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【コミカライズ・九章完結】鏡花の桜 〜花の詩〜  作者: 京崎 真琴
第四章~桔梗~
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闇の中へ

(どうしてこんなことになったんだ……)

 与太郎は部屋の隅で頭を抱えていた。

 薄暗い部屋の中で、灯りに照らされて蠢くいくつもの影だけが、かすかに与太郎の視界に入る。


「くそっ……、また負けた……。おまえイカサマしてんじゃねぇのか……!?」

「おいおい、運がないのを人のせいにすんなよ」

「なんだと!? てめぇ……! 表出ろ!」


「おい、それよりさっさと次、賭けろよ」

「丁? 半?」


 与太郎は体の震えを抑えながら、両手で耳を塞いだ。

 今までにも賭場に出入りしたことはあったが、ここまで柄の悪い賭場は初めてだった。

 出入りしている人間の質が明らかに違う。

(ここにいたら、そのうち殺されるんじゃねぇのか……)

 与太郎は目立たないように、必死で息を殺す。


 心中の騒ぎが収まるまで隠れていろと言われ、指示されたとおりの賭場に身を隠したが、与太郎の心はもう限界だった。


(あれからひと月は経ったよな……? もう外に出ても大丈夫なんじゃないか……?)


 与太郎がそんなことを考えていると、ふいに部屋が急激に静かになったのに気づいた。

(な、なんだ……?)

 与太郎は思わず顔を上げる。

 ここに来てから、賭場がこんなに静かになったことは一度もなかった。

 

 目の前で賭博に興じていた男たちは、茫然と入口の方を見ている。

「なんであいつが……」

 男たちが小さく呟く。

「仕事でヘマして死んだって噂だったじゃねぇか……」

「なんでここに……」


 与太郎は男たちの視線の先を見る。


 そこには、ひとりの男がいた。

 薄茶色の珍しい髪の男が、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきている。

(なんだ……? 普通のやつじゃねぇか……)


 薄茶色の髪の男が、ふいに与太郎の方に視線を向ける。

 顔を上げて男を観察していた与太郎は、完全に男と目が合った。

 薄茶色の瞳が与太郎を捉えると、その目がわずかに見開かれたのがわかった。


(まずい……!)

 与太郎は慌てて、顔を伏せてうずくまった。

(誰だかわからねぇが、あの目……。目的は俺なのか……?)


 賭場は水を打ったように静まり返っていた。

 男の足音がゆっくり近づいてくるのがわかる。

(どうして……! どうして俺のところに……!?)

 うるさいほどに響いている自分の鼓動を抑えるように、与太郎は自分の体をきつく抱きしめた。


 男が与太郎の前で足を止める。

 男の影で与太郎の視界が一気に暗くなった。

(バレたのか……!? それで俺を探しに……!?)


 与太郎が恐る恐る顔を上げると、すぐ目の前に薄茶色の瞳があった。

「ひっ!??」

 与太郎は思わず声を上げると、壁際に後ずさる。

 その瞳はひどく冷たく、ゾッとするほどの威圧感があった。


「おまえが……与太郎か?」

 男は淡々と聞いた。

 その声からも表情からも何の感情も読み取れなかった。

「ち、ち、違う!!」

 与太郎は思わず大きな声で言うと、首を勢いよく横に振った。

「誰だ、それ!? 俺はそんな名前じゃ……ち、違う!!」


 男は何も言わなかった。

 ただ無言で与太郎を見つめると、やがてふっと目を細めた。

「ひっ!??」

 頭から一気に血の気が引いていくような冷淡な笑みだった。

「ほ、本当に……!!」

 与太郎が思わず立ち上がってそう口にすると、首の後ろに強い衝撃を感じた。


(え…………)


 視界の端で薄茶色の髪がふわりと揺れるのが見えた。

 与太郎の意識はそこでプツリと途切れた。

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