2話 神楽悠
階段を下りると、そこにはオシャレなダイニングルームが広がっていた。
視線を巡らせると、中央には堂々と据えられた大きなテーブルがあり、その周囲を囲むように並ぶ五脚の椅子が置かれていた。
そしてその椅子の一つに1人の少女が退屈そうに座っていた。
少女は俺達のことに気が付くとやけに嬉しそうかな顔をした。
「お前がここの家主か?」
見た感じでは危ない雰囲気は無いが、それでも警戒心は解かずにその少女に話し掛ける。
「いやいや、違うよ? 私は気がついたらここに居ただけで、別にこの家の人間というわけじゃ無いよ!」
「……なんだ、そうなのか。」
俺が見た感じその少女はその場に馴染んでいたので、てっきり家主かまたはこの家の関係者かなにかだと思っていた。
「ふむ、では私達と同じで目が覚めたらここに居たという感じなのかな?」
「うん、そうそう。いやぁ、それにしても他に人がいて良かったよ、このままこのよく分からない家に一人で閉じ込められるのかと思っちゃったよ。」
少女はそういうと安心したのか胸を撫で下ろす仕草をした。
「そうそう、これを見て見てよ。」
少女は机の上に置いてあった紙を指で指した。
紙を見てみるとそこには次のようなことが書かれていた。
《真実の愛を見つけないと出られない家》
〜ルール説明〜
①この家は真実の愛を見つける事が出来れば貴方たちはこの家から出ることができるだろう。
②殺傷行為は出来ない。
③部屋に入る時は必ず2人以上で入らなければならない。
「…………なんだこれ。」
その内容に俺は唖然とした。
「くくく、面倒な事に巻き込まれてしまったみたいだね。」
蒼はそれでもなお面白そうにしている。
「…………これってもしかして。」
神酒は何故か少し顔を赤らめ、手で隠していた。
リビングを見渡しても玄関らしき場所も無いし、窓のような外に通じる場所は見当たらない。
どう考えても誰かが意図的に人を閉じこめるために作り上げた空間だ。
しかし、この紙をみた感じだと恐らく何らかの手段で脱出する方法があるということなのだろう。
「ま、まぁ、とりあえず試してみるしか無いんじゃないかなー? なんだか意味ありげに番号の付いた扉もある訳だしさ?」
「うむ、神酒の言う通りだな、私達が何者かに誘拐されてこの様な茶番をさせられてるのだとしたら何か動きを見せない限り出られないだろう。」
「うん、私も同じ意見かな。さっき一人で扉を開けようとした時は開かなかったけど、多分二人以上なら空くと思うんだよね、そこの紙に書いてあることが本当だったらさ。」
その言葉を聞いてとりあえず俺は一番の扉を開けてみた。
やはり開かない。
というか、ドアノブがピクリとも動いていなかった。
「それで、二人以上になればこのドアが開くのか?」
「うん、そうみたい。……この紙に書いてあるのが本当だったらの話だけどね。」
まぁ、信憑性うんぬん以前に俺達が信じることが出来るのはこの紙切れ1枚だけだ、信じる他に道は無いだろう。
「さて、どうする、2人だけで行くか、それとも全員で行くか。」
「ふむ、まぁ、みんなで行くのが無難なんじゃないかな? 何かあった時に互いを守れるようにするべきだと思うからな。」
「……そうだな。」
他のふたりも同意見のようだった。
だが、俺からしてみれば一番の問題が残っていた。
「ま、本当にお前らが信用出来るのかっていう問題が残ってるがな。」
「もぅ、なんてこと言うのー? こんな状況なんだから助け合わなきゃでしょ?」
「じゃあなんだ、お前らが信用に足る証拠でもあるのか?」
「それは………。」
神酒は悔しそうに黙ってしまった。
別に論破したい訳じゃなかったんだが………。
「まぁ、それも一理あるな、だが、こう考えてみてはどうだ? 逆に2人きりだともう片方の人間が危ない人間だった場合為す術なく殺されてしまうかもしれないだろう? だが、全員で行けば誰かが危険な人物だったとしても三対一だ、対処可能だろう?」
「……お前ら全員危険人物かもしれないだろ。」
「それだったら1人でも2人でも関係ないだろう?」
「………ちっ」
言い返せなかった俺はただ舌打ちをして黙り込むしかできなかった。
蒼はそんな俺を見てニマニマ笑っていた(仮面をつけているから想像でしかないが)。
「そ、それじゃあ皆で行くって事でいい?」
「う、うん、僕はいいよー、皆で行こ?」
言い合いも何もしていなかった2人が気まずそうに確認をした。
俺は不服ながらも無言で頷き、蒼もくくくと笑いながら肯定をしていた。
俺達は意を決して全員で扉を開けた。
すると、さっきまでピクリともしなかったドアノブが軽々と回り、扉を開けた。
「………どうなってんだこれ。」
「んー、まぁ、開いたんだし良いんじゃないー? とりあえず言ってみようよー!」
「あぁ、そうだな。」
神酒が何の躊躇も無く進もうとするのに対して俺は警戒を解かずに慎重に中に入っていった。
しかし、その中を見て俺は拍子抜けしてしまうことになる。