殺人鬼は過ちをおかそうと考えるのか?
「・・・・・記憶消す神器ってねえのか?」
by響夜
不審者――騎士かどうかよく分らないからだ――に襲われてから俺は念の為警戒し一睡もしなかった。お陰で目の下には隈が出来た。どうやら気持ちが昂ぶっていない時は相当気が緩んでいるっぽい。絶対にここの奴らの所為だ。そう思いながら俺は眠っている二人を見る。呑気でいいなあ。などと平和なことを考えてみる。
「・・・・・・ふぁ。」
俺が椅子に座り魔力の扱い方の練習をしているとハクが眠い目を擦りながら起きた。
「・・・はよう。」
「おはよう。」
寝起きだからか舌足らずな感じだがハクは俺に挨拶をし―――――何故か俺の膝に座る。
「どうした?」
俺は座ったままのハクを見た。
「キョーヤ・・・眠ってない。」
「ま、色々あってな。」
俺がそう言うとハクは俺の膝から退き手を引っ張る。
「?」
「寝ないと駄目。」
その言葉に首を傾げていた俺は納得する。
わざわざ俺に気を使うとは・・。
「済まないな。」
折角俺のことを考えて言っているのに無下に扱うわけにもいけないだろう。
俺は立ち上がると空いているベッドに向かうが服の袖を掴まれた。
「こっち。」
そう言ってハクが指差すのはマオが寝ているベッド。・・・・マジか。
「ハク、そっちはどう見てもマオが寝てるだろう。」
俺の言葉にハクは頷くが諦めず口を開く。
「・・・・皆で寝たい。」
「・・・・・・。」
・・・凄いハクにぴったりな考えだと思ったのは秘密だ。
だがそれで三人で寝る理由にはならん。というか三人で一つのベッドは無理があるだろ。
「・・・・・・・。」
止めろ。瞳を潤ませるな。泣きそうになるな。俺が泣かしてるみてえだろうが。
「・・・・きょーや。」
クソが。俺は悪くねえのに何でこんな罪悪感を感じなくちゃいけねえんだよ。
「わーったよ。分かったから泣きそうな面すんな。」
俺はそう言ってハクの頭を撫でる。
「・・・ん。」
ハクは満足そうに頷いてマオが眠っているベッドに飛び乗る。僅かにマオが呻くが起きる気配はない。余程深い眠りなのだろう。
ハクはマオの隣で横になるとマオが眠っている場所とは逆の場所をポンポンと叩く。それ以上煩くなってマオが起きるのも面倒なので俺はハクの右隣で横になる。
「・・・・おやすみ。」
「ああ・・。」
正直、その言葉にちゃんと返せたかどうかは分からないが俺は直ぐに眠ってしまった。
◆
ほんの数分か――――体内時間としては――――そこらで起きた気がした。
「・・・・・・・。」
丁度昼間だろうか。真上に昇った太陽の光の所為で眩しい。ふと腕が動かないことに気付いた俺が隣をみると―――――――黒いのと白いのが枕にしてやがった。
この状態を表すなら川の字だな。てか、実際にそうだ。
「・・・・・・くそ。」
俺はすやすやと眠っている二人を見て悪態を吐く。腕が抜けねえ。
「・・・・・そういえば人間じゃねえな。」
うん、片方は魔王でもう片方は獣人(?)だったな。人間の腕力で勝つのってほぼ無理じゃね?
まあ、この程度で俺が諦めるわけねえけどさ。
「・・・・っと。」
・・・・・・うん、無理。開始3秒で詰んだ。
今、腕の筋肉繊維が千切れる様な音したからな。此奴らどんだけガチの睡眠してんだよ。此奴らと寝る奴は間違いなく自殺志願者だな。
「・・・・腕千切るか?」
いや、多分返り血で起きるだろうから俺が無駄に痛みに悶えるだけか。・・・・どうする。
「これで空の練習でもするか。」
扱う奴によっちゃ転移も出来るらしいからな。
俺はそう考えると魔力を集中させる。想像形成で創ればいいのかもしれないが想像形成での魔法は通常の魔法とは構成が違うから見る奴によっては気付かれるらしい。だったら少しでも多くこの世界の魔法を出来るようにしておくべきだろう。
「・・・・・転移。」
転移魔法の構成陣を描くと同時に魔法が発動する。・・・・発動したが。
「・・・・・やっちまった。」
ベッドに沈んじまった。多分、構成が甘いというのと初めて使うから座標もいろいろミスったのだろう。
気にせず俺はもう一度転移する。今度はさっきまでいた場所に転移した。
「――――ん。」
「・・・・。」
俺の魔力に反応したのか二人が目を覚ます。
「・・・・おはよう。目ぇ覚めたなら退けや。」
俺は目を覚ました二人に言う。冷たい?いや、俺の負担はそれ以上だから。
二人はまだ頭が回らないのか暫くボーっとした様子で俺を見る。
「「「・・・・・・・。」」」
俺は二人の視線を感じながらも再び転移魔法の構成陣を描く・・・。
「・・・・ん。」
ハクが抱きついてくるが無視。
今度はもう少し構成陣の魔力を多くするか・・・。
・・・ふにゅ。
ハクが胸を押しつけてくるが無視。反応したら負けだ。
「きょ~や~。」
今度はマオが抱きついてくる・・・・無視。
もう少し座標も細かくした方がいいか?
・・・ぽよん
マオ、テメェもか。
俺は左右からの刺客を無視して魔法を使う。
「・・・・転移。」
その言葉と共に俺の姿が消えベッドから少し離れた場所に現れる。どうやら一応成功したらしい。転移出来る範囲は3mという悲しい事実もあるが。
俺はベッドから脱出出来ただけマシだと結論付け椅子に座ろうとする。
「響~夜~!!」
「キョーヤ。」
がそれは無理らしい。二人が俺の肩を掴む。
「何だ?あんまり騒ぐな。」
俺の言葉に二人はむすっとする。
「その言い方は酷いのじゃ。」
「キョーヤは女の子への対応がなってない。」
腕引き抜くだけで筋肉線維が千切れる様な奴らを女の子とは言わん。
ぐちぐち言ってくる二人に俺は溜息を吐き転移でドアの前へ移動し一回に降りた。
「響夜!話は終わっていないぞ!!!」
「キョーヤひどい!」
二人は俺を追い掛けて降りてくる。
「静かにしろお前ら。」
俺は騒ぐ二人そう言うと席に着いて注文をする。
「ロシェル~!響夜が酷いのじゃ!!」
「キョーヤがひどい。」
ロシェルが来ると二人は先程の話をする。味方を増やしても現状は変わらないと思うんだがな・・・。
俺はそう思いながら注文の品が来るのを待っていた。
◆
現状が変わらない。うん、そう信じてたんだがな。
「いいですか響夜さん。女の子は繊細で傷付き易いんです。ちゃんと優しく対応してあげないと駄目なんですよ?だいたい響夜さんは何時も二人に対して少し冷たいと思います。そのうえ女の子に恥じをかかせちゃ駄目ですよ!まったく二人はこんなに貴方のことを思っていてくれているというのに貴方は全くそれに応えようともしない。それはもう一人の男として駄目です!!それに・・・・・・」
正直言おう。うぜえ。そして面倒臭い。何だ此奴は、まさか俺に飯すら食わせず床の上で説教とは。見ろ他の奴ら苦笑してるぞ。後ろの二人はロシェルに同意するように頷いている。
「―――――聞いているんですか響夜さん!!」
「ああ。」
その言葉に俺は返事だけしておく。飯を食ってもいいんだがさっきそうしようとしたら三人が体の関節外しやがった。壊れたわけじゃねえからこれは治らない。強引に戻しといたが痛みは残っている。正直少し涙目になった。関節を同時に三か所以上外されるのは死ぬ。
「分かりましたね響夜さん。」
「・・・・ああ。」
「よろしい。では今夜からでも二人には応えてあげてくださいね。」
そう笑顔で言い放つロシェル。
は?・・・もしかして俺とんでもないことに返事した?やばくね、何、何に応えろと?くそ、聞いてなかった過去の俺をぶっ殺したい。
「・・・・・・。」
俺はとりあえず飯だけでも食おうと席に着・・・・
「飯がねえ。」
そう、テーブルにあった飯が消えてるのだ。
「それならさっき冷めてしまったのでもう戻してしまいました。」
「・・・・・。」
なんてこったい。説教の上に飯すらなくなるとは・・・。流石にこれは辛いぞ。
「・・・・部屋戻ってる。」
俺はそう言うと席を立って部屋へと戻る。
ああ、もう眠りたい。
俺はそんなことを考えながら扉を開ける。さっきは気付かなかったがどうやらもう夜になっていたらしい。ロシェルの説教の長さと俺の現実逃避の長さに吃驚だ。
もうロシェルの説教は受けないと心に固く誓った俺は倉庫からベッドを取り出す。流石に今日は床に寝るのは勘弁してもらいたい。
幸いベッド三つでも余裕があったようだ。ギリギリだったらまた床で寝ることになる。
もう、二時間ほど経ったか俺はベッドの上で地図を広げている。
「・・・・・星の墓場、赤の国、神国」
大体近いのはここら辺か。
流石にこの街しか知らないというのも拙いだろう。仮にも旅人という設定なのだから。金が貯まったら他の国や街に行くのもいいかもしれない。
俺がそんなことを考えていると部屋の扉が開く。どうやら二人が帰って来たらしい。
「よう。遅かったな。」
俺がそう言うと二人とも返事をするが何となくぎこちない。何かあったか?
「きょ、響夜。少しあっち向いていてくれ。」
マオがそう言うとハクも同意するように頷く。
まあ、別にかまいやしないが、国名も覚えておきたいから退屈はしない。
・・・・・しゅる・・・
暫くすると布が擦れる音が聞こえる。あいつら着替えてんのか?だったら外に出ろと言った方が良かっただろ。
俺はそう思いながらも地図を見る。大体の近くの国は分かったが山などの細かい地形はまだ頭に叩き込んでいない。
「きょーや、もう、いい。」
俺が地形を覚えるのに集中しているとハクの声が聞こえる。
「着替えるんだったら外に出てろと言えば良かっただろう?」
俺はそう言って二人を見―――――てしまった。
「「・・・・・。」」
顔を赤く染める二人。その姿はワンピースのようなものを着ているが見た目だけだ。よく見たら布を巻いただけの姿。
・・・・・ロシェル、何吹き込んだ。
俺はあの馬鹿の顔を思い出す。
「あ、あの・・・・。」
俺が馬鹿への呪詛を心の中で吐いているとマオが口を開く。その格好の所為か二人とも凄い顔が赤い。恥ずかしいならやらなければいいだろうに。
「そ、その・・・。」
ハクも普段からあまり喋らないが今回は恥ずかしさの所為か余計に声が小さい。今にも搔き消えそうだ。
「あ~・・・・お前らどうした?」
少なくともあの馬鹿が唆したということは分かる。
「え、・・・・えっと・・響夜。」
マオが口を開く。口調も普段と少し違うか?似非爺口調ではなく少女のような感じだ。
「そ・・・その・・・」
何か凄い、身の危険を感じる。今ままでの中でも相当危険な感じだ。
神よ。もし貴方がいるのなら私を救いたまえ。救わないなら殺す。
「わ、私達と・・・・寝て。」
・・・・・・ロシェル、テメェとは後で話ししなくちゃいけねえようだ。
決闘開始まで残り一日
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人の感情とかは書くのが難しいですよね。他の方はよく書けるなあって何時も思います。
15禁の基準ってどれくらいなんですかね?それによって次回の話を変更する必要が出るんですよね。