表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/21

第2話 再会?

 溜め息を着く私に、彼らは面倒そうに答えた。


「召喚に巻き込まれたのは不運だったが、君のために魔法陣を展開する魔力の余力はない。今後の者振り方だが、この都市に留まるか出て行くかは選ばせよう」

「そうですか(やっぱり……こうなるのね)」

「ええ? 私も?」

「まさか、聖女様は、この国で私たちを救ってくださいませ!」


 美玲は悲壮感たっぷりの涙目で訴え、その反応にエルフたちは少しだけ頬が赤くなる。これだから男は……。美玲に魅了スキルでもあるのかしら? というか異世界の人族なのに魔力があるって、前世は別の種族だったのかしら? 


「よかったぁ♪ でも春夏秋冬(ひととせ)さん、……彼女がこの都市にいると、私をまた虐めるかもしれないから……この都市から追い出してほしいかも……」

「はい?(イジメって初耳なのですけれど? というか貴女と、会話したことほとんどないし)」


 美玲の言葉で空気が一気に凍り付いた。

 鳥肌が立つほどの寒さ。

 またか。異世界に転生してからはなかったけれど、この世界に戻った途端に悪役を押し付けられるなんて……。大して精査せずに、私を悪者にする展開に飽き飽きしてしまった。


 前世、嫁ぎ先の国で私の味方は誰も居なかった。

 理不尽だわ。勝手に連れてきて、巻き込んだくせに、全ては私が悪いというのだから。

 今世でも巻き込まれて……また死ぬのかな。


「兵士よ、その女をすぐに森の外に放り出してやれ」

「ハッ」


 甲冑姿の兵が私の腕を掴んだ。抵抗する気はないのに、罪人みたいじゃない。私が貴方たちに何をしたっていうの? そう思ったらムカムカしてきた。


「痛っ、抵抗しないから離して」

「黙れ、罪人が」

「……私が何の罪をしたっていうの? 証拠は? その女の言葉だけで貴方たちは信じるの?」

「当然だ、彼女は『聖女』なのだから」

「(ああ、本当に……なんでこんな世界に──)なら、この世界にある誓約書で真偽をつけましょう。嘘なら四大種族から報復がある真偽魔法ですよ」

「はああ? なによ、それ」

「なんで貴様がそんなことを」

「別に聖女じゃなくたって、加護(ギフト)はあるってことです(まあ前世の知識のおかげだから、ギフト関係ないけれど)」


 何も知らない少女ではないと彼らに印象づけたものの、最初から気に食わなかったのか無機質な瞳は変わらなかった。


「そんな必要もない。魔力がないのは事実だ。さっさと森の外に──」

「おや、それは困るな。非常に困る」

「──っ!?」


 聞き覚えのある声。

 蕩けるように甘く、耳に残る低い声。夜の寝室でしか聞いたことがなかったけれど、独特な声は天狐族次期国王ヴィクトル・アブドゥウォロエヴァ!?

 ブリジット(前世の私)の片翼にして夫だった人がどうして、こんなところに?

 天狐族は世界の調停者で、基本的に天空都市から出てこないのに……どうして!?

 まさか私が転生していると勘づいた!?


 恐る恐る顔を上げると、黒い外套を羽織った魔法使いのような恰好の美青年が、私の隣に立っていた。エルフとはまた違った造形の美しさ、白銀の長い髪に、黒い角は片方が折れていたが十六年前と変わらない姿だった。狐耳や尾は見えないけれど、琥珀色の瞳は間違いないヴィクトル様だわ。

 もう、会うことないと安心していたのに……。


「これは森の大賢者ルティ様!」

「え……?」


 その場にいた全員が、片膝を突いて頭を下げた。私も兵に頭を下げるよう押し付けられたが、それをルティと呼ばれた大賢者が止めた。


「彼女は私の大切な人だ。無礼な扱いは止めて貰おうか」

「も、申し訳ございません」


 ()()()

 森の大賢者? 私の知らない単語が飛び込んできた。これは夢? やっぱり別の世界線!?

 パラレルワールド的な?

 ヴィクトル様は私に片膝を突いて、手を差し出す。


「怪我は? 怖くはなかったかい?」

「あっ……いえ……」


 前世でもそんな風に声をかけられたことはなかったのに、今さらどうして?

 いつもしかめっ面をして、不機嫌で笑顔を見せたことは一度だってなかった。会うのはいつだって帳の降りた真夜中で、会話もない。甘ったるいお香で記憶も曖昧なまま、体を重ねるだけの関係であり、魔力消費と世継ぎを産むだけの存在として扱われた。

 彼は私を「姫」と呼び続け、私は「あの方」と意地でも名前を呼ばなかったけれど、何も言わなかった。対話を持たなかった──それが私の知るヴィクトル様()という人だ。


 前世の記憶が脳裏を過り、私がブリジットだと知られたら……。そう思うと指先が震えて、彼の手を取ることができなかった。また天空都市に攫われて、一室に閉じ込められて、全てを奪われるのかと思うと怖くてたまらない。

 今度は自害なんてさせる隙を見せないだろう。転生しても生贄として、またズタボロになるまで役目を? そんなのは嫌……。


「……っ」

「……怖がらなくても何もしないよ。シモン、彼女は私が身元保証人となる。今後、彼女に無礼を働いたら──分かっているね」

「……承知しました。先ほどの無礼をお許し下さい」

「うん、次はない」


 私が手を取らずにいるとルティ様は少し傷ついた顔を見せたが、真っ白な毛布で私を包み抱きかかえた。

 あまりの手際の良さに困惑している間に、魔法を使ったのか瞬時に別の場所へ移る。幾何学模様の美しい王城から、見慣れない部屋に転移した。


 やられた! また掻っ攫われて……!

 再び天空都市に取れ戻される!

 そう思った瞬間、前世の記憶がフラッシュバックした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ