の名前も統一しようと思います。

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