輝夜「月が綺麗ね、永琳」
「月が綺麗ね」
「死んでもいいわ、とお答えすべきですか、姫」
「違うわよ。文豪を気取りたくなったわけじゃないの」
「それは……私の早とちりでしたね」
「ええそうね。単純に月が綺麗に見えるなと思っただけよ。永琳、貴女の目にはどう映っているのかしら」
「幻想郷から見る月は……とても美しいですね」
「でしょう?」
「昔は見ることのできなかった光景ですから」
「夜風に当たるだけのことが、こんなにも気持ちがいいなんてね」
「ここは本当にいい場所です。姫にとっても。私にとっても」
「ふふ、追われないようにしないとね」
「妙な行動をしなければ、博麗の巫女や賢者たちから咎められることもないでしょう」
「えぇ~?たまにはスリルも欲しいでしょう?」
「姫?」
「冗談よ。月都万象展のようなもの、またやりましょう?」
「まったく、姫の冗談は冗談に聞こえませんよ」
「でも退屈なのは事実なのよねぇ」
「永遠亭の仕事ならばいくらでもありますが」
「そういうのじゃないのよ」
「まぁ……分かってはいましたが」
「異変レベルで派手なことをやると怒られちゃいそうだし……」
「目に見えてますね。であれば誰かを招くか、あるいはどこかへ出向くか……」
「ふむふむ!なかなか面白そうね。幻想郷内ならどこへ行ってもいい訳でしょう?」
「そういった形にはなっていますが、外出なさるときはまた策を講じますよ」
「うふふ、頼りになるわね、永琳は」
「ありがとうございます、姫様」
「ああ、そういえば。永遠亭の診療所としての状況はどうなってるの?全部丸投げしてるけど」
「手伝っていただいても構わないとは申しましたが、経営が苦しいという程逼迫しているわけではないですよ」
「ああ、傾きかけてるとは思ってないわ。なにせ永琳だもの。ただ人間たちの社会に溶け込む計画はどうなのかなって」
「あえて万人を完治させないことで、神格化を防いでいます。あくまで現在の人間たちの技術レベルを鑑み、一歩二歩先行する形を取っています」
「へぇ~!洗脳して集金をすることが目的じゃないものね。そして、里にいる町医者の廃業も望んでいるわけでもないし」
「その通りです。敵を作らないように立ち回ることが肝要なんです。……総括としては、今のところ順調ですよ」
「あらあら!私の出る幕なんてないじゃない!うふふ」
「鈴仙とてゐもよく働いてくれていますよ」
「二人ともとっても可愛いものね~」
「そういうことではなく……。てゐは幻想郷の古株。この世界の動きや仕組みをよく理解しています。そして頭も切れる」
「竹林にたくさんいる妖怪兎ちゃん達の統率も見事なものよね」
「そして鈴仙は実践要因として単独行動に信頼がおけます。真面目な性格と軍人上がりの任務遂行能力、人里に向かわせるのは適任だったと言えるでしょう」
「そうね。薬売りをしているときは温厚で、異変解決の時なんかは真剣な顔をしてるのよね~!」
「姫の人徳の為せる技ですよ」
「多士済々!永琳、貴女もそのうちの一人だけどね!」
「我ら一同、永遠に忠誠を尽く所存です。」
「私も……あなた達の拠り所になるわ」
完