ひとときつね
「ゲームばっかりしてないでせっかく田舎に来たんだから外で遊んできなさい!」
・・・母さんが怒鳴った
こんな田舎、来たくて来たわけじゃなんだけど・・・
ネットも繋がっていなければせっかくのゲームも友達と遊ぶことが出来なくてつまらなかった
「あ!そうそう!近くに山があるでしょ!あそこにはお化けが出るから近寄っちゃだめだからね!!」
そう母さんがまた怒鳴った
「わかったー!!」
お化けなんてそんなものいるわけないと、母さんの怒鳴り声に負けじとこちらも大声を出す
畳のにおいとかび臭い様な匂いのする部屋から抜け出し、玄関へと向かう
玄関には狐のお面が飾られている。
子供ごごろになぜか悲しい感じがしたそれは、常に何かを睨んでいるようだった。
少し怖くなり、急いで靴を履き外へと飛び出したけれど、
小さなころに一度来ただけのそこは、
懐かしい様なそして、ゲームで初めての場所に来た時のような高揚感があった。
地元では感じることのない空気感、木々が擦れ合う音
地元にはないもので溢れていたそこは、子供の冒険心をくすぐるには十分だった・
道端に落ちていた棒を拾い、構えてみる
まるで勇者の様な気分に今ならどんなところにもいける
どんなモンスターが来ても倒せる。そんな気分になっていた。
近くにあった川には魚がいて、冷たくて気持ちよかった。
しばらく川に手を浸けたりと遊んでいたが
ふと、この川を辿るとどこに行くのだろうと気になった。
子供ゆえの無敵感からか母さんの言っていたことを確認したくなった
川のすぐ横には山道があり、川と並行して続いていた。
鬱蒼としている山道を歩いていると小さなお社があった。
都会にはないそれを物珍し気に中を覗いてみると
玄関にあった狐の面と同じものがお社の中一面に飾られていた
『そこでなにをしておる』
「うわあああああ!!」
突如投げかけられた言葉に今まで出したことのない声が出た
驚いた拍子に後ろに飛びのいてしまい、しりもちをついてしまった。
「いたたたた」
『クフフ!何をそんなに驚いておるのじゃ』
笑い声のするほうへひっくり返りながら見上げ映ったそれは、
子供ながらに見とれるほど綺麗な顔立ちをしていた。
まるで太陽の光を反射した雪のような髪が、
木々の隙間から当たる光によって川のせせらぎのように輝いており、
その眼は曼珠沙華のような朱色をしていて
白を基調とした和装など、非日常的な佇まいをしていた。
そして、それが明らかに人間ではないと証明づける獣の耳が、
まっすぐ自分の方に向けられていた。
『怪我はしておらぬか』
「あ・・・はい・・・」
『そうか、それなら良い、ワシが声をかけたせいで怪我をされては困るからの』
そう言って笑みを浮かべ問いかける。
『なぜこのような場所におるのだ』
「あ・・・お化けを探しに・・・」
『お化け・・・?クフフなるほどのぉ』
「あの・・・あなたがお化け・・・ですか?」
『お化け・・・とは違うかの』
「えっと・・・じゃあ・・・その耳は・・・?」
『クフフ、わしは狐じゃ、ここに祀られておる』
そういうと祠に顔を向けた。
「神様・・・ですか?」
『そうじゃのう、そのように呼ばれてもおるなぁ』
「本物の神様とか!学校で自慢できる!」
『クフフ、学校で自慢か、クフフ、おぬし学校に行けるとおもうておるのか?』
「え?どういうことですか?」
『古来より、神が人間の前に姿を現すは、その人間が贄となった時のみよ』
「え・・・」
朱い瞳が怪しく光った
『おぬしはここから帰れぬよ?・・・ワシの贄じゃからな』
「あ・・・え?うわぁぁぁぁぁ!!!」
倒れたままだった体制を戻し、来た道へ必死に向かって言った。
『クフフフフフフ!!!もう来るでないぞ!!』
必死に走るその後ろから楽しそうな、でも少し寂しそうな声が聞こえた事に気づいたのは、
もう辺りも暗くなり始め、沈む夕日を背に仁王立ちをしていた母さんに怒鳴られた時だった。
これが人である伊澄と、悪戯好きな狐の神様の狐雪との
夏休みというひとときを過ごす、常に不思議な出来事の始まりとなった。