第7話 “旧友”
俺は病院の前でスマホを手に取った。
だが、話の内容は中々濃いものがある。
それなりに信頼できる人物でないと厳しい。
大学の友達も多くいる。
特にテニスサークルのメンバーとは仲がいい。
ふと、そのサークル内のある人物が一瞬頭に浮かんだが……俺は躊躇った。
予知夢が見えるだなんて話……信じてくれるかな。大学内で変人扱いされても困る……
ここは、今接点がある者は選ばない方がいいかもしれない。後々の生活に影響を及ぼす。
そうなると頼れるのはもう、1人しかいなかった。
“勇次”にしよう。あいつならきっと大丈夫だ。
・・・
家に着いた俺は、スマホで勇次にメッセージを送った。
本当は即刻電話して、詳しく悩みを明かしたかったけれど、今はまだ平日の午前中。電話では迷惑な話だろう。
『久しぶり。元気にしてるか?』
まずは他愛もない挨拶から。勇次の返信を待つことにした。
勇次は小学校の頃の同級生だ。
昔は仲良かったが、引っ越してからはあまり会わなくなった。
今は千葉に住んでおり、千葉の大学に通っている。
──数時間後。勇次から返信があった。
早速、俺はメッセージを返す。
『久しぶりだな! もちろん元気だよ。どうした急に? 何かあったのか?』
『ちょっと相談したいことがあってさ。出来ればメッセージじゃなくて、電話で話したい』
『そうか。じゃあまだ大学だから、今日の夜にこちらから連絡するよ』
『分かった。よろしく頼む』
──そして、その日の夜。
自分の部屋でくつろいでいると、勇次から電話がかかってきた。
久しぶりの電話だからか、なぜだか少し緊張するな。
もしかしたら、話す内容も関係しているのかもしれない。
変なやつだと思われたらどうしよう……
恐る恐る、俺は電話を取った。
「もしもし……」
「おーーっ! 誠人! 元気にしてたか?」
想像していた何倍もでかい声が、スマホから漏れる。咄嗟に通話の音量を下げた。
そして勇次とは対照的な、小さな声で俺は答える。
「あまり元気ではないかな……」
「マジかよ。そこは普通、元気だって返すとこだろ? よっぽどみたいだな」
「まぁね……」
そういえば勇次は、こんなからっきし元気な明るいやつだった。
最近会ってないためか、それをすっかり忘れていた。
でも、今の落ちている俺からしたら、丁度いいのかもしれない。
「それで、悩みがあんだろ? 元気もないみたいだし、何があったんだよ」
「それが………」
ここですんなり俺は悩みを明かそうとしたが、突如として恐怖を覚える。
電話だと相手の表情が分からない。イントネーションだけで、すべてを判断するのは難しい。
もし勇次が悪夢や予知夢の話に引いてしまって、これ以降連絡を取れなくでもなったら……
それは非常に困る。他にこれほど頼れる友達もいないしな。
「やっぱやめた。直接会って話したい。せっかく電話くれたのに、わりぃ」
「なんだよそれ。もったいぶらすなー。じゃあ久々に飲みにでも行くか!」
「あぁ、そうだな。それのが助かるよ」
「じゃあ誠人の家の近くまで俺行くよ。ついでに実家にも帰りたいしよ」
元々は勇次も実家の埼玉に住んでいた。埼玉が地元と言えるだろう。
あとは日にちと時間を決めて、電話を切ろうとした時……
勇次が思いがけないことを言い始める。
「あっ! せっかくだし、“芽依”も呼ぶか。あの日から会おう会おう言って、結局会ってないだろう?」
“芽依”とは、これまた同じ小学校の時の同級生だ。
家が近いこともあってか、女の子ながら勇次と共に、昔よく一緒になって遊んでいた。
芽依は今は神奈川に住んでいる。みんな今となっては地元を離れ、未だに地元に残っているのは俺ぐらいだ。
「あぁ……そうだな」
「オッケー。じゃあ芽依には俺から連絡しとく! 詳細が決まったらまた連絡するよ!」
「おう……」
そう言って、勇次は電話を切った。
恐らく、俺が芽依を誘うことに抵抗があったことに、勇次は気付いていない。
確かに久しく会っていない芽依に会えるのは嬉しかった。でも──
あいつ、俺の悩みのこと忘れてんのか? 出来れば、2人がよかったんだけど……
勇次よ。相談話は一体どこ行った。
まぁ、久しぶりに会った友人に、いきなりオカルト話を聞かされても、勇次としても困るところだろう。
とりあえず一度会って、悩みを打ち明けるのはその後でもいいか。