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【コミカライズ・九章完結】鏡花の桜 〜花の詩〜  作者: 京崎 真琴
第八章〜彼岸花〜
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出来すぎた結末

 夕暮れ時、男は茶屋で人を待っていた。

 茶屋の主人はすでに店の奥に行き、男のほかに茶屋には誰もいなかった。


 男は湯飲みを見つめていたが、外から近づいてくる足音に気づき顔を上げた。

「遅かったね。何か……」

 男が言い終える前に、額に傷のある男が男の胸ぐらを掴む。

「おまえが仕組んだんだろ……!」

 傷のある男は怒りを押し殺した声で言った。


 男は、傷のある男を見上げるとクスッと笑う。

「さぁ……、なんのことだかわからないな」

 傷のある男は、男に顔を近づけた。

「とぼけるな……! 最初から毛色が違うのじゃなくて、あいつを殺すのが目的だったんだろ……!」


 男は目を細める。

「おいおい、何をそんなに怒ってるんだよ。不幸な事故だろ? まさかあいつが出てくるなんて俺も思わなかったよ」

「ふざけんな!」

 傷のある男は声を大きくした。

「今まで鳴りを潜めてて、こんなに都合よく出てくるわけねぇだろ! 最初から全部おまえが仕組んだとしか思えねぇ!」


 男は微笑むと、胸ぐらを掴む手を払った。

「あのさ、もう一度聞くけど……何をそんなに怒ってるんだ? あいつは、どちらにしろ殺さないといけなかっただろ?」

 傷のある男は、わずかに目を見張った後、視線をそらした。

「そんなこと……俺だってわかってる……」

「へ~、わかってるのに見逃したわけだ」


 傷のある男は目を見開く。

 男はにっこりと微笑んだ。

「知らないとでも思ったの? 知ってたさ。まぁ、同情はするけど、放っておくわけにはいかないだろう? 毛色が違うのとは訳が違う。あいつはあの方のことも知ってるし、俺やおまえの顔もわかるんだ」

 男は鋭い眼差しを傷のある男に向けた。

「消すしかない。それぐらい、おまえにもわかるだろ」


 傷のある男は額の傷を掻くと、目を伏せる。

「……わかってるよ」

「そう? わかってるならいいけど」

 男はにっこりと笑った。

「それに、最後までどうなるかわからなかったんだよ。信、弥吉、それからあいつ。誰が死んでもよかったんだ。まぁ、あいつが死ぬ確率が一番高いと思ってたのは事実だけど……」

 男はそう言うと、湯飲みを手に取った。

「あいつなら止めることもできただろうけどさ、それだと信は狙われ続けるからね。あいつの性格からして、自分が刺されて終わりにするだろうとは思ってたよ」

 男は湯飲みの茶に口をつけた。


「相変わらず性格悪ぃな、おまえ……」

 傷のある男が吐き捨てるように言った。

「そう?」

 男は湯飲みの中にある濁った茶を見つめる。

「こんな俺たちの末路としては……出来すぎなくらい良い最期だったと思わない?」


 男の言葉に、傷のある男は静かに目を伏せる。

「どうだか……」

 傷のある男は小さくそう呟くと、男に背を向けた。

「あれ、もう帰るの?」

 男は首を傾げて微笑んだ。

「ああ」

 傷のある男は背中を向けたまま答える。

「今日はこの話だけで、ほかに用はねぇんだろ? 聞きたいことは聞けたから帰る……。何かあったらまた呼べ」

 傷のある男はそう言うと片手を上げて、茶屋を後にした。


「まったく……」

 男は湯飲みを見つめると苦笑した。

「おまえこそ相変わらずだろ……。まぁ、無理もないか。あいつとおまえ……似てたからな……。たったひとりの守りたかった人間に死なれたってあたりは、特に……」

 男は目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。


「さぁ、切り替えていくか……」

 男は目を開けると、濁った茶を飲み干し立ち上がった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 信は繰り返し同じ夢を見ていた。

(ああ……、またこの夢か……)


「そのまま、振り返らずに聞け」

 よく通る低い声が耳に響く。

(やはり、あのときの人は……)

 信は刺された男のことを思い出した。


「この先、おまえは……俺たちについてきたことをきっと後悔することになる……。でも、もしいつか……おまえが運よく逃げ出せたときには……腕に鬼の刺青がある人間には絶対に近づくな……」

「鬼の……刺青……?」

 夢だという自覚はあったが、信の意思に反して口はいつも同じ言葉を繰り返すだけだった。

「後悔する……? それに逃げ出すって一体どういう……」

「今はわからなくていい……。あいつらはみんなつながっている……」

 信は横目で男を見た。

 男の口がゆっくりと動いていく。


「あいつらは、この世の……閻羅人(えんらにん)。この、人の道の……鬼だ」


(そうだ……あいつらは地獄の……)

 信が思い出したところで夢は途切れ、信はより深い眠りへと落ちていった。

~彼岸花~ 花言葉『悲しき思い出』『再会』


第八章を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。゜(゜´ω`゜)゜。

また第九章が始まりますので、引き続き読んでくださる方はブックマークなどしていただけると大変嬉しいです!

こんなに長い物語をここまで読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!!

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