殺人鬼は満足できないようです
「・・・・三人称は一マス開けるようにしています。」
byhimame
「ここでの台詞で言うことじゃねえだろ。」
by響夜
「・・・・・・・!」
街外れの訓練場。そこに二つの影があった。一方は白いYシャツと黒のジーンズの白髪の青年。もう一方は黒い軍服のようなものを着た金髪にポニーテールが特徴の女性。響夜とエルザだ。
「ハア――――!」
振り下ろされるエルザの剣を響夜は手にしたナイフを滑らすようにして防ぐ。
「―――――」
響夜はエルザの懐に潜り込むとナイフを一閃。だがその攻撃をエルザは僅かに体を反らして躱す。
エルザは追撃がくる前に素早く距離をとる。二人の距離は再び開き両者は睨みあう。無駄口などしない、そんなことをすれば瞬く間に相手の持つ武器が自分の首を刈り取る。
「グレイプニル!」
響夜は自らの神器を出現させるとエルザに向かわせると同時に自らも駆ける。
「雷鳴轟かす勝利の咆哮!!」
エルザは腰にある剣を抜くと共にその名を呼ぶ。すると剣に蒼い雷が纏いエルザ自身にも雷が纏われる。
向かってくる神殺しの鎖をエルザは雷化によって回避し響夜へとまさしく雷速の速さで迫る。振り下ろされる剣を響夜は周囲に展開していた神殺しの鎖で防ぐ。如何に雷化といへど剣自体は雷化をしない。それを見抜いた響夜は神殺しの鎖による防御にでたのだ。
「(とはいえ、こっちも攻撃する方法がない)」
そう斬撃は防げるものの響夜はエルザへ攻撃する手段を持っていないのだ。
「(・・・想像・・・形成・・)」
骸竜との戦いの際に創りだした魔道具。創りだすものは違えど響夜は再びそれを行おうとしているのだ。
「(・・・何を?)」
響夜が膨大な魔力を集中させるのを感じたエルザはそれを危険と判断し響夜へと疾走する。
「―――――――心眼」
その言葉と同時に響夜の手に現れるのは一つのペンダント。鎖に繋がれたペンダントはまるで目を思わせる様な形をしている。
「発動」
その言葉にペンダントが砕ける。響夜はそれを確認するよりも早く目の前に迫っていたエルザへとナイフで一閃した。
交錯する二人。その結果は――――
「「――――――――――」」
響夜の右腕に走る痛みと僅かに焦げた臭い。だがその代償を払っても得たものは大きかった。
「―――――」
茫然とした様子で自分の頬に手を触れるエルザ。その手には血が付いていた。
「・・・・・どうやって私に攻撃を?」
エルザはそれを聞かずにはいられなかった。今まで同じクラウン以外の者――――ましてやクラウンでもほんの一部の者しか雷化をした自分に攻撃出来た者はいない。それをまだ魔力を感じ始めたばかりの者に破られる。これは彼女に大きな衝撃を与えただろう。
「・・・・俺のスキルだ。一度だけあんたに攻撃を届かせることが出来る」
その言葉にエルザは響夜の手に現れたペンダントを思い出す。エルザは剣を鞘に戻すと響夜へ振り向く。その顔はとても生き生きとしたものだった。
「今日はこれで終わりです。私にとってもいい勉強になりました」
そう言ってエルザは頭を下げる。
「いや、俺のほうがいい勉強になった。ありがとよ」
響夜はそう言うとエルザへと手を差し出す。それを見たエルザも笑顔で響夜の手を握り握手した。
「そんじゃ次も頼むわ」
「はい。その時はまたお願いします」
そう言うとエルザは訓練場を出て行った。一人残った響夜は樽を創りだすとそれに座る。何故樽を創ったのかは簡単なもののほうが想像もしやすいからだろう。
「・・・・・・」
響夜は空を見上げる。
「(・・・・・やっぱり少し物足りないな)」
決してエルザとの戦いがつまらない訳ではない。むしろ響夜としてはこうして戦えるのは大歓迎だ。ただ響夜は血が見たいだけなのだ。訓練では出血など殆どない。エルザが手加減をしているというのもあるのだろうが響夜自身エルザを殺す気などない。
ヒトに手は出しても人には手を出さない。
それが響夜の基本理念だ。自らが信用できる者、気に入った者は人として見るがそれ以外はヒト。理科の実験動物と同じだ。殺しても特に何も感じない強いて言えばその時に感じる生命の輝きを見れることが楽しみというだけだ。
「ギルドでも行くか」
何か面白い依頼があれば行ってこよう。そう考え響夜は手を翳すと黒い穴を開けそこに樽を入れる。倉庫と呼ばれる空を使った魔法だ。生物は入れられないが自身の魔力によってその大きさは変わり中に様々なものを入れられる。マオから教わったこの世界のものだ。
「・・・・・」
響夜は一度周囲を見回すとギルドへと足を運びに行った。
◆
視線、視線、視線、街中を歩いている時も数こそ減ったもののギルド内でも響夜は視線を感じていた。
「(俺はパンダじゃねえんだよ)」
その視線にうんざりしつつも響夜は進んでいく。こればかりは仕方がないと響夜自身思っているところもある。普段からマオという美女と一緒にい、つい先日はエルザも入れて三人でいる所を見られている。それによって響夜の顔を覚えている者は多くそれがこの視線である。
「よう」
「あ、こんにちは。有名ですよ響夜さん。戦乙女と一緒にいたって」
最早響夜とマオの専属と化してきている受付嬢から挨拶兼聞きたくない話を聞きながらも響夜は依頼を探す。
「そうそう、おめでとうございます響夜さん。Bランクになりましよ」
「・・・・・は?」
響夜はその言葉に間抜けな顔をする。響夜はついこの前Dランクになったばかりだった。それが何時の間にかBランクなどとても信じられるものではない。
「いえ、つい先日エルザさんがいらしてDランクにしておくなんて勿体無いと。それを聞いたマスターもそう思っていたらしく、ならBランクに上げるかと。・・・・これは結構異例のことですよ。しかも戦乙女のお墨付き」
そう言って受付嬢は笑う。響夜にとっては堪ったものではない。また妙な視線が増えるのではないかと響夜は頭を抱えそうになった。
「・・・・・畜生」
こんな所で頭を抱えていたら余計に目立つ。響夜はそう考えるともう諦めて依頼に目を通していく。よく考えればBランクなら骨のある魔物と戦えるかもしれない。そう考えた響夜は一通り面白そうなものを取る。
・地竜討伐依頼
・古城調査
・遺跡探索
・白銀狼討伐依頼
・・・・・どれが良いかね。探索なら魔道具が手に入る確率があるし神器も有り得る。討伐は中々強そうな奴らだし。
「白銀狼。行こうか」
丁度Bランクがどれだけのものなのかを知っておきたいしな。響夜はそう考えると依頼書を受付嬢へと渡す。
「気を付けてくださいね」
「ああ」
響夜は受付嬢のそんな言葉を聞きながらギルドを出て行った。
◆
かた・・・かた・・・
馬車に揺られながら響夜は今回の依頼の内容と白銀狼がどんな生物なのかを見ていた。
「・・・知能も優れている。注意すべきは氷魔法と脚力か」
情報を見る限りだとこれ選んで正解だったかもな。
響夜はそう考えながらスキルを倉庫の中から幾つかの魔道具を取り出す。これを買うために響夜は今までなるべく報酬の高い物を選んで受けてきた。マオにも秘密にして・・・。
魔道具が放っている魔力はどれも一級品であった。幾ら報酬の高い依頼を受けてきたとは言ってもやはりE、Dランクでは限界がある。どうやってこれを手に入れたのかは無論秘密である。
「世界が変わっても人間の考えることは変わんないねえ」
まあ、この世界では人間だけではないが。と内心で付け加えた。
「冒険者さん。着きましたよ」
やがて馬車が止まると声が聞こえる。響夜は馬車を降りると男に金を渡し礼を言う。
「しかしどんな依頼なんですか?」
「あ?・・・白銀狼だとさ」
それを聞いた男は目を丸くすると乾いた笑いを漏らす。
「そ、そうですか。んじゃ私はこれで・・。」
男はそう言うと馬車をUターンさせてやがて見えなくなった。
響夜はそれを確認すると山の中へとはいっていく。
「・・・・・・・」
山に入ってすぐ異常が分かる。凍っているのだ木々や大地が。響夜はそれを見ながら白銀狼の魔法を思い出す。
『氷魔法』複合魔法というもので氷なら大地と水の魔法を合わせることによって作りだされる魔法である。他にも雷ならば風と火の複合魔法という様に種類がある。因みにエルザはこの複合魔法の雷を得意としている。
響夜は凍っている葉に触れるとそれは砕け小さな欠片となって大地に落ちる。
「・・・・とんでもねえな」
どうやって白銀狼に会うか。この凍った雪山では遭遇する前に凍え死ぬ。
「・・・・・燃やすか」
響夜はそう考え、巨大な火柱を放つ。それは周囲の氷を木ごと燃やしつくし響夜の視界は火の海になっていた。響夜は魔神の観察眼を発動すると周囲を確認する。
「―――――――」
響夜は草が揺れる音がすると同時に大きく飛び退く。すると先程まで立っていた場所に巨大な氷柱が突き刺さっていた。
飛ばされてきた方向をみるとそこにいるのは全身に毛並みの良い白銀の毛を生やし強靱な四肢で大地を踏みしめている巨大な狼。間違いなく白銀狼である。
「―――――――――――――!!!!!!」
咆哮。それは山中に響き渡る。
それを合図にして響夜と白銀狼の戦いが始まった。
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