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奴隷商人は楽じゃない  作者: 末期代
1/1

奴隷商人になりたい

「よし!俺は奴隷商人になるぞ!」


「?!しっ!何言ってるんだよもう!妄言はいい加減にしな!」


「だって楽しそうじゃないか!俺はもう決めたんだ!」




子どもが声高に宣言している。名前はダルマン、齢8歳にして、奴隷商人に憧れてしまったようである。


それを母親らしき人物に抑えられ、白い目を向けられている。


それもそのはずで、普通奴隷を売るってなるとみんな思うところがあるからである。




「俺だって才能はあるんだ。魔法だってちょっと使えるし、剣だってまぁまぁできる。俺にはできないことなんてないんだ!」


「でも、奴隷もないし、金もない、そんなあんたが周りの信用まで失うような奴隷商人なんてやること自体おかしいわ。もうちょっとものを考えてから言いなさいな。」


「...だって、、、普通に働きたくない~ゴニョゴニョ____。」


「とにかく、うちからはそんなことには協力しないから、よく考えておくんだよ。」


早ければ10歳から働き始めるこのご時世、元手のかかるうえ、外聞のよくない奴隷商人。


しかし、やっぱりやってみたいというダルマン。彼は売りたいというか奴隷を扱って、あわよくば奴隷に生活を任せて楽をしたいと考えている。俗物というよりかはただの生活向上である。


それならば奴隷を買えばいいと思うが、買ったら買ったでそういう目で見られるという不安がある。


その点、奴隷商人は職業だから合法みたいなものである。職業欄にも書くことができるし、奴隷を買う、集める口実ができる。


ダルマンの家庭事情はまずまずといったところである。父は出稼ぎに、母は野菜を栽培するほか、家事や販売などを行っている。


家は立派な石造りだが、見た目はやはり貴族の家に比べてしまうと見劣りする程度である。ただ、あくまで見劣りであり、その頑丈さは勝るとも劣らないので、この辺ではしっかりしたものである。


まぁ、それをしたのがダルマンの父であることは容易に想像ができ、その腕を見込まれて方々へ稼ぎに行っているのである。


ダルマンはそんな父の仕事があまり好きではない。父に比べたらダルマンは確かに肉付きがないかもしれないが、そんなことは大人になるまで分かりはしないのである。


そういうわけもあり、大変そうな仕事をするのも、見るのも嫌になり奴隷商人という一見よさそうな職業を見つけてしまったのだろう。


ダルマンは母の手伝いをしないで、家の周りから近所を徘徊していた。母は気づいているが、黙認している。ダルマンは気晴らしの場合もあれば、少し離れた森の中にまで行くことがある。森には野獣がいて、仕留めれば豪勢な夕食になるということだ。魔法が使えるダルマンはその練習もかねて森に度々行っては、家に持って帰ってきていた。と黙認される理由にはいろいろある。


一旦家に帰ると思ったら、何やらリアカーのようなものを轢いて森に行こうとしたダルマンだったが、後ろから声を掛けられる。



「ねぇ、ダルマン。」


「ん?なにか用?シリリカ。」


「また森に行っちゃうの?」


「そうだけど、お前はついてくるなよ。」


「何で?」


「だって、お前野獣にあったらすぐ泣くし、腰引けて転ぶし、戦えないじゃん。お前が気絶したら俺が運ばなきゃいけないじゃん。」


「大丈夫だよ、それくらい。だって私女の子だもん。軽いもん。」


「いや、籠いっぱいのうちの野菜より重たいから。」


「あー、いった!いっちゃった!重くないからね!ダルマンひどいこと言った!うえーん。」



シリリカという丸顔でふんわりとしたショットの髪をした少女は、どうやら乙女心を削られたようで、耐えきれなくなって逃げ帰ってしまった。これも冴えないダルマンとご近所さんとの日常である。


ダルマンは余計な奴がどっかにいったと、森に足を運んだ。





森はかなり広いため、一度入って、来たところを戻るというようしないと、家に戻るのが大変になる。ダルマンはそういうところにはまじめだったので、戻れるように印をつけながら進んでいく。


森の野獣はその数は多いとされているが、その森の中からは出てきたことがないため、近隣被害は自動的に防がれているようなものである。よって、森は管理らしき管理をする者もいないため、薪集めか、それ他の理由で入る者はめったにいない。


ダルマンは間違いなく後者のその他である。薪を拾う手伝いなどするわけなく、狩った野獣を落ち着いて食べたいがために、家まで持って帰るのである。


リアカーもどきは森の入り口の傍に置いていく。ただただ邪魔になるからである。ダルマンは見知った道を行くように森を進んでいく。


すると、どこかからいびきのような音が聞こえてくる。森の中でいびきをかくものは人間ではそういることではない。明らかに野獣の気配がする。


ダルマンは、その手に何やら刃先が光るように磨かれた鋭い石を持ち、足音を消していびきに近寄って行った。


そこには、体長2メートルほどの角の生えたクマのような野獣がいた。ダルマンが後ろから1メートルほどの距離に近づいても寝ている。まるで、自分のテリトリーの中で安心しきっているようだ。


ダルマンは後ろから正面に回ると、両手に石を持ち、その鋭利な先端を寝ている野獣の目に押し込んだ。


すると、急に眼が潰された野獣は恐慌状態になり、目から血を出しながら呻き暴れまわる。


その際に振り回された腕は、そこかしらの木にぶつかり、細い木をなぎ倒した。


ダルマンは野獣から10メートルほど離れていたので、木の崩落に巻き込まれないで済んだが、件の野獣はもはやばててしまい、息も絶え絶えのようだ。



「よーし、やるぞ!身体強化『フィジカラー』」



ダルマンは魔法で自分を身体強化し、今度はそれなりに長さのある木の棒を両手で握りしめ野獣の脳天に振り落とした。


すると、野獣はぴくッと体を大きく震わせたかと思うと、そのまま体から力が抜けたかのように動かなくなった。その脳天は木の棒に打ち付けられたように凹んでいる。


ダルマンは野獣を轢きずり、元の出口まで戻る。続けて狩りをしても、2体を運ぶほどの体力は残っていないし、獲物が腐ってしまうからだ。


そのままリアカーもどきに野獣を乗せ、家まで来た道を戻る。


ダルマンのうちとは違う茶色一色の木でできた集合住宅のような家が並んでいて、その建物と隣の建物の間からさっきのシリリカがいることが目に見えた。


シリリカはさっきのことを根に持っているようで、顔をそらしたり何やらせわしなく動きを見せては、伝わらないとわかったのか舌をこちらに見せつけては、家とは明後日の方向に歩いて行った。


ダルマンはめんどくさい奴だとこれまた追いかけることはなく、家までの帰路を辿る。


夕焼けで日が落ちるまで数刻あり、夕食がまだであったため、母はダルマンを見て、「やるじゃない。獣臭い。」といって、野獣を解体するため、包丁を取りに行った。


こうなるとダルマンにはやることがなく、とりあえず水で体をふいて汚れを取った。


野獣の調理には時間がかかるため、ダルマンは寝ることにした。


野獣を仕留め、程よい運動となったのか、すぐに浅い睡眠に入った。


そこでは、奴隷商人となった自分があくせくと働いている姿が浮かんでいた。


そうはなるまいと慌てておきたダルマンだが、丁度野獣の料理も出来たようで、「出来たぞ、いらないならそういいな。」とせかすように母が言う。


ダルマンが慌ててテーブルにつこうとすると、玄関が開き、そこには荒ぶる藍髪を逆立てた男がいた。



「おい、帰ったぞ。今日は獣か。丁度いい時間だな。」


「返ってくるのはいいけど、今回はどうだったの?」


「ああ、結構稼げた。そうだダルマン。」



目のまえの埃をかぶったような自分の父にダルマンは話しかけられ、体を向き返る。



「今回な、父さんが仕事で稼いだお金がまぁまぁの額でな。お前がそこそこ魔法も使えるっていうひねくれものだから、俺はお前を魔法学院に入れようと思う。これは決定だ。一番の問題である金の問題がうまくいったんだ。拒否権はない!」



そういい、父は夕食を食べ始める。ダルマンは理解はしたが、反論はしなかった。


なんかそういう話になりそうという予感は、この家の自分の魔法特性である程度わかっていた。


そして、金がないんだろうなってなり、そこから出稼ぎで家を空けることが多くなった。


これは断り切れないと。しかし、魔法学院に入る場合、考え方によっては自分の身の振り方を決める期間なのであるから、仕事に追われることはないのだ。


話が唐突すぎる上に半ば強制ではあったが、ダルマンはむしろ心の中で暗い笑みを浮かべるのであった。





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