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【コミカライズ・九章完結】鏡花の桜 〜花の詩〜  作者: 京崎 真琴
第八章〜彼岸花〜
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咲耶の頼み

「信に絵の補修を?」

 咲耶は鏡越しに弥吉を見た。

 女が訪ねてきた翌日、弥吉は咲耶に長屋での出来事を話した。


「それで明後日屋敷に行くことになった……と」

 昼見世の準備をしていた咲耶は、髪を結われているため鏡越しに口を開く。

「それに何か問題があるのか? 竜さんという知り合いの娘から依頼されたんだろう?」


「そう……です、たぶん……。そう名乗ってはいました……」

 弥吉はそう答えると、静かに目を伏せた。

「名乗っていた……ということは違ったのか?」

 咲耶は振り返って弥吉を見る。

 咲耶の髪を結っていた男も咲耶の様子に、静かに手を止めた。


 弥吉はおずおずと顔を上げる。

「違うかどうか……わからないんです……。竜さんは数日前からどこかに出かけているそうで……確認ができなくて……。でも、信さんは何か疑っているようで、様子がいつもと……」


 咲耶は珍しく不安げな表情を浮かべていた。

「信は……何か言っていたか?」

「いえ、何も……。ただ、あれからいつも以上に口数が少なくて……」

 弥吉はそれだけ言うと、静かにうつむいた。

 咲耶はしばらく何か考えているようだったが、やがて口を開いた。


「弥吉に頼みがあるのだが……玉屋の男衆を何人か同行させてくれないか?」

 咲耶の言葉に弥吉は目を丸くする。

「玉屋の……?」

「ああ、私がその皿に興味を持っているから、とでも言ってくれ。弥吉が玉屋の文使いなのは、その女も知っているのだろう?」

「そうですね……。本当に竜さんの娘なら……知っているはずです……」

「それなら、その理由で押し通してくれ。本当に絵の修復が目的なら、人数が増えたところで問題はないはずだ」

 咲耶はそう言うと、弥吉を真っすぐに見つめた。

「もし男衆の同行も拒否するようなら……そのときは、行くのはやめるよう信に言ってくれ」

「わ、わかりました」

 弥吉は咲耶を見つめると、力強く頷いた。


「まぁ、おそらく……」

 咲耶は小さく息を吐いた。

「行くことにはなるのだろうが……何かあったとしても最悪の事態は避けられるはずだ」

 咲耶の言葉に、弥吉はこぶしを握りしめる。


 咲耶はそれだけ言うと静かに鏡台に向かって座り直し、背後に控えていた男は再び咲耶の髪を結い始めた。

「弥吉……」

 咲耶は鏡越しに弥吉に視線を向ける。

「屋敷に着いたら絶対に信から離れるな」

「え?」

 弥吉は意味がわからず、思わず咲耶を見つめた。

「とにかく絶対に離れるな。いいな、わかったか?」

 咲耶はいつになく強い口調で言った。

「あ……はい……」

 弥吉は戸惑いながらも小さく頷いた。

 弥吉が頷くのを確認すると、咲耶は微笑む。


「引き留めて悪かったな。仕事に戻ってくれ」

 咲耶はそう言うと、目を伏せた。

「あ、いえ、こちらこそ忙しいときに申し訳ありませんでした! 失礼します」

 弥吉はそう言うと、一礼して咲耶の部屋を後にした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 弥吉が部屋から出ていくと、咲耶は息を吐いた。

(狙いはなんだ……?)

 咲耶は鏡に映る自分の顔を見つめる。

 鏡の中の咲耶の顔色は決していいとはいえなかった。

(弥吉に……気づかれただろうか?)


 咲耶は強く目を閉じた。

(明らかに罠だ。しかし、こんなあからさまな手を使って、信を屋敷に来させる理由は一体なんだ……? 三日後などと、あえて猶予を与えたのはなぜだ?)


 咲耶は片手で顔を覆った。

(弥吉も一緒に行くのか……)

 咲耶は深く息を吐いた。

(弥吉は自分が殺されるところだったことを知らないからな……。むしろ狙いは弥吉の方なのだろうか……?)

 どれだけ考えても答えは出なかった。


(関係のない人間を同行させれば、人目を気にして、正面から信と弥吉を殺しにかかることはないだろうが……)

 咲耶はゆっくりと目を開ける。


(信なら大丈夫だ……。きっと何があったとしても……)

 咲耶は何度も自分に言い聞かせたが、咲耶の不安が消えることはなかった。


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