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剣の墓標  作者: えっちぴーMAX
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カネル平原の戦い

カネル平原はテーネ川の中流に位置し、ロックウェル王国とアルシア帝国に跨って存在している。元々は大河であるテーネ川の氾濫(はんらん)により出来たと言われ、肥沃(ひよく)な大地が数十キロ続くが、数年置きに発生するテーネ川の氾濫や雨季による豪雨により湿原となるため、農耕には大規模な治水事業が必要とされる。しかし、治水事業には両国の協力が必須であるにもかかわらず、両国の歴史は戦いの歴史であり、停戦や休戦という選択肢はあるが、和平という選択肢は存在しなかった。

特にアルシア帝国はここ数年と、領土の主な穀倉地帯が干ばつにより不作が続いており、食料不足が深刻化していたため、カネル平原の占領と新たな穀倉地帯の確保を目的とし、皇帝の意思が戦争に傾いたのであった。


戦闘の指揮は総司令官として、カネル平原のあるロンダルム州を治めるギノス=ロンダルム公爵が任命され、前線部隊指揮官には、カネル平原の防衛を任されているロイ=ハイバンス辺境伯が指揮をとることとなった。彼らは昨年も同様に戦闘の指揮を任されており、その教訓を活かして後方支援はギノス=ロンダルム公爵が、戦闘指揮はロイ=ハイバンス辺境伯が()ることになっていた。

エドが仕えるダン=クレイスト騎士爵はロイ=ハイバンス辺境伯に仕えており、この関係を親と子になぞらえて、寄親(よりおや)寄子(よりこ)と呼んでいた。辺境伯の寄子である騎士爵家は12人であり、それぞれがダン=クレイスト騎士爵と同様に地方都市の自治をまかされていた。また、騎士爵家の戦闘の単位は戦団として定められ、その中に各従士が隊長として隊を率いることになっていた。


辺境伯は|一月(ひとつき)前に戦時態勢へ移行した時からカネル平原に近い寄子から出征命令を下令しており、ダン=クレイスト騎士爵を除く8つの寄子を招集(しょうしゅう)し、戦闘準備を整えていた。この時点で兵の動員数は1万五千を超えていた。一方で帝国側の動員数は5万と予想されており、総司令官であるロンダルム公爵はロンダルム州の州都、ベルムクレムの居城で追加兵力の招集と物資の集積及び運搬の手配に追われていた。

此度(こたび)(いくさ)、お前はどう見ている?」

机の上に山のように積まれた書類の束を見ながら、ギノスは自らの長男であるトーラス=ロンダルムに語りかけた。州都(しゅうと)の自治を任されているトーラスも父の手伝いを行い机を並べていた。しかし、去年の戦闘の際も書類の決裁やら、補給計画書の変更やらに追われたがこの量は異常であった。

「商人からの物資の請求額や量を見ると去年の倍は軽く超えています。食料は去年の不作を考えれば打倒ではあるものの、ロンダルム州配下からの補給申請はどこも3倍以上の申請が入ってます。」

「なるほど、各地の配下が去年よりも兵を過剰(かじょう)挙兵(きょへい)しているということか。」

「はい、(さと)い者は独自の情報網を持つ者もおりましょう。アルシア帝国の動員数が予想よりも多いと考え、自らの兵員を規定数より多く派兵していると考えられます。」

「8年前のガルガンティアの戦いを思い出すのお。」

「はい。敵の兵数を読み違い、多数の兵士を失いました。」

「同じ失敗をするわけにはいかぬ。よかろう、アルシア帝国による派兵兵力を増員する。再度見積もり、補給計画を変更させよう。」


ロイ=ハイバンス辺境伯はテーネ川の対岸にいるアルシア帝国の兵士を見ていた。この時期にはまだ、テーネ川に流れ込む雪解け水が少なく、500メートルはある対岸は徒歩でも十分に渡ることが可能となっていた。河川の幅が一番細くなる地点にアルシア帝国の兵士は結集していた。その数はおよそ10万であった。

ハイバンス辺境伯は行軍で疲れているアルシア帝国に先手を打ちたいという思いに駆られたが、テーネ川が国境となっており、彼らが川を渡らなければこちらから攻撃することはできなかった。ハイバンス辺境伯は一旦、盾の丘と呼ばれるテーネ川に最も近い陣地に戻り、さらに防御を固めようとした。


アルシア帝国がテーネ川を渡り、国境の越境を開始したのは翌日の早朝であった。

迎え撃つロックウェル王国は約3万の兵力で川を渡るアルシア帝国に魔法や弓を使用して攻撃を開始した。火炎魔法を主に攻撃は行われ、その詠唱(えいしょう)の間に弓が用いられた。テーネ川は凶悪な熱気を含みまさに地獄の釜になっていた。敵を倒しても倒しても続く人の波は川の浅い部分を埋め尽くし、アルシア帝国兵はやがて死体の上を通ってロックウェル王国の大地に足を踏み入れるようになっていた。


主力である魔法使いの魔力が尽きようとしたころ、ハイバンス辺境伯は魔物の咆哮(ほうこう)に似た声を聞いた。

その声は戦いをしている兵士の集中をかき消し、一同に声のする方向を見た。空に3つの黒点(こくてん)が見えた。やがてそれらは翼を使って飛んでいる鳥のように見えた。さらに近づいて来ると、その巨大な鳥の背には人が(またが)っているのが見えた。

飛んでくる方向からアルシア帝国の兵力であることが分かっていた。さらに悪いことに上空からの攻撃を受けると被害が拡大することが予想された。攻撃目標を3匹の巨鳥に変更しようとしたところ、その姿には羽毛はなく、硬い鱗に覆われていること、口から火のようなものが出ていることをハイバンス辺境伯は確認した。

「いかん、相手は鳥ではない、竜種であるぞ、それもワイバーンのような亜竜ではなく、火を吹く本物の竜だ。全隊、火力を3匹の竜に集中、その他は防御しつつ後退する。」

ロックウェル王国側の兵士は竜を見たことがほとんどなく、未知の魔物が吐き出す高熱の炎に焼かれて隊列は崩れ、盾の丘まで敗走することになった。


ダン=クレイスト騎士爵とその家臣団が盾の丘に到着したのは撤退から3日後であった。

エド達プラナタリア隊は与えられた区画に簡易テントを張っていた。すると戦闘指揮官であるロイ=ハイバンス辺境伯への挨拶を終え、ダン騎士爵が戻って来た。エドはダンの顔色から戦況の悪さを感じ取っていた。エド達、隊長各である従士は一際大きいテントの中に招集された。羊の革を使って防水処理がされた上等なもので、中は一本の木で支えられた簡易のテントとなっており、20名程が入れるような広さがあった。

「ここまでの移動で疲れていると思うが、いつ戦闘が始まるかわからん。先に戦況について話しておこう。」


ダンの話によると、無事に撤退ができたのは、アルシア帝国の兵力である3匹の竜の内、1匹の竜の御者を倒したことにあった。撤退中に最後まで殿(しんがり)を務めていたハイバンス辺境伯の長子であるアルベルト=ハイバンスは槍の投擲(とうてき)により竜の御者を倒すことに成功したが、御者(ぎょしゃ)を失い魔法制御から解き放たれた(いか)れる竜に上腕部を食われて、亡くなってしまった。

その後も竜は敵味方関係なく、近くにいた人間を手当たり次第に攻撃し続け、その結果戦場は混乱し、両国はともに態勢を整えるため陣まで撤退することとなったのだ。


「こちらの兵力は現在8万、対する敵は10万だ。それに3匹の竜がいるから、こちらが劣勢(れっせい)だな。今後5万の増援が見込まれているが、到着には1週間程掛かる見込みだ。」

「竜対策が今後の戦いの趨勢(すうせい)を左右するということですね?」

クレイスト団の中で最大兵力を事実上統率する筆頭従士レイ=ベナンが言った。

「そうだ。対竜対策として現在、最も有効とされるのが槍による投擲と魔法攻撃である。我が団は明日の戦闘において、敵の竜を倒す栄誉ある任務を拝命した。明日は全員に槍を装備し、魔法士は全員戦闘に参加することとする。以上だ解散。」


テントから出ると、外は夕暮れ時になっていた。

自らのテントに戻ろうとしていたエドとジャックはレイに呼び止められた。

「二人とも少し話がしたい、大丈夫か?」

「ええ、もちろんです。」

ジャックが答え、エドは頷いた。

「お前たちは戦場に慣れていると思うが組織として戦闘に参加するのは初めてだ。それに団として、各隊の連携の訓練は今までしてこなかった。そこで明日は遊撃隊として竜討伐に参加してもらいたい。」

「わかりました。」

「敵兵は俺たちの隊にまかせろ、その間に竜を倒してもらいたい。」

レイの横顔は何かを決意した、それでいてなんとも言葉で言い表せない、でも目を離すことができないそんな顔をしていた。

エドとジャックは力強く頷いた。

この日エドが見た夕暮れは今まで見た中で一番鮮やかな赤色であった。





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