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 俺っちの視界に飛び込んできた光景。

 それは側近の肘鉄がクソ王子の顎をかち上げ、

 歯を砕き、

 怯んだ隙に低姿勢から鉄板の入った軍靴をすかさず鳩尾にぶち込み、

 浮いたシバッグの顔面に回し蹴りを叩き込む。

 ダダッ‼︎ とバウンドし再び宙を舞う身体。

 満身創痍のシバッグの方を見たまま、

「誰がド腐れ(ファッキン)処女プッシーだごるぁぁあああッッ‼︎‼︎‼︎」

 落下とともに加速した矢の勢いを殺すことなく掴み、

 心臓をひと突き。

 刺し貫いて、そのまま地面に叩きつけた。

 ドゴォッ‼︎‼︎ と。

 魔力砲によって石畳が抉られ下の土が剥き出しになった地面に、シバッグの上半身が埋め込まれる。

「ざまあねぇぜド畜生(ブルシット)母性愛者(マザーファッカー)ッ‼︎」

 誰もがポカンと口を開くなか、側近の罵声だけが響く。

食らい(テイク)がれ(ザット)売女の息子(サノヴァビッチ)ッ‼︎ この()ド畜生(ファッキン)ケツ穴野郎(アスホール)ッ‼︎ てめえみたいなクソ野郎(バスタード)はミンチにして豚の餌になるのがお似合いなんだよ母性愛者マザーファッカーッ‼︎ 地獄でもっぺんくた(ファック)(ユア)(セルフ)陰茎(ディック)野郎(ヘッド)ッッ‼︎‼︎‼︎」

 罵倒に次ぐ罵倒。

 ひと通り言い切って満足したのか、

失せろ(ピスオッフ)この()小物ピース牛糞オブ野郎シットッ‼︎」

 してなかった……。

 叫ぶ側近が突き出したクソ王子の腹部に渾身の蹴りをぶち込むと、飛んだ身体がふよふよと浮遊していたゴーストを霧散させ、遠くの建物の外壁に激突。

 すでに耐久性を失っていた石の壁が崩れ落ち、クソ王子の幕が閉じた。

 オーバーキル過ぎませんかね⁇

 今度こそ気が済んだのだろうか。

 乱れた髪を整えるなり、小走りで俺っちの方へ駆け寄ってくる。

「そ、それで……さっきの話の続きなんだけど、」

 いや無理無理!

 そんな亜光速の切り替えできんわ!

 目の前で起きた厄災カタストロフをまだ消化できてないから!

 助け舟を求めて仲間たちに視線を送るも、

(やめとけ……)

(なにビビってんのよ、それでも魔族の王なわけ?)

(ぷけぇ……僕ゴーストでよかった……)

(姉さん、さすがっす! 一生ついていくっす!)

 うーん……

 役立たずどもが!

「そのお弁当、開けてほしい」

 さきほどの猛獣と見紛うような暴虐さとは打って変わって、もじもじとしおらしい側近。

 もうこうなったら見なかったことにするしかない。

 消去消去っ! 隕石よ、どうか! どうか俺っちと、ついでにソルドメスターの亡霊の頭に降ってきてください!

 雲ひとつない晴天のもと、俺っちは心のなかでお祈りをしながら、激しい運動に耐え抜いた結果硬く結ばれた風呂敷をなんとか解いて、蓋を開けた。

「ど……どう、思う?」

「どうって……」

 上気した顔で視線を横に逃すレイナに、俺っちは見たままの感想を伝える。

「すごく美味しそうだよ? このちらし寿司」

「は⁇」

「え?」

 慌てた様子のレイナが駆け寄り、お弁当箱を覗き込む。

「ダメになっちゃってる!」

「そんなことないって! ちゃんと美味しそうだから!」

「ちがうの! これ本当はオムライスなの! ケチャップで文字を書いた!」

「お、おう……なるほど」

 たしかに、ちらし寿司にしては魚が入っていない。

 オムライスというなら、原形は跡形もなかった。

「いや美味そうこのオムライス! 俺っちどうせ混ぜて食べるから変わらないよ!」

「じゃなくて!」

 焦ったそうに足踏みをするレイナが、最後に俺っちの袖を掴む。

「……書いてあった文字が大事なの」

「な、なんて書いてあったの……?」

 尋ねると、眉を(ひそ)めたレイナがむっと頬を膨らませる。

 俺っちは再び周りを見回した。

 片手で顔を隠して俯くバナナマン。

 首元に向けた手を小刻みに振って「バカ、やめとけ!」とジェスチャーをするミス=ポッツ。

 あとのふたりを見る必要はあるまい。

 沈黙があった。

 レイナがなにを考えているのか、その表情から読み取ることはできない。

 きっと言葉を探し、まとめていたのだろう。

 長いのか短いのか。時間の感覚が麻痺して判別のつかない静けさの末に、思い切った様子のレイナが口を開く。

「あたし、レガリオの翼を捥いじゃいたいって、そう思うよ!」

 互いに顔を見合わせ、肩を軽くもち上げる役立たずな野次馬ども。

 そうさ。

 その意味するところは、

 レイナと俺っちだけが知っている。

「レガリオはどう? あたしのこと、食べたい?」

 笑ってはいる、が、どこかもの寂しい表情。

 ハキハキと明瞭だが、わずかに震えている身体。

 近くで繰り広げられる、

「それはつまりですね、食べるっていうのはつまるところのそういう意味なのでしょうかばッふぅ!」

「黙っとけツギハギ! それともあーしが蔦でその口縫ってやろうか?」

 なんて言葉は気にせず。

 俺っちは素直に、正直に、

「レイナのこと、食べたいかはまだ分からない……」

 飾らず、まっすぐ、レイナに胸の内を明かす。

「……けど、レイナと毎日ご飯が食べられる俺っちは、幸せ者だって思うよ」

 レイナが期待していた返答はきっと、できていないに違いない。

 しかし、彼女は怒ることも悲しむことも、塞ぎ込むこともしなかった。

 ただ、笑って。

「……そっか! では、今後とも、あたしの手料理を食べられる光栄に与らせて差し上げましょう!」

 なんだそれ。

 なんだこれ。

 心のなかを渦巻く、初めての感情。

 なんと形容すればいいのか分からないまま、俺っちはふっと笑いを溢した。

 そして。

 レイナの口調を真似て、

「お手伝いができる光栄にも、与らせていただけますかな?」

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