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【4話:訳あり剣士との出会い】

(さて、次はどうするか……)


カウンターで次の依頼について相談に乗ってくれているリナを横目に、俺はギルド内を見渡しながら今後の計画を練る。当面の目標は、もちろん「楽して生きる」こと。


(となると、もう少し稼ぎの良い依頼を受けるか? それとも、街やギルドのシステムにもっと深くデバッグを仕掛けて、有利なバグを見つけ出すか……)


あまり派手にやりすぎると面倒なことになる可能性もある。さっきの門番の一件や、依頼の秒速達成で、すでに少し目立ってしまっている。ここは慎重に行動すべきだろう。

とりあえずは、もう少し情報収集が必要か。


そんなことを考えながら依頼掲示板を眺めていると、ふと、一人の男の姿が目に入った。


年は俺と同じくらいか。短く刈った茶色の髪に、実直そうな顔立ち。装備は、明らかに上等な金属製の鎧と、腰に下げた長剣。一見すると、経験を積んだ有能な戦士に見える。


だが、どこか違和感があった。


その立派な鎧や剣は、本来の輝きを失っているように見える。そして何より、彼の纏う雰囲気が暗い。周囲の喧騒から切り離されたように、一人で依頼掲示板の隅に立ち、難しい顔で依頼票を睨んでいる。



(……なんだ? あの人。見た目は強そうだけど、ずいぶん浮いてるな)


俺が興味本位で彼を観察していると、隣にいたリナがそっと声を潜めて教えてくれた。


「あの人は、アレン・ウォーカーさんです。少し……訳ありの方なんです」


「訳あり?」


「はい……。元々は、この街を守る騎士団に所属していた、すごく優秀な剣士だったそうなんです。でも、半年くらい前に騎士団を追放されてしまって……」

リナは、周囲を気にするようにさらに声を小さくした。


「追放? 何か問題でも起こしたんですか?」


「いえ、そうじゃないんです! これはあくまで噂なんですけど……騎士団長のガルヴァスっていう人が、アレンさんの才能に嫉妬して、ありもしない罪を着せて追放したって……。ガルヴァス団長は、昔から自分の意に沿わない部下には厳しく当たる人で、評判もあまり良くなくて……」


なるほど。騎士団長によるパワハラ、そして才能への嫉妬による不当解雇、か。


(ガルヴァス……ね。さっきの門番といい、この街は権力者が腐敗してるパターンか? 面倒くさいが、同時にデバッグしがいのあるターゲットでもあるな)


ガルヴァスという騎士団長に対するヘイトが、俺の中で静かに蓄積されていくのを感じた。

アレンという剣士に対しては、少しばかりの同情と、自分と似たような境遇への共感を覚える。


「アレンさんは真面目な方なので、冒険者になってからも地道に依頼をこなしているんですけど……なんだか、以前のような活躍ができていないみたいで……。装備の手入れもままならないほど、生活に困っているっていう噂も……」


(装備の手入れができないほど困窮……か。元エリート騎士がそこまで落ちぶれるとはな。)


俺はアレンに近づいてみることにした。彼が抱えている「問題」に、俺のスキルが役立つ可能性を感じたからだ。それに、ガルヴァスへの「挨拶」の足掛かりになるかもしれない。


「アレンさん、でしたっけ?」

俺は努めて気さくな口調で話しかけた。


「……なんだ? 俺に何か用か?」


「いえ、ちょっと依頼を探していて。ランクFの初心者なもので、どれがいいか迷っていたんです。もしよかったら、何かアドバイスいただけませんか?」


アレンは訝しげに俺を観察していたが、リナが隣でニコニコしているのを見て、少しだけ警戒を解いたようだった。


「……Fランクなら、薬草採取か、街の使い走りあたりが無難だろう。討伐依頼は、ゴブリン相手でも油断すると危険だ」


「なるほど。ゴブリンって、そんなに強いんですか? 森で見たウルフくらいなら、なんとかなりそうな気もしたんですが」


「ウルフとゴブリンを一緒にするな。ゴブリンは数が多く、連携してくることもある。それに、ウルフなら……いや、まあいい。とにかく、初心者は無理をするな」


(ほう。意外と面倒見がいいタイプか? それとも、ただ単に真面目なだけか)

俺は内心でアレンの反応を分析しつつ、さらに会話を続ける。彼の装備や、抱えている問題について探りを入れるためだ。


「ありがとうございます、参考になります。アレンさんは、何か良い依頼は見つかりましたか?」


「……いや、まだだ」


アレンは短く答えると、再び難しい顔で依頼票を睨んだ。


その時、俺は彼の腰にある剣に改めて注目した。装飾はシンプルだが、鍛えられたであろう刀身は、手入れ不足とはいえ確かな業物であることを感じさせる。しかし……。


(……ん? この剣、何かおかしいな)


俺はアレンの剣に意識を集中させた。ウィンドウが表示される。


[コマンド実行] 解析:アレンの剣

【オブジェクト情報】騎士団支給長剣『ブレイブハート』(カスタム品)

ランク: B(本来の性能)

状態: 性能劣化(Dランク相当)

【バグ検出】悪性デバフバグ - 持続性能力低下(攻撃力、速度、耐久値が大幅に減少)

【バグ検出】所有者限定呪い(アレン以外が持つとさらに劣化)

推奨コマンド:[実行:バグ修正コード - デバフ除去&呪い解除]


(……なんだこれは!?)


俺は解析結果を見て、内心で絶句した。

この剣には、意図的に性能を大幅に低下させる悪質なデバフバグが仕込まれている。しかも、アレン以外が使うとさらに劣化するという、所有者限定の呪い付きだ。これはひどい。


(こんなものを使っていたら、本来の実力なんて出せるはずがない。オーク討伐どころか、ゴブリン相手でも苦戦するかもしれないぞ……)


[コマンド実行] 追跡:バグ発生源シグネチャ - 対象:悪性デバフバグ

【追跡結果】

発生源シグネチャ: 『リューン騎士団装備管理システム_管理者アクセスログ_Ver.2.7』 に酷似。

最終アクセス日時: 約半年前

アクセス者権限: 最高位(団長クラス)

推定関与者: 騎士団長 ガルヴァス (確率95%)


(……装備管理システム? 騎士団の武器庫にかけられた管理魔法か。それにアクセスしたログ、つまり不正な干渉があった記録だな。しかも、騎士団の管理システムを悪用して、アレンの剣に直接デバフを仕込んで、他の人間に譲渡できないおまけつき)


俺は、ガルヴァスという人間の底意地の悪さに、強い嫌悪感を覚えた。これはもう、ただのパワハラじゃない。計画的で悪質な犯罪行為だ。


俺はアレンに同情すると同時に、ガルヴァスへの怒りを新たにした。こいつは絶対に許しておけない。一人の人間として、このバグは修正しなければならない。


「……アレンさん」


俺は意を決して、アレンに声をかけた。


「なんだ?」


「その剣……少し、調子が悪そうですね。何か心当たりは?」


アレンは、俺の言葉にハッとしたように自分の剣に目を落とした。そして、苦々しい表情で呟いた。


「……ああ。そうなんだ。騎士団にいた頃は、こんなことなかったんだがな……。追放されてから、どうにも切れ味が鈍くて、妙に重く感じるんだ。鍛冶屋に見てもらっても、原因が分からなくて……」


やはり、アレン自身も剣の異変には気づいていたようだ。


(可哀想に……。こんなデバフを食らって、それでも必死に冒険者を続けているのか)


俺は、彼の不遇な境遇と、それに負けずに足掻こうとしている姿に、少しだけ心を動かされた。


「……もし、俺に何か手伝えることがあれば、言ってください」

俺は、自分でも少し驚くほど、自然にそう口にしていた。


「……え?」

アレンは、信じられないものを見るような目で、俺の顔をまじまじと見つめた。


彼の瞳には、驚きと、ほんの少しの期待のような色が浮かんでいた。

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