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94788月のクリスマス

作者: ヨツヤシキ

地球が滅亡する日、想いを伝えられなかった男の独白です。

 8歳の時、緑以外には何もない、ほんとうになにもない片田舎で、僕はみんなと暮らしていた。


 楽しかったな。いや、温かかったな。


 何年かが過ぎて、SNSで地球滅亡の日が騒がれるようになった。


 どれもくだらない、だけど、現実になればどれも恐ろしいものばかりだった。


 そろそろインスタントの味噌汁にも飽きてきた。気付いたら27歳になっていた。


 人間の脳にある情報を、余すところなく記録することに成功した。


 僕の事を好きだと言った、優しくて可憐な彼女を最初に保存した。


 ディスプレイの中で優しく語りかけてくれる彼女がとても愛おしい。


 ある日、たくさんの警察官が僕の研究室に踏み込んだ。


 僕がいったい何をしたっていうんだ。僕はただ研究をしていたかっただけなのに。


 為す術も無く捕らえられた僕は、意識を失った。



 ……気が付いた時、人類は滅亡していた。



 いや、人ではなくなってしまったと言うべきだろうか。


 けれど、人の本質は変わらない。もちろん、この僕も。


 僕は研究室に戻った。


 研究室の外では、世界規模の大戦争が、何度も、何度も、気が遠くなるほど繰り返されている。


 なんだろう? 最近、時々意識が途切れそうになる。


 きっと疲れているんだろうな。そういえば、この研究室に来てから一度も外に出ていない。


 外に出よう。そうだ、彼女も連れて行こう。


 明日、どこかで待ち合わせをして、一緒に街を歩こう。


 何時がいいかな…… 明日は西暦7898年12月25日。クリスマスだ。


 長いこと、本当に長いこと、そんなことも忘れていたな。


 最近、インスタントの味噌汁の味が恋しくなってきた。


 本当に、本当に飽きてしまっていたのに。


 翌日、僕は彼女と一緒に街へ出た。でも、そこに街は無かった。


 あるのはただ、瓦礫の山だけだった。


 ――まあ、いいか。

 

 彼女が隣にいて、気分転換が出来ればそれでいい。


 登れそうな段差を見つけては上へ上へと進む。


 僕も彼女も、動くたびに各部のアクチュエーターが軋んで悲鳴を上げる。


 人工の皮膚に接続されたセンサーが、彼女に触れているということを、電気信号で知らせる。


 どうしてだろう? せっかくの気分転換がちっとも楽しくないのは。


 瓦礫の山を登り切って、僕と彼女は周囲を見渡した。


 何もない、本当に何もない荒れた世界。小さいころに見たあの緑が懐かしい。


 あれはいつだっけ。僕が8歳だから、西暦2000年くらいだったような。


 そういえば、高校生の時に地球滅亡の日が話題になってたっけ。


 とても幼稚で荒唐無稽だったけど、一つだけ気なったことがあったな。


 たしか、はるか遠くの銀河でガンマ線バーストが起きて、


 僕たち人類には遠くても、宇宙規模で見ればその距離は僅かなものでしかなくて、


 2軸に指向性を持った極大の光の矢は、地球をやすやすと撃ち抜く。


 致死量のガンマ線によって文明は滅び、生物の大半が死に絶える。


 莫迦らしいよな。


 でも、どうやらそれは本当だったみたいだ。


 ああ、なんで一言、本当の彼女に「愛してる」と言えなかったんだろう。 

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