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殺人鬼は異世界に来てしまったようです  作者: ひまめ
殺人鬼と漆黒の御姫様
17/91

動きだす殺人鬼達の物語

「・・・・帰って来てこれは酷いと思う。」

                   by響夜

「耳がいてえ。」


俺は馬車の中で横になりながらぼやいていた。鳴き声が凄いというのは聞いていたがこれは酷い。耳元で聞いたから鼓膜が破れやがった。いや、再生するからいいけどよ。


「・・・・・・もうこの身体に慣れちまったな。」


最初は毛嫌いしていたがもう慣れるとは、改めて自分の順応性の高さが恐ろしく感じる。


「形無き略奪者ジェロジーア


俺は魔剣を呼ぶ。この魔剣どうやら所有者の体内が鞘の代わりらしい。呼び出せば一瞬で出現する。中々従順な奴だ。

魔剣は剣の形状で現れるが此奴の能力で所有者の望む形になる。重さも所有者はほぼ変わらないから使い勝手がいい。後は血を飲んだ分だけ此奴の能力は上がる。今の状態でも戦闘特化の神器でなければある程度はやりあえるだろう。


「まあ、お前は切り札だからな。」


なるべくなら此奴は使いたくない。もしかしたら何かしらの対策を取られるかもしれないからな。

俺は魔剣をペンダントの形状にして弄る。


「取り敢えず暫く生活の方は大丈夫だよな。」


流石にBランク二つとAランク一つ受けたんだから問題ないだろう。



・・・・・・フラグじゃないよな?



 ◆


街に戻ってきた俺は依頼達成の報告と証拠、金の受け取りを済ますと宿に向かった。

受付嬢がやけに含みのある目で見てきたが俺何かやったか?


「ああ、ガルラのことか。」


多分それだろう。あれだけ大勢の前で言い合ってたからな。

俺は久しぶりになる宿の前に着くと扉を開けた。


「あ、響夜さん!お久しぶりです!!」


俺が宿に入るとロシェルが笑顔で迎えた。


「・・・ああ。久しぶりだ。」


何となくロシェルの笑顔が怖く感じた俺は早々に話を切り上げ部屋に向かおうとするが


「何で言ってくれなかったんですか?」


ロシェルが声をかけてくる。そんなことを言われても何のことか分からない俺は首を傾げる。


「ハクちゃんのことですよ。」


「ハク?」


二人が何かやらかしたのか?

俺は疑問に思い席に座ると水で喉を潤しながらロシェルに聞く。


「だから言ってくれても良かったじゃないですか。」


「・・・いや、何が。」


「あんな可愛いがいたなんて。」


「ぶ!!!?」


俺は思わず含んでいた水を吹き出す。


「良い子ですね~。少し口数が少ないですけどそこがまた可愛くて~。」


「おい、ちょっと待て。何であいつが娘なんだ?」


俺は咽ながらも何とか言葉にする。

いったい俺の知らない間に何があった。もしかして受付嬢のあの目もこれが原因か?


「え?違うんですか?マオちゃんに聞いたら顔を真っ赤にしてたんですけど・・・。」


「そりゃ、あいつが初なだけだ。」


くそ、そこで何とかマオが誤解を解いてくれれば良かったものを・・・。

俺はそのことに歯噛みするが過ぎてしまったことは性がない。

俺はこいつの誤解だけでも解いておくかと口を開こうとする。


「でも髪も響夜さんに似てますし。」


「それはあいつの髪がたまたま俺に似てただけだ。」


そんなことで娘などと言われたら堪ったものじゃない。俺はあいつの父親になる気もねえしそんな歳でもねえ。


「でも黙ってる時も響夜さんに似てますし。好奇心旺盛なところとかはマオちゃんに似てますよ?」


「だから違うっての。好奇心旺盛なのはあいつが街に来ることは殆ど無いからだろうよ。俺に似てるってのは俺のことを父親だと思ってるから似てるように見えるだけだろ。」


そうだ絶対にそうだ。異論は認めんし反論もさせん。断じて俺はあいつの父親ではないのだ。

その言葉を聞いてロシェルは思案顔をする。


「・・・・どうしよう。皆に広めちゃった。」


「今直ぐ誤解を解いてきやがれ!!」


その言葉に俺は思わず勢いよく席を立ち叫んでしまった。

畜生。何で俺がいない間に俺の立場が凄いことになってるんだよ。

俺はそう嘆かずにはいられなかった。


 ◆


ロシェルの誤解を解いた筈なのにそれ以上に疲れた俺は部屋に入ると直ぐにベッドに向かおうとし――――気付いた。


「そういや、二つとも占領されてたな。」


あいつらがそれぞれ寝てるのを思い出した俺は床をぱぱっと掃除すると横になる。俺が良くても二人は嫌だろうから必然的に俺は床で寝るしかなくなる。

いっそのことケチ臭いこと言ってないでもう一つ一人部屋を取った方が良いかもしれない。

そんなことを考えながら俺は襲ってくる睡魔に身を委ねた。


 ◆


・・・・。

誰かが部屋に入ってくる音がするのが聞こえた。

その音で俺の意識が僅かに浮上する。


「・・・静かにすのじゃぞ。」


「・・・・ん。」


帰って来たのか。俺は二人の声に目を開ける。


「む、起こしてしまったか。」


「・・おはよう。」


俺が目を開けたのを見た二人は少し申し訳なそうな顔をする。


「いや、大丈夫だ。・・・・おはよう。」


俺がそう言うと二人が微笑んだ。その顔を見て少しだけ俺の心も和らいだ気がする。

・・・・・殺人鬼がこんな感情を抱くのもおかしいか。

空に浮かんでいる月を見る限りまだ夜になったばかりか。


「悪いな。帰って来る時連絡入れんの忘れた。」


「問題ないのじゃ。流石に三つ連続は疲れたじゃろう。ゆっくり休むといい。」


「キョーヤ、無理は駄目。」


疲れた俺に無理をさせないようにと二人は言ってくる。月の光に照らされて輝いている対照的な二人の髪。きっと誰もが女神と言うのだろう。それだけ二人の姿は幻想的だった。


「いや、もう十分寝たから問題ない。」


「む、本当なのか?」


「ああ、心配掛けて悪かったな。」


俺がそう言うと二人は少し驚きまた笑う。


「キョーヤ、優しい。」


「うむ、変わったのう。最初はもう少し無口で無愛想じゃったのに・・。」


「誰かさん達と一緒にいるからな。」


「「?」」


どうやら自覚はないらしい。首を傾げている二人に俺は思わず苦笑した。


「少し、外を歩いて来る。」


俺は二人にそれだけ言うと部屋の扉を開け宿を出た。


「そこまでじゃないな。」


この世界に四季があるのかは分からないが肌寒いというほどの気温でもない。

俺は宿を出ると当てもなくぶらぶらと通りを歩いていく。


「残り二日。」


決闘までもう時間は殆ど無いな。ギルドで依頼をこなしている暇などない。別にこの勝負は負けてもいいが相手はそれじゃ納得などしないだろう。手を抜いても恐らくあいつは分かるだろう。そしたら何度も戦うことになるかもしれない。


「面倒くさいな。」


俺は愚痴りながら路地裏へとはいっていき止まった。


「出て来いよ。」


俺がそう言うと背後で足音が聞こえる。その音を聞いて振り返ればそこには上等な騎士装束を着た男が立っていた。


「キョウヤ・ナルカミだな。」


ああ、そう言えばこの世界じゃそう呼ぶんだっけか。


「違う・・・・と言いたい所だが、見逃してくれないよな。」


「当たり前だ。貴様をここで逃すわけがないだろう。」


「あの魔族の関係者で?」


ハクとの戦いで処分したゴミを思い出す。別にあいつらを殺したのが悪いとは思わない。先に手を出したのは向こうだ。自業自得、それ以外に思うところなどない。


「・・・・そうだ。」


「敵討・・・じゃねえよな。」


「それは油断した奴らが悪い。貴様を狙うのは・・・貴様が邪魔だからだ。」


そう言って目の前の騎士は剣を抜く。交渉は無理。敵意丸出しの奴にどうやって交渉を持ち掛けろと?対価は俺の命とかほざきそうな奴だぞ?


「・・・・そうかよ。なら―――」


俺の背後の空間が歪む。


「殺されても文句はねえよなあ!?」


俺の背後から火球が放たれ目の前の騎士に向かう。


「無駄だ。」


だが火球は騎士の目の前で突然消えた。


「な―――」


それを見た俺は驚愕を浮かべる。その隙を逃さず騎士はその剣を横に一閃。

その攻撃を俺はギリギリで回避するが状況は此方が不利だ。俺の背後にあるのは壁。脱出するには目の前の騎士の攻撃をどうにかして掻い潜っていかなくてはいけない。

死にはしないが嬲り殺しは勘弁してほしい。


「くそ!神殺しのグレイプニル!!」


俺は奴に向けて無数の鎖を放つ。その攻撃を奴は狭い路地裏の中で壁を利用して躱す。神殺しのグレイプニルもこんな狭い所では十分な力を発揮できない。迫りくる騎士。まさかもう出番が来るとは―――


「形無き略奪者ジャロジーア!」


瞬間、俺の手には魔剣が握られていた。俺はそれで騎士の攻撃を防ぐ。騎士は眉を顰め。嫌悪感をあらわにする。


「貴様のような人間如きが俺の一撃を防ぐなど。」


「人間如きに防がれる騎士様はよっぽど実力が低いんですねえ。」


「図に乗るな。」


その一言で騎士は加速する。だがここは狭い路地裏、逃げ場などなく壁ももう使えないだろう。


「テメェがだよ。」


その言葉を合図に迫りくる騎士に向けて魔剣が伸びた。


「!?」


その予想外の攻撃に騎士の身体は僅かに硬する。だがそれも一瞬、騎士はその攻撃を剣で受け止めると追撃を予想したのか小さく舌打ちし闇にまぎれて消えていった。


「・・・・・。」


突然襲ってきたり、いなくなったりと随分忙しい奴だ。

俺は形無き略奪者を体内に戻すと奴が消えていった方向を見る。


「たく、何だか面倒臭いことになってきやがった。」


俺はぼやきながら二人のいる宿へと戻っていく。どっかの馬鹿騎士の性でおちおち街も歩いてられねえ。

俺は深い溜息を吐きながら街道を歩いて行く。本当に面倒臭い。

空を見上げるとそこには俺の気持ちとは正反対に輝いている月が昇っていた。


決闘まで残り二日


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