殺人鬼は連続エンカウントがしたいようです
「殺人鬼は獲物を狙う獣と同じだ。」
by響夜
「勘弁してくれ。」
俺が目の前の『千武』―――ガルラにしたのは拒否。今戦うことなんてのは出来ない。ハクへの生命力を受け渡した影響は未だに残っている。足がガクガクだ。
「だが断る。」
「巫山戯んな!」
俺はもういっぱいいっぱい何だよ!!
「俺は帰る。」
「帰さん。」
「帰らせろ。」
「俺と戦ってくれるまでは帰さん。」
「テメェは餓鬼か!!」
言いあう俺達。相手が何を言おうとも俺達には譲れぬものがあった。
「帰せ!」
「帰さん!」
「帰せ!!」
「嫌だ!!」
そんな言いあい。傍で聞いているエルザも額に手を当てため息を吐いている。
周囲が呆れ返っている中俺とガルラの言い争いだけが響いていた。
◆
「・・・・・・やってらんねえ。」
あの後俺は街を歩いていた。互いに一歩譲らぬ戦いの結果、戦うのは五日後となった。
その間に俺がやるべきことは体調の回復と魔力の扱い方の訓練。そして―――魔導具。もしくは神器の入手。
「神器の確保はほぼ無理。だとしたら魔導具の準備か。」
魔導具はピンからキリまであるがどれも中々の値段だ。ハクの牙で依頼達成の報酬を貰ったがそれも服代や宿代で半分近くは残しておかなくてはいけない。
「・・・・依頼貰って来たしそれで我慢するか。」
俺は手元にある三枚の用紙を見る。・大鬼討伐依頼
・魔剣調査
・マンドラゴラ採取
「・・・・・。」
このうちの一枚は千武に戦う代わりにギルドを説得してもらい得た物だ。
オーガと戦えればそれだけ戦闘経験が豊富になる。千武との戦いでも役に立つ。
魔剣調査は危険と判断すれば破壊が目的。だが手に入るのなら俺が手に入れ札を増やしておける。
マンドラゴラは・・・・興味と金から。それ以外特になし。
「大鬼からだな。」
俺はマオとハクに一言連絡を入れ街を出る。
二人とも着いて来たがっていたが今回は一人で行きたいと言い二人を諦めさせた。
街道に出て馬車を呼ぶと俺はそれに乗り。カタカタと揺さぶられながら目的地へ向かっていった。
◆
鬱蒼とした森の中。木々が山肌を覆い草木がその土を潤しているその一角に小さな広場が出来ていた。
「ガァラアアアァァァァアアアア!!!!!」
齢百の大樹に及ぶ筋肉が凝縮された腕。長いボサボサの白髪は悪臭を放ち。その顔は二本の牙と額の一本を生やした鬼だった。左腕に持った巨大な木を振りまわしながら大鬼は叫ぶ。目の前にいる異物を排除するために。
「断頭台!!」
相対していた白髪紅眼の男――――響夜は大鬼の周囲に断頭台の刃を展開する。
「死刑執行。」
その言葉と共に放たれる十の凶器。大鬼はその全てを大樹で薙ぎ払い、躱す。
「オオオォ―――――!!」
その荒れ狂う大樹を躱し響夜は大鬼にナイフを振るう。
―――――ガキィ!
だがそのナイフは大鬼の体に傷を付けられず逆に怒りを買うだけ。
ナイフは折れ、砕け散る。響夜の判断は迅速であった。
「ッ――――」
迫りくる右拳を響夜は体を捻り躱す。そして創り出すは一本の長剣。
響夜はそれで大鬼の右腕を斬り付け突き刺した。
「グゥラアアアァァァァァ!!!!」
その痛みに大鬼は叫びその瞳に憤怒の激情を映らせていた。
響夜はその瞳を見て笑う。
「こいよ木偶の坊。遊んでやるよ。」
大鬼は走り出す。その速さは今までの動きの比ではない。
響夜は魔力が感じられないことから恐らくはスキルだと判断すると自らも魔力とスキルを併用し相対する。
駆け抜ける閃光と荒ぶる災害。その戦いは熟練の冒険者が見ても舌を巻くものであった。
大鬼を圧倒的速度で翻弄しその体を切り刻んでいく。大鬼は膝を地に着けることはしない。手に持っていた大樹を投げ捨て大鬼は自らの拳で反撃する。
「キヒャヤヤヤやや!!!」
響夜の顔もまた愉悦に染まり、その唇を歪める。その太刀筋が揺らぐことなく逆に徐々に鮮烈され鋭さを増していく。
「グルァ!!」
だが大鬼は自らの体を犠牲にして響夜の動きを止める。長剣は大鬼の体を貫くが剣を引き戻すことが出来ない。その一瞬の隙を逃さずに大鬼は響夜の体を殴りつける。
響夜が逃げ出す前に大鬼は響夜の手を掴み何度も殴る。
「―――――――」
だが響夜は決して大鬼から目を離さずに大鬼が拳を振り上げた瞬間
一閃
右手に創り出した薙刀で大鬼の眼を横一文字に切ったのだ。
「ガ!ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」
その激痛に眼を手で覆い叫ぶ大鬼。その隙に響夜は大鬼の懐に入り薙刀を太股に突き刺す。だがその一撃で終わりではない。
「―――――――」
連撃。一回限りの武器。響夜は次々に武器を創り出す。
長剣、大斧、槍、太刀、ナイフ
創り出された武器は次々に大鬼の体へと吸い込まれていく。そして響夜が新たに創り出すのは今まで創れなかったもの。
「我が軍勢よ」
響夜の背後の空間が波紋を立て歪む。空の魔法を極限まで使い創造形成に組み込む。
現れるのは無数の黒き塊。無数の銃口。それは目の前の獲物を蜂の巣にしようと唸りを上げる。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!
周囲を圧倒する悪魔の叫び。それは全てを蹂躙し何者も寄せ付けない破壊の証。
「オラオラオラ!!早く逃げねえと肉塊になっちまうぜぇ!?もう遅いかもしれねえけどよォ!!」
その悪魔たちを従える一人の殺人鬼は嗤う。それに答える声など当然なく。そこにあるのはかつて大鬼だった物だった。
それを見た響夜の思考は一瞬で元に戻った。
「・・・なるほど。空の魔法で空間を歪めれば銃口のみを任意の空間に構えられるか。」
あとはその合図を(ひきがね)をするだけ。
そして用が終われば倉庫の中へと入れ使用時に空の魔法で再び展開。
「中々良い。」
だが違う。
響夜はそう言い放つ。確かに広範囲、高火力。充満する硝煙と弾ける生命は自分好みの物だ。だが自らが望むものとはまた方向が違う。
響夜は展開されていた銃火器を倉庫へ仕舞うと歩きだす。
「魔剣・・・・どれだけの物か。」
神器に匹敵するものであれば僥倖。そうでなくとも魔剣と呼ばれるほどの物なのだからそれなりの魔導具であろう。
響夜は街道に待たせてある馬車へと歩いて行った。その牙を磨ぎながら次なる獲物を狩るためにその獣は動き出した。
◆
既に空には月が昇っていた。馬車から降り響夜は森の中を歩きながら自分のことについて考える。
「・・・・・・魔剣。」
響夜はマオからある程度の知識は与えられていた。だがこの世界に来て約三週間。この間だけでも、マオから与えられた知識は全てではないことが分かる。さらにマオが知らないこともある。
不意に響夜はポケットから赤い欠片を取り出す。それはこの世界に来てゴブリンと初めてと戦ったときに手に入れたもの。マオの知識にものっていない物だった。
「何処からこんなものが手に入るのか。」
この欠片に高密度の魔力が溜め込まれているのはわかる。今もこの欠片からは微弱だが僅かに魔力が放出されている。ただこれが元は何なのかが分からない。
「・・・・・?」
響夜はそのことに首を捻る。
「・・・魔力を放出する。」
響夜は何かを感じた。どこかで知っているような喉元まで上がっていているのにそこで引掛り口からその言葉が出ない。
「・・・・。」
その不快感を消そうと響夜は自身の記憶を探るが答えは見つからない。
響夜はそのことに僅かな苛立ちを感じながらもそれ以上考えることを止める。今の目的は魔剣の入手なのだから。
「・・・とっとと行くか。」
響夜はこの不快感を消し去るように足早で森の中を歩いて行った。
◆
魔剣はどうやら突き刺さっている物ではないようだ。
魔剣が封じられていた台座の残骸を見て響夜は思った。周囲の外壁も破壊され床も亀裂が走っている。
「・・・・所有者がいたのか?」
それとも・・・・。
響夜はそこまで考え、これ以上ここにいても意味がないと動きだしながら近くの村から聞いた情報を思い出す。
数日前に響き渡った何かの叫び。その翌日から次第に発見された何十匹という化け物の惨殺死体。そしてこの現状・・・・。
「・・・・おもしれえ。」
響夜は自らの出した答えが合っている時のことを考え笑う。その瞳には僅かな警戒と敵意、そして愉悦。
殺人鬼は笑う。これだけの力を持つ者と渡り合えるのだと。
「マオ、ハク、エルザ、ガルラ・・・・。ああ、この世界は良い。こんなにも俺を楽しませてくれるんだ。」
決して向こう側では味わえない感覚。うんざりもしていたがその実彼はこの現状を楽しんでいた。だが心の何処かでこの平和な日々を気に入っていた自分がいたのも事実。
彼は苦笑する。これは魔剣に失礼だろうと。魔剣という極上の獲物と戦うのに巫抜けた自分では駄目なのだと。
瞬間、殺人鬼の顔からは表情が消えた。
「・・・・・・・・・。」
今この場より殺人鬼の本領が発揮される。
殺人鬼と魔剣。今宵、一人と一本の闘争が幕開けた。
感想、批判、ご意見がありましたらどうぞ送ってください。
今回少し文章を変えてみました。主に最後の方を。
少しずつではありますがお気に入りに登録してくれている方が増えてきて嬉しいです。おかげで自分の創作意欲も増してきています。
まだ拙い文章かもしれませんがこれからもこの作品をお願いします。