表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ・九章完結】鏡花の桜 〜花の詩〜  作者: 京崎 真琴
第九章~蓮~
296/324

八年前②

 花見から戻った日の夜、茜は屋敷の廊下で父親に呼び止められた。

「おまえ……今日永世様にお会いしたのか……?」

 父親はどこか不安げな顔で言った。


 茜は自分の鼓動が速くなっていくのを感じた。

(もうお父様の耳に入るなんて……)

 茜は平静を装い、少しだけ首を傾げた。

「ええ。たまたま花見のときにお会いしましたが……。それがどうかしたのですか?」

「いや……」

 父親はわずかに視線をそらした。

「特にどうというわけではないんだが……。おまえ、何を話そうとしていたんだ……?」


 茜は、目を伏せている父親を見つめた。

(やはり……話されてはまずいことを、しようとしているのね……)

「何を……というわけではありませんが、佑助の絵を永世様が拾ってくださったので、その絵についてお話ししていただけです」

 茜は小さく微笑んだ。


「佑助……。ああ、あの家の子か……」

 父親はそう呟くと、ゆっくりと茜を見た。

「あの子と……あの家に関わるのは……もうやめなさい……」

「え?」

 茜は思わず目を見開く。

 叡正の家と関わるなと言われるのは予想していたが、佑助と関わるなと言われるとは思っていなかった。

「ど、どうしてですか……? あの家の方とは、お父様も親しくしていたでしょう……?」

 もともと佑助の家を茜が訪れたのは家同士が親しく、以前から交流があったためだった。

 なぜ今になって関わるなと言われたのか、茜には理解できなかった。


「方針の違い……というやつだ……」

「方針……?」

 茜は眉をひそめる。

「それは……お父様がやろうとしていることと、関係があるのですか……?」

 茜は我慢できず、思わず呟いていた。


「な!?」

 父親は目を見開いた。

「おまえ……やはり……聞いていたのか……!」


 父親は茜の両肩を掴むと、声をひそめる。

「何を聞いた……? いや、何を聞いていてもいい……。ただ、すべて忘れろ。おまえには関係のないことだ……。いいか、おまえは絶対に関わるな」

 父親の切迫した声に、茜は思わず身を引いた。

 父親の顔からは血の気が引いていた。


「ほとんど……何も聞こえませんでした……」

 茜は静かに目を伏せた。

「ただ……お父様たちが……何か……してはいけないことを、しようとしていることはわかりました……」

 茜の言葉に、父親の指先がわずかに震えたのがわかった。


「誰かが動かなければ……世の中は変わらないんだ……」

 父親の声はかすれていた。


「お父様……」

 茜は父親に視線を戻す。

 父親の顔は暗く、ひどく苦しげに見えた。

(お父様は一体何を……)


 父親は茜の肩から手を下ろすと、ゆっくりと息を吐いた。

「いいな……? すべて忘れろ。それから……永世様にも、佑助にももう関わるな……。それだけでいい……」

 父親はそう言うと茜に背を向け、暗い廊下を歩いていった。


「お父様……!」

 茜は父親の背中に手を伸ばしたが、その手が父親に届くことはなかった。


 茜はこぶしを握りしめる。

「お父様……、私は決めたのです……。自分の心はもう欺かないと……」

 茜は薄暗い廊下を真っすぐに見据え、静かに顔を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ