5話 カレー
「ほらよ。」
俺はカレーの盛った皿を全員に配った。
出来はいつも通りとても美味しそうだ。
流石俺だ。
「うわー、美味しそう! そこまでお腹減ってなかったはずなのにこのカレーの匂い嗅いでたら急にお腹減ってきたよー!」
「ふっ、だろ? 俺のカレーは世界一美味いってよく言われるんだ。」
孤児院の奴らを虜にしたカレーはここでも猛威を奮っているようだ。
何年もかけて美味しくなるように改良を重ねたんだ、これが美味しくないわけが無い。
「いただきまーす!」
みんな一斉に食べ始める。
うむ、最高の出来だ。
俺は気付かれないようにこっそりと周りの様子を伺った。
悠と神酒は美味しそうにパクパクと食べ進めていた。
その表情は明るく、美味しく食べてくれていることが分かる。
蒼は……仮面をつけたままカレーを食べていた。
「おい、食事の時は仮面取れよ………というか、それどうやって食ってるんだ?」
蒼は仮面の下からスプーンを潜り込ませ、とんでもないスピードでカレーを平らげていっていた。
………本当に、ここは不思議なことが起こりすぎだ。
「ん? あぁ、仮面か……。なんだ、取って欲しいのか?」
「いや、食いにくくないかなって……。」
「ふむ、食べにくそうにみえるかい?」
「……いや、見えねぇな。」
パッと見は食べにくそうに見えるものの、その食べるスピードや俺や他の奴らと比べても異常な程早い。
まるであの仮面が食事に全く支障を来たしていないということを示しているようだった。
「それにしても、仮面を取って欲しいなんて…………もしや、変態か?」
「はぁっ!? なんでそうなるんだよ…………。」
なんだ? まさか俺が知らないだけで仮面を取ってもらうっていうのは特別な意味があったりするのか!?
俺は悠と神酒を眺めている。
二人は俺たちの会話を聞いてキョトンとした様子だったので、きっとそんな意味があったりはしないはずだ…………しないよな!?
俺が慌てている間にもみんなはパクパクとカレーを食べ進めていっていた。
「真宵君、ごめんね、ご飯作るの提案したの私なのにほとんど作らせる感じになっちゃって。」
「気にすんな、俺が好きでやったんだ。それより……うまいか?」
「うん! 今まで食べたカレーの中でいちばん美味しいかも!」
「……そりゃよかった。」
孤児院の奴らもそうだが、俺の作った飯を美味そうに食うやつらは嫌いじゃない。
美味しく食べてくれたんだったら作った甲斐があったってもんだ。
みんなが食べ終わったあと、ただ食べただけだった蒼と神酒が食器などを洗ってくれた。
「よぉし、それでこれからどうするー? またさっきの部屋みたいな感じになっちゃったら困るよねー?」
「ククク、そうだな。私は何か起こるのは面白いから一向に構わないがな!」
「はいはい、変態は置いておいて真面目に対策考えるぞ。」
それから俺たちは対策を4人で考えた。
…………しかし、中々話はまとまらない。
まず発動条件もあまりわかっていない以上、対策の考えようがないのだ。
そんな時、丁度よくあることが起こった。
「…………ごめんみんな、ちょっと私お腹痛くなってきちゃった、トイレ行ってもいいかな?」
「…………あぁ、大丈夫だが……もしかしてカレーが当たったか?」
しっかりじゃがいもの芽は取ったし、肉もしっかり加熱した。
しかし、それでも何かお腹に悪いものが含まれていた可能性もある。
そうなれば全責任は料理をした俺にあるということになる。
そう思うと急に顔が青ざめ、冷や汗がダラダラと流れてきた。
しかし、悠が言うにはそういう訳じゃなさそうだ。
「いや、元々私は少食なんだけど、美味しくてついいっぱい食べちゃったんだよね、だから真宵君のせいじゃないよ! ……ある意味真宵君のせいだけどね。」
そう言ってあははと悠は笑った。
……真偽は分からないが、少なくとも悠が俺に責任がいかないように注意を払ってくれているということは分かった。
「それなら良かったんだが…………。」
「だから誰かついてきて欲しいんだけど……神酒ちゃんお願いできるかな? 検証も兼ねて2人だけで入ろ?」
「ん、分かったよー、まともな女の子は僕だけだもんねー。」
「…………そうか、2人だけになるってのが条件なのか確かめるって事だな?」
「うん、そうだね。」
2人だけで検証してもらうのは少し不安だが、場面も場面だ、仕方がないだろう。
「分かった、くれぐれも気をつけろよ、中に入ってドアがしまったら中からも外からも音は聞こえないみたいだからな。」
「うん、わかってるよ〜。」
「じゃ、とりあえず私はもうちょっと限界だから…………」
「おう、早く行ってこい。」
色々心配事もあるが、1番は悠の腹痛だ。
猶予は少ない。
俺がゴーサインを出すとすぐさま悠は1番の扉へと向かい、それに続いて神酒も1番の扉に入った。
すると、扉がひとりでに閉まり、カチャリという音を立てた。
その後そこから音が鳴ることは無い。
「ククク、やはり何かあったみたいだね。」
「はぁ……そうだな。」
俺は首にかかっているロザリオを握りしめ、2人の無事を祈った。