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3,健の理解者

「今晩のおかずにお肉はいかかですかー。一度お味見して下さー―い。」 

 相変わらず、ここのスーパーは人が多いわね。買い物するのも一苦労。

「夕飯は何にしようかしら?」

 健はお昼ご飯も食べずに寝ちゃってたし、お父さんもお弁当を持たせてないから、二人はきっと、飢えてるわね。ステーキも良いけど、お父さんは嫌がるだろうし、困ったわー―。

「ん? 誰かしら?」

「もしもし?」

「優子か? 俺だ」

「あらぁ。かっちゃん。こんにちわ。どうしたの?」

「以前、お前が話してた件なんだが、あれから、どうなったかと思ってな……」

 確か…… 最初にかっちゃんとこの話をしてから、二ヶ月以上も経つわね。悪い事をしたわ。

「遅くてごめんね。こっちは順調に進んでるわ。問題がなければ、思っていたよりも、早く会いにいけそうよ。その時はよろしくね?」

「他ならぬ、お前の頼みだからな。任せな。」

 普通なら、「どれだけ待たせるんだ!」って、怒るところなのに…… ありがとう、かっちゃん。

「こっちの用意が出来たら、改めて連絡するわ。それまで、もうしばらく待ってね」

「分かった。優子…… 何かあったら、すぐに連絡しろよ? 本人もそうだが、お前もつらいだろうし……」

 かっちゃん…… 相変わらず優しいのね。かっちゃんと結婚してたら、どんな家庭になったのかしらね?

「ありがと。迷惑をかけてごめんね」

「気にするな。それじゃあ。またな」

 お父さんはダメだけど、かっちゃんが相手なら、あの子もうまくやれるはず。とりあえず、今は目先の事に集中しましょ。先ずは買い物の続きからね。さぁて…… ん? お魚か……

「お父さんは好きだけど、健は好きじゃないのよね。どうしましょ?」

「あら? 優子さんじゃない? こんにちわ」

 …… 会いたくない人に会ったわね。

「こんにちわ。 佐々木さんもお買い物ですか?」

「そうなのよ。うちの家、子供は勿論、『大人』まで食べ盛りだから困っちゃうのよ」

「大変なんですね」

「優子さんのところに比べたら、うちなんかまだまだ」

 相変わらず嫌味な女ね! 『食べ盛りの大人』は、健じゃなくて、アンタの旦那でしょうに。 アンタの家の噂は、お隣さんから、聞いてるのよ?

「うちは大丈夫ですから、ご心配なく」

「悩みとかがあったら遠慮なく言って下さいね? いつでも相談に乗りますから」

「ありがとうございます。買い物があるので失礼しますね。では」

 人の悩みなんか、聞いてる場合じゃないと思うけど…… あの女、自分がどんな状態なのか、気づいているのかしら? 

 …… なんか、イライラしてきた。お父さんには悪いけど、今日は健との約束もあるし、今晩は豪華な物にしちゃいましょ。そうと決まれば、お肉売り場に戻りますか……

「今晩のおかずにお肉はいかがですかぁ」

 さて。今日の量は、少し多めにしときますか。

「すいません。サーロインを三枚下さい、グラムは……」

 これでよし。あの二人ならこれ位、ペロって食べるでしょ。後は、付けあわせね。

「……じゃがいもは面倒だし、コーンと人参にしときましょ」

 確か、野菜はあったから、後は……

「ん? 今度は誰からかしら?」

「もしもし?」

「お母さん? アタシだけど」

「良子? 久しぶりねぇ。どうしたの?」

「バカ兄貴に電話しても繋がらなくてさ。それで、どうしてるのかな?って」

 酷い呼び方ね。自分のお兄さんでしょうに……

「健は元気にしてるわよ。あなたは元気にしてるの?」

「アタシは元気よ。 それより、バカ兄貴は、今何してるの?」

「相変わらずよ。だけど、少しずつ良くなっているわ」

「未だに変わらずか…… 今度、実家に帰ったとき、説教でもしてやろうかしら?」

 この子ったら。変わらないわね。

「…… 良子? あの子に必要なのは、説教ではなくて、ゆっくりでも良いから、自分の足でしっかりと歩んでいく事よ?」

「お母さん? 子供ならともかく、あいつは大人でしょ?」

「子供でも大人でも、歩いていたら誰だってつまずく事はあるわ。あなたはつまずいている人を蹴ったりするの?」

「蹴りはしないけど…… つまずいたら、サッサと自分で立ち上がるでしょ?」

「早く立ち上がれない人が、お前は遅いからダメだ! って、言われたらあなたはどう思う?」

「そんなの、根性でしょ?」

 遺伝なのか、誰かさんの背中を見て育ったのかは分からないけど、この子はお父さんそっくりね。

「世の中には、立ち上がるのに時間がかかる人もいるのよ?」

「お母さんは甘いのよ! だからいつまでたっても、バカ兄貴が変わらないんじゃない!」

 この様子だと、健も大変ね。良子の電話に出ないのも無理ないわ。

「健を追い詰めたら本当に良くなると思う?」

「追い詰めるって! 人聞きの悪い事を言わないでよ。 あいつのせいで、恥をかいたりして迷惑を受けてるのはアタシなんだから!」

 迷惑か…… 

「お母さんやお父さんだってそうでしょ? 悪いのは、全部バカ兄貴でしょ?」

 確かに、良子の言うことも、最もなんだけどね…… 

「ねえ、良子? 本人が、辛い時にムチを打つのが家族なの? 家族って、助け合うものじゃない?」

「あんな奴、家族とは思わない!」

「良子? あなた……」

「お母さんも考え直した方が良いよ! じゃあね!」

 健の気持ちよりも、自分の気持ちが優先か…… 当然の事だけど、少し悲しいわね。昔は優しくて、兄思いの良い子だったのに……

 時間を取ったわね。残りの買い物を済ませて、サッサと帰りましょう。

 残りの買い物は確か…… コーンね。

 いつもは茹でる終わりだけど、今日は醤油バター味にしときますか。缶詰のコーナーは…… あったわ。

…… これでよし。レジに向かいましょう。

「5時30…… 早めに来ておいて良かったわ」

 レジは…… あそこが空いてるわね。今のうちに……

「いらっしゃいませ。 お肉が三点に……」

 今日の夜、あの子はちゃんと外に出れるかしら? 怖気づいてなければ良いけど…… 今晩のメニューのステーキは、ご褒美って事で食べさせる?

「…… 円になります」

 思ったより高い。衝動買いは危険ね。

「おつりの358円になります。ありがとうございました」

 そろそろ、私もマイバッグを持参しようかしら? って、ちょっと! 置きにくいから、自分で使ったカゴくらい、ちゃんと片付けていきなさいよ! 最近のマナーはどうなってるの? 

 …… これでよし。さあ、帰りますか。ステーキだから、健の分は、先に食べさせてあげないとダメね。さっ。帰りましょ。

 

何気ない日常を表現してみました。次の更新は一週間以内にする予定です。

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