4話 トイレ
用を足し終わると、扉に貼ってあった紙がすうっと消えていった。
「どうなってんだこれ……。」
ドアが閉まったり開いたりするのはまだ分かる。
が、この現象はどう考えても説明がつかない。
「これは……思ったよりも面倒な事に巻き込まれているみたいだね。」
「はぁ、そうみたいだな……。」
「ワクワクしないかい!?」
「しねぇよ、バカか!?」
こいつといると本当に調子が狂う。
俺が少し罵倒しているのにも関わらずケラケラと笑っていやがるし、もしかしてこいつマゾか何かなのか?
「とりあえず出ようか、外にいる彼女らが心配しているだろう。」
「そうだな。」
突然冷静になった蒼を横目に俺は扉を開けた。
「きゃっ!」
「あぁ、すまん。」
扉を開けるとその前に立っていたであろう神酒が尻もちを着いてしまっていた。
何とか扉を開けようとしていたのだろうか。
少し申し訳ない気持ちになった。
「二人とも、大丈夫だった!? 僕心配したんだよ!?」
「あぁ、俺は大丈夫だ。」
「私も大丈夫だよ…………ククク、いいもの見せてもらったよ。」
「おい、何言ってんだ。」
「ん? ……まぁ、無事なら良かったよー。」
神酒は俺達の元に駆け寄ってきてそう言った。
「はぁ、俺達は心配も何もされる程の仲じゃないいぞ?」
「いやいや、急にドアが閉まって中に取り残されたりしたら誰だって心配するよ。私達が何回も呼び掛けてるのに何にも返事が無いから本当になんかあったかと思うでしょー?」
「ん?何も聞こえなかったが…………。」
中にいる時は外からの音は一切しなかった。
よく考えたらそれも少しおかしい。
神酒と悠を見た感じだと2人になったから黙り込んでしまうような性格でもない。
反対に俺と蒼は黙ってトイレの中を探っていた。
となると外からの音が少しは聞こえてしまうはずだ。
「よっぽど防音設備が素晴らしいのか、はたまたそれ以外の要因か…………どっちにしろ少し違和感があるね。」
「あと私達が部屋から出た瞬間に扉がしまったって言うのも怖いよね。監視されてるみたい…………。」
「あっ、そうだ、さっきの事を話さなきゃだな。」
俺は先程トイレで起きたことを話した。
「えぇ……そんなこと起こってたのー? こわぁ。」
「ククク、ワクワクするだろう!?」
「しねぇよ!」
「あ、あははぁ。」
はぁ、緊張感があったはずなのに蒼のせいで全て吹っ飛んでしまった。
まぁ、悪いことでは無いか。
「え、ていうか真宵はよく蒼の前でできたね、恥ずかしくなかったのー?」
「まぁな、ただ、アイツガン見してきたからな、多分変態だ、気をつけろよ。」
「え…………。」
「ククク酷いなぁ。」
「お前が悪いんだろ!」
本当に調子が狂う。
なんにせよ今回の事で少なくともほかの扉に入るハードルは上がった。
警戒心をもっと高めなければいけない。
「それで、みんなに相談があるんだけど…………。」
悠がみんなに向かって言った。
「私ちょっとお腹減ってきたからさ、ご飯作ろうと思うんだよね、冷蔵庫の中に食材とかはいっぱいあったからさ、何か作ろうよ。」
「おー、いいねー! 僕もお腹ちょっとすいてたんだよねー。」
「それで、誰か一緒に作ってくれる人居ないかなって。」
悠はそう言ってみんなを眺める。
神酒は気まずそうに視線を外し、蒼は快活に笑いながら「私は一切できないぞ!」と言っていた。
こいつら………。
「はぁー、しょうがない、俺が手伝うよ。」
「えぇっ、真宵料理なんかできるの!? 意外ー。」
「以外とはなんだ以外とは。孤児院暮しで料理当番になることもよくあるんだよ。」
「孤児院……そうなんだ、うん、わかった。じゃあ、真宵君、手を貸してくれるかな。」
「…………あぁ。」
同情かなにか分からないが、悠は酷く寂しそうな笑みを浮かべていた。
まぁ、別に協力をしたくない訳では無いんだ、この位はやってやろう。
「それで、何作るんだ?」
「んー、なんでもいいよぉ? 真宵君が得意な料理にしよう?」
「んー、じゃあカレーかな?」
孤児院のみんなで食べるにはカレーは本当にぴったりなものだ、大きな鍋で大量に作れるからな。
俺の当番の際にはよく作らされている。
「カレーいいね! ここにいつまで居るかもわかんないし多めに作っておこうか。」
「あぁ、そうだな。」
ここからまだまだ出れないみたいな感じがして少し縁起が悪い気がしなくもないが、腹が減る度に何度も料理するのも面倒だ、多めに作っておいていいだろう。
俺はとりあえず材料を確認する。
うん、スパイスもあるしいつもの味が作れそうだ。
悠には白米の準備や鍋などの準備を任せ、俺は野菜や肉を手際よく切り始めた。
「ふむ、結構な腕前だな、これなら専業主夫としてもやっていけそうだな。」
「…………まぁ、悪くないかもな。」
「そうかそうか、じゃあここからでたら私の所に来るか? ちょうど家事をしてくれる人を探していてな。」
「お前の元だけは死んでも嫌だ!」
そう言うと蒼はクククと笑っていた。
そんなこんなであっという間にカレーは出来上がっていた。