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第2話


「ファレロ……? 大丈夫か?」


 肩を叩かれ、はっと我に返った。反射的に伏せていた顔を上げると、色白な腕が顔の前にある。やはり光の球から顔を守ろうとしていたのだろう。腕を下ろすと、前に立っている男がいた。

 プラチナブロンドを爽やかに整えた彼は、顔も小さく、やや口も小さいが、高い鼻と切れ長の瞳がバランスを整えて秀麗である。年の瀬は10代後半といったところか。身長は高く、180センチはある。

 彼の名を知っている。ルイスだ。

 なぜ、知っているのだ?

 頭を抱える。


 そこはどこかの野原だった。太陽がじりじりと照り返して露出している腕を焼き、とても熱い。地面に広がる芝生は豊かでみずみずしく、緑が眩しかった。

 どこかの丘の上。

 いや、家の裏にある丘の上だ。

 湖を望めて、湖畔がきらきらと反射している。右手に1本の大樹が立派に天に伸びていて、父親が子ども達のためにと取り付けたブランコが風に乗って揺れている。


 知っている。


 振り返れば、やはり記憶通りの赤茶色の三角屋根の乗った我が家があった。

 なぜ、知っているのだ?

 この家も、丘も、湖も、この男の名前も。

 あの光の球は?

 闘技場は?

 あの大勢の人間達は?

 大老は?


 なぜ、知っている?


「おい、ファレロ! しっかりしろ!」


 両肩を掴まれ、揺さぶられると、頭の中がごちゃごちゃと引っくり変える。撒き散らされていた記憶が元あった場所へ並んでいく。こっちの棚へ、あっちの引き出しへ。それは早戻しと同じだった。

 ひゅんっ、と部屋が片付くと、記憶がはっきりとした。


 そうだ、自分はファレロだ。

 16歳。中背痩身。特技は木登り。髪は焦げ茶で短く、瞳は金。弟がふたり、兄と姉がひとりずつ。祖父母と両親と、このルイスと共に10人で暮らしている。


 じゃあ、先の記憶は夢だったのか?

 違う。あれも、やはり自分だ。不気味なほどに鮮明に覚えている。光の球が迫ってくる風も熱も、眩さも。あの拍手喝采も、コーヒーとゴミの混じった匂いも。


 ということは、ここは過去なのだ。日本ではない、どこかの過去。


 そうとわかると、ファレロは腹が立った。


(あのクソ大老。違うっつってんのに話聞かないんだから)


「ファレロ、大丈夫なのか!?」

「あ、ご、ごめん、大丈夫。ちょっと、目眩が」


 言うと、やっと安堵したルイスがほっと息を吐いた。互いに、歴史の教科書で見たウィピールのような裾まである麻の1枚服を着て、ベルトで留めている。


「驚かすなよ。暑さにやられたんじゃないか? 家に戻ろう。本番は明日だ」

「そうだね。……ん?」


 本番?

 本番って、なんだっけ?


 じっくりと頭の中の引き出しを開け閉めすると、ようやく思い出した。


「魔法隊適性試験か!」


 そうだ。

 明日は国軍の入隊試験。しかもファレロは希少とされる魔法隊への入隊を希望していて、1年に1度しかない試験が明日なのだった。


「……本当に大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫! ルイスは、騎馬隊の試験に受かってて、来月から入隊なんだもんね!」

「やっぱり心配だ。早く家に戻ろう」


 そう言って、ルイスはファレロの体を簡単に持ち上げて家へと急いだ。


「大丈夫だってば! なんか、やっと追い付いてきた気がするから!」


 記憶が。


「やっと魔力が目覚めたのに、入隊資格は16歳までなんだぞ。明日が最後のチャンスなのに、体調なんか崩していられないんだから」

「わかってる! 体調は問題ない!」


 問題あるとすれば、むしろここに生きていることそのものなのだが。

 結局、抱かれたまま家に戻るはめになり、カウチに寝かせられるや冷たいタオルを額に乗せられた。

 家族が総出で顔を覗き込んでくる。


「ちょっと大丈夫なの?」と母親。


「大丈夫だよ」

「魔力を持ってるだなんて、それだけで国宝級なんだから気を付けてよね」

「わかってる」


 素直に言えば、魔力を有している自覚はとっくに忘れている。どうやって魔法を使うのかも、とんと思い出せない。

 当たり前だ。

 魔法なんて使えない。正体は普通のアルバイトなのだから、なにを期待されてここにいるのか本当にわからない。

 しかし、どうやら一家の期待を双肩に乗せているらしいことはわかる。以前の記憶と、頭に眠る記憶とでごっちゃになり、なかなか思い入れは薄いのだが、期待を裏切るわけにはいかないと思うほどには家族に対する愛着がある。


「もう今日はゆっくりして、明日に備えてね!」と弟。

「わかったよ」


 そう言って、お言葉に甘えることにした。片付けたつもりの頭に、まだ手入れが必要のようだ。眠れば幾分かすっきりするだろう。


 そもそも大老は、一体なにを自分に望んでいたのだろう。ファレロはさっぱりわからなかった。



◇◆◇◆◇◆



 予想は正しく、記憶はすっきりとした。この記憶は以前の、この記憶はファレロのと、判別がつくようになった。

 試験会場に向かうために乗馬もしたが、体が覚えていた。


「じゃあ行ってくるんだぞ。緊張しないで、しっかりとやれば大丈夫だから」

「わかった。私よりルイスが緊張してどうするの」


 ぷぷ、と笑ってしまうのは、ルイスの顔が強張っているからだ。

 ルイスはいわゆる従兄弟だ。父の兄の息子で、兄夫婦が他国に旅に出たまま音信不通になってしまったので父が引き取って育てている。物心ついたときから一緒に生活をしていたせいで、ファレロの中では、ルイスはすっかり兄だ。

 そんなルイスは人見知りで緊張しやすくて、体の線が細いから歩兵や装甲兵でなく、警護の花形である騎馬隊を志願した中性的な顔をしている。


「むしろファレロがどうしてそんなに緊張してないのかがわからないよ。最後のチャンスなんだよ? わかってる?」

「わかってるよ」

「なんだか心配だなあ……」


 ファレロよりもそわそわしているルイスに手綱を託し、素早く馬を降りる。


「じゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい。リラックスね!」

「わかった、わかった」


 何度も背中に激励を送ってくれるルイスをいなし、試験会場に入っていく。

 会場の外観は一見して石造りの壁に見えた。見上げるほど石を積み重ねて出来ていて、両端は見えないくらいに遠い。トンネルのように空けられた穴が入口で、くぐると薄暗い道がしばらく続く。


 本当に試験会場なのだろうか。

 なにせ人がいない。

 日付か時間を間違えているのでは?


 不安になりながら、見えてきた光に潜る。


 そこは開けた場所だった。


 中央に置かれた闘技場。囲う階段観覧席。


(ああー……。ここね、はいはい)


 記憶に新しいコロッセオに、どうやら確かに自分は過去に飛ばされたらしいと確信する。

 その証拠に、崩れているところもなく新品のように闘技場は整備されていた。


 闘技場に数名が待っているのが見える。

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