果物の選び方
おかみは、市場の店先に積まれた梨をひとつ手に取って、ソフィーに差し出した。
「いいかい、ソフィー。傷がついていないか、よく見るんだよ。エノカの中央市場は品数が豊富だけど、そのぶん質の悪いものも混ざっているからね」
「うん、おかみさん」
ソフィーは神妙に頷いた。
梨と睨めっこしていると、背後から大きな手が伸びてきて、ソフィーから梨を奪った。
「変なこと教えるなよ、おふくろ。こーいうの、営業妨害ってんだぞ」
ソフィーが顔を上げると、呆れ顔の青年が立っていた。
「返してよ。まだ買うか決めていないんだから」
ソフィーは背伸びして、梨を取り返そうとした。
コリンはにやりと笑って、梨を持った手を高々と上げてしまった。
「返してってば」
ぴょんぴょんと飛び上がっているソフィーを意地悪っぽい笑みを浮かべて眺めていたコリンだったが、突然大口を開けて、梨にかぶりついてしまった。
「旨いぞ。俺にいわせれば、見た目より味だね。田舎者には分からない感覚だろうな」
「コリンには聞いてないよ。大体お客に出す果物なんだから、見栄えが良い方がいいに決まってんじゃん」
ソフィーが頬を膨らませると、二人のやりとりを見ていたおかみが吹き出した。
「あっという間に仲良くなったね。あんたたち、兄妹みたいだよ」
「俺は弟が欲しかった」
すかさずコリンが応じると、おかみはふんと鼻を鳴らした。
「騒がしい息子はひとりで充分さ。やっぱり、女の子は可愛いよ。父さんだって、最近毎日早く帰ってくるんだよ。ソフィーが寝てしまう前にね」
「あの親父がねえ。さすが魔女っ子だな」
コリンは梨を食べ終えて手が空くと、ソフィーの頭をわしゃわしゃっとかき回した。
「ソフィーは魔女なのかい?それにしちゃ、魔法を使っているところを一度も見たことないけど」
おかみに聞かれたソフィーは顔を曇らせた。
「私、箒で空を飛ぶことしかできないの」
「アルフレッドは、明日の昼には帰ってくるぞ。心配するな。実は熟した方が旨いんだから」
コリンは、そう言って、口笛を吹き始めた。