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殺人鬼は異世界に来てしまったようです  作者: ひまめ
殺人鬼と漆黒の御姫様
10/91

変人が集まる殺人鬼の木

「・・・・・・・・俺って何だっけ。」

          by響夜

「!!?」

    byマオ

「・・・・・は?」


 喫茶店の一角。そこで響夜は間抜けな声を出して目の前にいるエルザを見る。


「いえ、私と戦っていただこうと」

 

 響夜はその言葉に頭を悩ませる。


「(いや、まだ戦闘だと決まった訳じゃない)」


 きっと基礎的な体力とかだろう。

 響夜はそう望みを懸ける。最も魔力と体力にそれ程の結び付きがあるのかを考えれば答えはすぐに出るだろう。それが思いつかないあたり余程テンパッていることが窺える。


「それでは周囲に被害が出ない場所に行きませんとね」


 あ、これ終わった。

 響夜はその言葉を聞いてそう悟った。


「(これは人選をミスったかもしれない)」


 響夜はそう思って他に頼りになりそうな人物を考える。


「(受付嬢・・・無理。ロシェル、後で何を頼まれるか分らん。ギルドマスター・・・俺が何か嫌だ)」


 唯一頼りになりそうなマオは感覚とか言い放つだろう。

 響夜はそこまで考えるとさらに頭が痛くなってくる。元々友人関係が狭いのは仕方がない。まだ来て二週間も経たないのだ。そこには目を瞑ろう。だが・・・


「(周りに碌な奴がいねえ)」


 本人が教わる側であるのにこの態度というのも自分が碌でもない奴の証拠なのではないだろうか。

 現実から逃げようとする響夜にエルザは無慈悲にも現実を突き付ける。


「ほら行きましょう」


「響夜?どうしたのじゃ?」


 女性陣二人は既に席を立っている。響夜はその姿をみると諦めたのか深いため息を吐いて二人を追い掛けた。


 ◆


 今三人は街の訓練場の中にいた。だがそこに立っている三人の顔には既に疲れた顔がありありと出ている。


「・・・・まさかあそこまでいるとは」


「・・・・疲れたのじゃ」


「あ、あはは。すみません」


 疲れきっている二人にエルザは苦笑しながらも申し訳なさそうに謝る。実際有名人と一緒に歩いたことのない二人にはあまりにもキツ過ぎた。歩く度に周囲からの視線を感じ、さらには追い掛けてくる者もいた。お陰で此処に来るために人を撒くのに随分時間が掛った。


「・・・・ふー」


 エルザは一度深呼吸をすると真剣な顔をする。


「もう大丈夫ですか」


「ああ」


その顔を見た響夜も観念したらしく何時でも戦えるように心構えをする。マオは二人から離れ端で二人の戦いを見守る。


「この戦いでは魔力というものを感じてもらいます」


「感じる?」


「はい、魔法を使う時に感じるものでなく、自分の体内に常にあるのを感じるんです。そしたらそれを自分の意思で体内を巡らせて下さい。自分の血管や神経をイメージするといいですね」


「・・・なるほど」


 先ほどまでは自分の間違いを悔やんでいたがその考えは180°変わった。

 目の前にいるエルザの言い方は分かりやすく、彼女が教えなれているということが分かる。ならばそんな大きな間違いがあるということはないだろう。

 

「(一度の死闘は100の練習の価値があるというしな)」


 響夜はその言葉に納得し目の前にいるエルザを睨む。


「ではマオさん。開始の合図をお願いします」


「うむ。任されたのじゃ」


 マオはそういうと腕を振り上げる。


「では試合・・・・開始!」


 その言葉と共に振り下ろされる腕。


「はっ――――――――」


 気が付けば彼女は目の前にいた。


「うお!?」


 それに気が付いた響夜は振り下ろされる訓練用の剣を躱す。幾ら刃が潰されているとはいえ彼女のふる剣速で食らったら大怪我だろう。

 響夜は魔神の観察眼を発動すると彼女の挙動を見逃さないようにする。


「ふ―――」


「―――――」


 彼女が動き目の前に現れた瞬間、響夜は自分が持つ剣で彼女の剣を防ぐ。それを見た彼女は僅かだが眉を上げる。


「やりますね」


「そりゃどうも!!」


 響夜は力任せに剣を振りエルザを弾き飛ばす。鬼神の武勇伝を持っている響夜は普段から常に身体能力が大幅に上がっているためオーガと素手で渡り合うだけの力を持っている。

 当然それほどの力で弾かれたらどうなるか。エルザは響夜から引き離され数十mは飛ばされていた。


「只の冒険者ではないようですね」


「いや、只の新米冒険者だよ。」


 響夜の言葉にエルザは不敵な笑みを浮かべる。


「少し本気で行きますよ」


 瞬間エルザの姿がぶれる。


「はっ―――――」


「!?」


 響夜は背後からの一撃を防げないと判断すると危なげなく躱す。


「・・・・やりづれえ」


 響夜はそう言うと手に持っている剣を捨て想像形成で一振りのナイフを取り出す――――勿論刃は潰してあるものだ―――――と同時にエルザへ駆ける。

 まさか剣を捨てるとは思わなかったのだろう。エルザは目を見開くがそれもすぐに真剣な顔になる。



「っ・・・らあ!!」


 それはまるで踊っているかのようだった。器用にナイフの持ち方を変えながら響夜は目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出す。それをエルザは時に防ぎ、時に宙を待って躱しながら一瞬の隙を突いて剣で攻撃する。


「っ、本当に・・新米ですか!?」


「・・・ああ!冒険者としては・・・・新米だよぉ!!」


 お互いは剣とナイフを衝突させながら視線を交す。それも一瞬二人は再び移動しながら剣とナイフをぶつけあう。

 訓練場にはただ剣閃がぶつかりあう音だけが響く。既に百合は打ち合っただろうか状況は徐々に響夜の劣勢になっていた。


「・・・・・っち」


 響夜のナイフは直ぐ創れるがその分脆い。響夜のナイフはエルザの攻撃に耐え切れなく砕け散る。響夜は壊れた瞬間に新たにナイフを創りだすがその瞬間、響夜の意識は想像形成に向けられる。それによって響夜は徐々に追い込まれていった。


「・・・やりますね」


 エルザはそこで攻撃をやめる。響夜はそれを不審に思うが原因は直に分かった。


 ――――パキン


 エルザが持っていた剣が半ばから折れたのだ。


「・・・・貴方の実力なら問題ありませんね」


 その言葉と同時にエルザの背後の空間が歪む。響夜はそれをみて警戒する。


「・・・・雷鳴轟かす勝利の咆哮フリスト・ヒルド



 現れたのは一本の剣。両刃の剣で片手剣だがその形状はレイピアのようにも見える。

 そしてその剣は蒼い雷を纏っている。


「・・・・本気ってことっすか」


 それを見た響夜は冷や汗が止まらなくなる。あの剣から感じる重圧を響夜は感じたことがある。


「―――――神器」


「私の愛剣。そして私の切り札です」


 エルザはその剣の切っ先を向ける。


「・・・・頑張って戦ってくださいね」


 第三者からみれば綺麗な笑顔だが響夜から見たら死刑宣告としか感じられない。


「―――――」


 エルザの姿がぶれた瞬間響夜の腕に痛みが走る。みれば背後にいるのは剣を構えているエルザの姿。


「(速過ぎだろ)」


 その瞬間響夜から油断という言葉は消えた。


「(一度見られてはいるが・・)」


「神殺しのグレイプニル!」


 その言葉と共に響夜の背後そしてエルザを囲むようにして神殺しのグレイプニルが出現する。


「な!神器!?」


 これはあの時の一瞬ではわからなかったのだろう。エルザは驚きを露にする。


「く―――――」


 神殺しのグレイプニルはエルザへと向かうだが―――


「・・・は?」


 グレイプニルがエルザを縛ることはなくそのままエルザの体を突き抜けて行った。


「・・・これが私の神器の能力の一つ。自身を雷化し物質を透過します」


「それ何てチート?」


 思わず響夜はそう呟いてしまった。エルザはそんな響夜の隙を逃すことなく一瞬で接近すると袈裟切り。


「・・・っ」


 攻撃自体は響夜の悪魔の心臓グリモア・ハートで再生するがそれでも痛みは感じる。エルザはそれを見て再び驚愕する。


「・・・・それも神器ですか」


「・・・ああ、最低最悪のくそったれ神器だ」


 響夜は忌々しげに言う。


「そうですか。・・・これ以上怪我をする前に早く魔力を感じ取ってくださいね」


 響夜の顔を見たエルザは黙り込むとそれだけ言って剣を構える。


「(・・・魔力)」


 響夜は体内に意識を向ける。


「(マオの魔力は右手から供給されている)」


 ならば右手に何かが流れ込んでいるイメージをすればいいのか?

 響夜は首を傾げながらも右手から水が流れ込んでいるようにイメージをしていく。


「・・・・っ」


 エルザの攻撃をなるべく防ぎながらも響夜はそのイメージを固めていく。


「(・・・・何かが流れてる?)」


 響夜は徐々にだが魔力の流れを感じ始めていた。


「(これが魔力か。・・・・これを全身に流れているようにイメージしていく)」


 水路を作りそこに魔力という水を流すイメージをしながら響夜は徐々に魔力を動かしていく。


「・・・・掴みましたか」


 魔力を感じ取ったのだろう。エルザは剣を振るのをやめ響夜をみる。


「(早い)」


 それが今の響夜への感想だった。常人は魔力の流れを感じ取るのにもう少しの時間を要するというのに目の前にいる青年はそれをものの数分で終わらせようとしている。


「(あのナイフ捌きといい、神器を所有していることといい)」


 エルザはこの青年が何者なのか少し気になった。これが終わったら聞いてみるかと考えていると響夜が魔力を張り巡らせたのを感じ取った。


「・・・・・体が軽いな」


 それが響夜の感想だった。驚くほどに今自分の体が軽く感じる。


「魔力を体に張り巡らせれば身体強化をすることが出来るんです」


 エルザはそういうと剣を握り締める。


「今から一度剣を振るいます。それにそのナイフをぶつけてください」


「・・・・了解」


 響夜はエルザの挙動を見逃さないよう注意する。次の瞬間、エルザの手が動くのを捉えた。


「(・・・くる!)」


 その瞬間、響夜は僅かに捉えた向かってくる剣にナイフを振るう。


 ―――――ガキィン!!


 金属がぶつかる音と何かが砕けた音がした。


「・・・・・」


 響夜の手に持っていたナイフはボロボロに砕けちる。エルザは今の光景を見て驚いた後に笑う。


「お見事です。まさかぴったりで当ててくるとは思いませんでした」

 

 その言葉に響夜は肩を竦める。


「いや、ギリギリだったさ。お前の手が動く瞬間が見えなかったら無理だっただろうさ」


「十分凄いですよ。並の冒険者じゃ今の攻撃など見ることすら出来ませんから」


「褒め言葉として受け取っとく」


「響夜!」


 俺たちが話しているとマオが駆け寄ってくる。


「良くやったのじゃ!」


「あ~、はいはい」


 飛びつこうとするマオを響夜は片手で押えながら投げやりに答える。

 それを見たエルザは笑いだした。


「あ?」


「いえ、仲が良いんですね」


「うむ!」


 響夜の代わりにマオが声を上げて答える。


「では、次からはそれを無意識的に行えるようにしましょう」


 その言葉を聞いて響夜はまたこれをやるのかなあ。等と考えながらげんなりする。


「ああ、そうだな」


「響夜!お腹が空いたのじゃ!!」


「はあ?」

 

 その言葉を聞いた響夜は眉を寄せる。


「お前殆ど何もしてないだろう」


「む、失礼な。響夜を見守っていたじゃろう」


 それを聞いた響夜はマオに何を言っても無駄だということを悟る。


「ほれ、行くぞ。エルザも一緒にどうじゃ?」


 マオの誘いを受けてエルザは少し考える仕草をすると快く返事する。


「はい、いいですよ。私も少しお腹が空きましたから」


「では行くぞ!!」


 その言葉と同時にマオは響夜とエルザの手を引いていく。


「(・・・・もう殺人鬼のすることじゃねえなぁ)」


 傍にいる二人の笑顔と今の自分を見て響夜はそんなことを考え苦笑する。

 空には雲一つない青空が広がっていた。

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