悲劇のオルゴール
「私たち、別れましょう」
――恋人の誕生日に贈った、宝石箱のようなオルゴール。それを見た瞬間、彼女は顔を引きつらせてそう言った。
「な、どうしてそんな……」
「私、思い出してしまったの。人間の魂はオルゴールのようなもの。ねじを巻けば何度でも、同じ譜面を繰り返す。私たちの運命も同じなのよ、だから、あなたと別れないと……」
真っ青な顔で、頭を振る彼女に俺はそれでも食い下がる。すると彼女は少しずつ、自分の記憶――俺と彼女が繰り返す、「運命」の記録を話し始めた。
「ある時のあなたは、芸術家で私はその妻だった。あなたは私をモデルにしてたくさんの作品を創り上げたけれど、伸び悩んだ末にノイローゼになって私の首を絞め殺した。次の私は女スパイで、あなたは敵国の要人。あなたから機密情報を聞き出すのに成功はしたけれど、私はあなたを本気で愛して国を裏切りその果てに、処刑されてしまった」
「それ……『前世』ってことか……?」
おそるおそる問いかける俺に、彼女はこくりと頷く。
「一回や二回じゃないわ。軍人だったあなたと結ばれた時は、戦争で国が負けあなたと共に自害することになった。奴隷をしていた時は隠れて愛を育んだけれど、主人にバレて罰として命を奪われた。そんなことの繰り返しなの。どの運命でも、私とあなたが愛し合えばその先に凄惨な死が待っている」
「そんな、でも俺は……」
今の俺は違う前世の俺と違う。同じ運命を辿るとは限らない。その言葉を制して、彼女は続ける。
「顔も名前も毎回違うけれど、私にはわかる、あなたに心を奪われてその果てに命を奪われる。いつも同じ針、いつも同じメロディー。そうやって悲劇のオルゴールが繰り返される……もう、うんざりなの。だからあなたとは、別れるしかない」
もう理不尽な死は経験したくないから。
そう言い残し、彼女は俺の元を去ろうとする。
咄嗟にその腕を掴み、逃げようとする彼女をなんとか説得しようとした。だが彼女は「離して!」と叫ぶばかりで――今日の為に予約した、夜景の見えるレストランを出ていこうとする。
「待てって! おい!」
なんとか話を聞いてもらおうと階段まで追いかけたが、彼女は止まらず――揉み合いになった拍子に、俺たちは長い階段を転げ落ちる。
――流れ落ちる血と共に、意識が薄れていく中……どこかでぜんまいの回る音が、聞こえた気がした。




