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【コミカライズ・九章完結】鏡花の桜 〜花の詩〜  作者: 京崎 真琴
第四章~桔梗~
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望む場所

(何からお話しって……)

 叡正は目の前の緑を見ながら、引きつった笑みを浮かべた。

「じゃ、じゃあ……咲耶太夫のことでも話すか……?」

 叡正には、緑との共通の話題がそれしか思い浮かばなかった。


 叡正の言葉を聞き、緑はなぜかにんまりと笑う。

「いいですよ! やっぱり叡正様は花魁と新助様のことが気になってたんですね」

「え!? いや……そういうわけでは……」

 叡正は目を丸くして首を振ったが、緑は構わず話し続ける。

「わかってます! わかってますから!」

 緑はニヤニヤしながら言った。

(一体、何がわかってるんだ……)

 叡正は思わずため息をついた。


「あれからお二人は特に何もありませんよ。そもそも江戸一の男になったらってお話しでしたから、新助様が江戸一だと胸を張れるようになるまでは、もうこちらにはいらっしゃらないと思います。お客でもなければ、間夫でもありませんし」

「そうなのか……」

「そうですよ! 叡正様は感覚がおかしくなっているようですけど、そもそも花魁はそんな簡単に会える方ではないんです!」

 緑は叡正に顔を近づけて言った。

 緑の勢いに叡正は思わずたじろぐ。

「そ、そうだな……。申し訳ない……」

 叡正はなぜか謝った。

「まぁ、わかればいいんです。というわけで安心しましたか? 叡正様」

 緑は姿勢を元に戻すと、叡正を見て微笑んだ。

「安心?」

 叡正が聞き返すと、緑は小さくため息をつく。

「まぁ、わからないならいいんです」

 緑はそう言うと、大人びた表情で微笑んだ。

「私は応援していますよ、叡正様」

「え……ああ、ありがとう」

 叡正は戸惑いながら、とりあえず礼を言った。


「あ、でもあれだろう? 咲耶太夫ぐらいになると身請けの金は相当な額になるんじゃないのか?」

(新助は嫁にと言っていたが、遊女の身請けには相当な金が必要だよな……。ましてや、咲耶太夫なら……)

「ああ、普通はそうですけど、花魁の場合は少し違います」

 緑の言葉に、叡正は不思議そうな表情を浮かべる。

「そもそも、花魁は売られてきたわけではないので……。前にお話ししたように、見世の前に捨てられていたのを玉屋の楼主様が引き取って育てたんです。ですから、もともと借金がないうえに、これまでにかかったお金も花魁はすでにご自身で稼いでいますから、花魁の気持ちひとつでしょうね」

「え!? そんなことありえるのか……」

「まぁ、玉屋の稼ぎ頭ですし、何よりうちの楼主様は花魁のことを娘のように愛していますからね。覚悟を見るために相当な額を提示される可能性はありますが……」

「そ、そうなのか……」

「はい。まぁ、それでも花魁の気持ちを尊重するでしょうから。花魁が望んでいるのなら払える額にするでしょうね。……花魁が身請けされずにここにいるのは、ひとえに花魁がここにいることを望んでいるからです」

「……玉屋にいたいってことか」

 叡正の言葉に、緑は微笑んだ。

「花魁は口ではそっけなくても、誰より情に厚いですからね。以前花魁に聞いたら『特に行きたいところもないから』って言ってましたけど、本当は玉屋のみんなが心配なんだと思います。やっぱり花魁は世界一です」

 緑は目を輝かせた後、少し悲しそうな顔をした。

「ただ、花魁には幸せになってほしいので。心から望む場所を見つけてほしいとは思っています。だから……」

 緑は叡正を見つめた。

「叡正様も頑張ってくださいね」

「頑張るって……何を??」

 緑は微笑んだ。


「何でもありませんよ。まぁ、信様との関係は清算してからにしてくださいね! 泥沼の関係は困ります!」

「清算!? もともと何の関係もないのに何を清算するんだ! まだそんな噂があるのか!?」

「ありますよ。新助様との噂も最近増えました」

 叡正は愕然とした表情で緑を見つめる。

「そんな噂まで……」

 頭を抱える叡正を見て、緑は微笑んだ。

「いろいろと頑張ってください、叡正様」

 緑はそう言うと、叡正の背中をポンポンと叩く。


「可能性はなくはない……かな」

 緑は小さく呟くと、楽しげに笑った。

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