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【コミカライズ・九章完結】鏡花の桜 〜花の詩〜  作者: 京崎 真琴
第三章~白菊~
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真実①

「おまえ……また来たのか?」

 長屋の戸を開けた新助は、そこに立っていた叡正を見て呆れた顔で言った。

「ああ……、ちょっと聞きたいことがあって……」

 叡正は引きつった笑顔で応える。

 信と叡正は子どもが連れていかれた後、その足で新助の長屋にやってきていた。

 叡正としてはついこのあいだ来たばかりのため、行くことに抵抗があったが、信が子どもについて聞きたいと譲らなかった。

 正確に言うと、聞きたいと言った後の信の無言の圧に耐えられず、叡正がしぶしぶ案内することになっていた。


「いや、別にいいが……隣にいるのは誰なんだ?」

 新助は叡正の隣にいる信を見た。

「えっと、こいつは……」

 叡正は信を見て言葉に詰まった。

(誰って聞かれると……。俺もよくわからないんだよな……)

「えっと、信っていうやつで……。……咲耶太夫の知り合いだ……」

「はぁ?」

 新助が訳がわからないという表情で信を見る。

「なんで咲耶太夫の知り合いがうちに来るんだよ……。一体何の用なんだ?」

「えっと……」

 叡正が言葉に詰まっていると、信が一歩前に出た。

「十くらいの子どもに心当たりはないか?」

 信は新助を真っすぐに見つめる。

「はぁ?? なんだ?? 何の話しなんだ?」

 新助は困惑した顔で頭を掻きながら、叡正を見た。


「あ、いや、このあいだ火事の現場で花を供えていた子どもがいただろう? その子どもにまたさっき会ったんだ……その……恭一郎さんが火付けを疑われた火事の現場で……。その子が『僕のせいだ』って言ったんだ。あのときの子どもに心当たりはないか?」

 叡正が慌てて説明する。

「僕のせい……? あの子が火付けに関係あるってことか……?」

 新助は目を見開く。

「いや、まだ何もわからないんだが……。何か知ってはいるんだと思う」

 叡正の言葉に、新助は腕組みをして考えているようだったが、しばらくして諦めたようにため息をついた。

「悪ぃな……。思い当たる子どもはいない。そもそも、そんなに子どもと関わることなんてねぇからなぁ……」

「そうか」

 信はそう言うと、礼だけ言って去っていこうとした。

「お、おい! ちょっと待てよ! ああ、突然訪ねてすまなかった! また何かわかったら知らせる!」

 叡正も早口で新助に言って信を追いかけようとした瞬間、こちらに向かってきた男と目が合った。


「あれ? 叡正さん? また来たんですか?」

 男は叡正を見て、目を丸くした。

 先日長屋で話した火消しの男だった。

 信も男を見て足を止める。


 声を聞いた新助が慌てて長屋の外に出た。

「どうした? 何かあったのか?」

「あ、いや、火事とかじゃないです」

 男は慌てて首を振ってから、新助の元に駆け寄った。


「あの、お頭と話しがしたいって子が……」

 男はそう言うと、遠くで佇んでいる子どもを指さした。


「あ!」

 叡正は思わず声を出した。

「どうした?」

 新助は叡正を見る。

「あの子だ。さっき会ったのは……」

 叡正の言葉を聞き、新助は子どもを見つめた。

「確かにこのあいだ見た子どもに似ているような……」


 子どもはゆっくりと新助たちに近づいてきた。

 先ほどと同じで子どもの顔は相変わらず真っ青だった。

 子どもは信に気づくと少しだけ頭を下げ、その横を通り過ぎて新助の前に立つ。


「……すべてお話しします」

 子どもは新助を見上げた。

 顔色は悪く唇も少し震えていたが、新助を見つめるその眼差しには強い決意の色があった。

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