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【コミカライズ・九章完結】鏡花の桜 〜花の詩〜  作者: 京崎 真琴
第四章~桔梗~
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木島屋で

「ここでいいのか?」

 叡正は「木島屋(きじまや)」と書かれた米問屋を見ながら信に聞いた。

「ああ、ここのはずだ」

 信は店の中の様子を窺いながら応える。


 咲耶と話してから数日が過ぎた日、叡正のもとに手紙が届いた。

 手紙は「信が明日の朝、山吹と心中したとされている男の家に行く」という簡潔な内容だった。

 手紙には男の家までの簡単な地図が描かれていたため、叡正はそれを見ながらここまでやってきたのだ。


「誰もいないんだよな……」

 叡正は静まり返った店を見ながら呟く。

「ああ」

 信はそう言うと、店の戸を開けて中に入った。

「え!? おい! ちょっと待て!」

 叡正が慌てて信を呼び止める。

「どうした?」

 信は振り返ると叡正を見た。

「どうしたって……。勝手に入るのは……」

 叡正は辺りを見回した。

 幸いにもこちらを見ている者は誰もいないようだった。

「家主がいないんだから、勝手に入るしかないだろう?」

 信は淡々と言った。

「いや……、そうだけど……」

 叡正が目を泳がせていると、信はそのまま奥に入っていった。

「おい! ちょっと……!」

 叡正はしばらく店の前をウロウロしていたが、一向に信が出てくる様子がなかったため、周りを確認するとしぶしぶ信の後を追った。


(米問屋なのに、米俵がひとつもないんだな……。まぁ、家主が行方知れずじゃ、当然か……)

 叡正はガランとした店を見て回る。

(信はどこだ……?)


 叡正が奥に向かって進んでいると、ギシッという音が上から響いた。

 叡正は天井を見る。

(信は二階か……?)

 叡正は階段を見つけると、少し薄暗い階段で二階に上がっていく。


(あ、いた……)

 信は二階の座敷にしゃがみ込み、じっと畳を見ていた。

「何かあったのか?」

 叡正は、信の背中に声をかけた。

「畳が新しい……」

 信が畳を見つめたまま呟く。

「畳?」

 叡正は座敷の畳を見つめた。

 確かに建物の古さに比べると、畳は新しいようだった。

 叡正は首を傾げる。

「古くなって替えただけじゃないのか?」

 信は叡正の言葉に何も言わず、畳の縁に手をかけた。

「え……?」

 信は畳を持ちあげると、別の畳の上に裏返して置いた。

「お、おい……!」

 叡正は信に駆け寄る。

 畳がなくなり、そこは床板が見えていた。

 信はまた別の畳の縁に手をかけ、順番に裏返していく。

「おまえ……何してるんだ……?」

 叡正は呆然と信を見ていた。


 座敷の半分ほどの畳を裏返したとき、信の動きが止まる。

「今度はどうしたんだ……?」

 信のよくわからない行動にめまいを覚えながら、叡正が聞いた。

 信は叡正の問いかけには答えず、床板に顔を近づける。

(え!? ……本当に何をやっているんだ……?)


「見つけた」

 信はそれだけ言うと、立ち上がった。

「……何をだ?」

 叡正は疲れ果てた顔で信を見る。

 信は床板に目を向けた。


(見ろってことか……?)

 叡正はしぶしぶ信の隣まで足を進めた。

 床板を見た叡正は首を傾げる。

「何だ……、これは……?」

 床板には何かをこぼしたような黒い染みが広がっていた。

「血だ」

 信が淡々と言った。


「ち? え、血!? 血……なのか? 本当に……? だ、誰の……」

 叡正は目を見開いて信を見た。

「さぁ、誰のだろうな……」

 信は床板を見つめたまま呟く。


 叡正は再び黒い染みを見つめる。

 少し怪我をした程度でできる血の量ではなかった。

 しかも畳から床板に染みたと考えれば、これ以上の量の出血があったことになる。

(血を隠そうとしてるってことは……)

 叡正は眉をひそめた。


「一体……どういうことなんだ……?」

 叡正は小さく呟く。

 信は少しだけ叡正を見てから目を伏せた。

 その呟きに答えられる者は、誰もいなかった。

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