表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ・九章完結】鏡花の桜 〜花の詩〜  作者: 京崎 真琴
第七章〜南天〜
229/324

医者の長屋で

 目的の場所に着いたとき、すでに日は暮れ始めていた。

 長屋の戸を開けて出てきた良庵は、信の顔を見るとあからさまに顔をしかめた。

「またか……」

 良庵は荷台に横たわっている弥一を見つめた後、荷台のそばに立っていた叡正と弥吉を順番に見た。


「……一応確認だが、荷台にいる男は生きてるんだろうな……? なんだっていつもこう突然……。どうせまた咲耶の依頼なんだろ?」

 良庵は片手で顔を覆うと、深いため息をついた。


「いや、今回咲耶は関係ない」

 信は良庵を見つめながら、淡々と言った。

「は?」

 良庵は目を丸くする。

「関係ないって……、じゃあ、誰の依頼だ? それに咲耶じゃないってなると……金は……あるのか?」

 良庵は不安げな表情で信を見た。

 信は静かに首を横に振る。


「おまえ……ここは駆け込み寺じゃないって言っただろ……!? 俺が無償で人を助けるような良い人間に見えるのか?」

 良庵は頭を抱えた。

「いや、見えない」

 信は淡々と答える。


「……おお、わかっていてもらえて嬉しいが、そこは嘘でも良い人間に見えると言うべきところだぞ……。まぁ、おまえに言ってもムダか……」


 良庵が荷台の弥一を見ていると、心配そうにやりとりを聞いていた弥吉が一歩前に出た。

「あ、あの……!」

 弥吉は良庵を見つめると、おずおずと懐から巾着袋を取り出した。

「金はあります……。この金で俺の父親を診てもらませんか?」


「おまえは……。ああ、咲耶のところの文使いか! おまえの父親か……」

 良庵は、荷台の弥一と弥吉を交互に見る。

 言われれば、確かに二人はよく似ていた。


 良庵は弥吉の前まで足を進めると、弥吉が差し出した巾着袋を受け取った。

 中には十分すぎる額の金が入っていた。


「君!」

 良庵は巾着を持ったまま、弥吉の両肩を叩いた。

「君は、なんてまともなんだ! 咲耶のところにもようやくまともなやつが……! すぐ診てやる!」


「え、は、はい! ありがとうございます!」

 弥吉は目を丸くした後、慌てて頭を下げた。

「どうかよろしくお願いします!」


 良庵は嬉しそうに何度も頷くと、信と叡正を順番に見た。

「ほら、信とそこの色男! 荷台の患者を早く長屋に運べ。布団敷いとくから」

 良庵は二人に向かってそう言うと、先に長屋の中に戻っていった。


 叡正が弥一に触れるより早く、信が弥一をまた荷物のように担いだ。


「お、おい! またそんな乱暴に……」

 叡正の言葉を無視して、信は長屋に向かって進んでいく。


 叡正と弥吉は顔を見合わせた。

「俺たちも入ろう」

「あ……はい」

 不安げな弥吉を叡正が促し、四人は良庵の待つ長屋に入っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ