3話 1番目の部屋
「……なんだここ、トイレ?」
そう、1番目の部屋は何の変哲もないトイレであった。
何か変わったところを思い浮かべるとすれば、普通のトイレよりもやや大きい事ぐらいだ。
最大限の警戒を持ってこの部屋に向かっていた俺は一気に力が抜けるような感覚になった。
「というか……狭い!」
「うっ、うん、そうだねー、トイレに4人入るのはちょっとキツいね。」
全員で同時にドアを開けて同時に入ろうとしたためか部屋の中は玉突き事故状態だ。
一番最初に入った俺と蒼は後続に押されてぎゅっと潰されてしまっている。
「私達は一旦出るから、とりあえず何か無いか見てみてよー。」
「うん、僕も出るね。」
「あぁ、分かった……つっても、ただのトイレに何か変なものがある訳無いと思うけどな。」
まぁ、まだ扉は五つもある、ここの部屋がハズレだったとしても他の部屋に何かあるだろう。
神酒と悠が部屋から出てすぐに扉が閉まり、カチャリという音を立てた。
「…………なんだあいつら、別に閉めること無いだろ、トイレなんか2人でも十分狭いってのに。」
「………ククク、そうだな。」
蒼が面白そうに笑う。
何が面白いんだか。
まぁ、そんなことはいいんだ、とりあえずトイレの中を探そう。
これはここから出る為の手がかりを探すと言うよりはクリアリングという名目の方が大きいだろう。
トイレの中に何か危ないものでもあったらかなわないからな。
「……うん、何も無いな、いたって普通のトイレだ。」
よく見るタイプの洋式トイレで、とても綺麗に手入れされているようだった。
なにか見付かって欲しい気持ちもあったが、危ないものが見つかるよりかはいいだろう。
トイレの中を見終わった俺は扉に向き直り、外へ出ようとした。
しかし、その行動は扉に貼られた1枚の張り紙によって止められる。
「…………ん? こんな張り紙最初からあったか?」
「…………やっぱり気づいていなかったか、君は警戒心が強いんだか弱いんだか分からないね! この貼り紙は彼女達がここから出て扉が閉まってすぐに出現していたよ!」
そう言って蒼は大笑いし始めた。
なんだコイツ。
「ちっ、仕方ないだろ!? 俺はトイレの中を見ててこの扉を見たのは最後だったんだよ! っというか、気づいたんだったらその時に言えよ!」
「ククク、君はいつ気付くのだろうかと思って放っておいたのだよ……そうしたら全然気が付かないから……ククク……。」
「…………ちっ、見せろ。」
俺は少し小っ恥ずかしい気持ちを隠すために蒼をどかして貼り紙を見た。
そこにはこう書いてあった。
〜トイレをしないと出られない部屋〜
俺はその文を読んですぐに扉を開けようとドアノブを捻った。
…………開かない。
「くそっ、やられた! …………そうか、さっきの音はこの扉に鍵が掛かった音だったのか!」
ドアノブはさっきこの部屋に一人で入った時と同様にピクリとも動かない。
「少し落ち着きたまえ、ここでわめき散らかしていても何も始まらないだろう? そんな事するよりもここららどう出るかを冷静に考えた方がよっぽど建設的じゃあないか?」
「…………わかってるよ。」
くそ、こいつはいちいち癪に障るな、喋り方もなんか変だし。
やっぱりこいつが俺達をここに連れてきた犯人なんじゃないか?
さっき紙が現れた時も俺が気づくまで何も言わなかったし、どう考えても怪しい。
だが、出れない以上、どうにも出来ない。
「…………見た感じトイレするって書いてるから、普通にすればいいだけだよな?」
俺はすぐにズボンを下ろした。
「っ! …………ククク、躊躇ないね君。」
「はぁ? 別に躊躇も何も無いだろ、別に同性に見られたところで何も思わないだろ?」
異性に見られるのは少し恥ずかしい……というか俺よりも相手の方が嫌だろう。
元々俺は孤児院にいる人間だ、相部屋なんて当たり前だし、そこの奴らと一緒に風呂に入るなんて事も何回もあった。
そんな環境で過ごしていたからかそこまで忌避感は無い。
「ふむ、そうか君は…………。」
「あ? なんだ?」
「いや、なんでも無い、続けたまへ。」
「…………おう。」
俺はそのまま座って用を足した。
別にそこまでしたかった訳では無いが、出ないという訳では無い。
これでこの部屋から出れるというのなら安いもんだ。
「…………なぁ、なんでずっと見てるんだよ。」
「うん? なんとも思わないんじゃなかったのかい?」
「いや、言ったけど、じっと見られるのはなんか違うだろ。」
蒼からは仮面でほぼ目が隠れているのにもかかわらずビシビシと視線が飛んできていた。
流石に少し恥ずかしい。
「ククク、そうかそうか、流石にそこまで羞恥心が無いわけじゃないか、これでも何も感じないのであれば少し心配してたところだぞ。」
「うるせぇ、早くそっち向けや。」
「あいわかった、いやぁ、安心安心。」
「…………。」
変な奴だな。
まぁ、何か危害を加えられている訳じゃないし良いんだが…………。
あぁもう、1回恥ずかしいと思ったらなんだかずっとはずかすくなってきた。
俺は急ぎめで用を足し、ズボンを履き直した。