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序章
ウィザードンの森には魔女が棲むといわれていたので、小さなバスケットが森の中に置き去りにされた時から、ソフィーの運命は決まっていたようなものだった。
噂の魔女が子供を食べるような類いの人物ではなかったことがソフィーにとって不幸中の幸いであった。
年老いた魔女は、バスケットの中ですやすやと眠っていた愛らしい赤子をソフィーと名付けた。
人目から隠れた生活を送っていた魔女は、老いた自分が死んだ後のことを考えて、ソフィーを魔女として育てる他に彼女を守る方法はないだろうと考えた。
自分の知識を惜しみなく与えた魔女は、ソフィーが13歳になった日、静かに息を引き取った。
ソフィーは、気丈な娘だったので、涙も見せず、魔女の亡骸を葬った。
墓前には、魔女が愛したかすみ草の花束を手向けた。
魔女の家が崩れ去った明くる朝、ソフィーは、東の帝国に旅立った。
東の魔法使いに会いに行くことは、ソフィーが魔女と交わした最後の約束だった。