第67話 “リーダー”
智が残したと思われる、謎のメッセージ。
これが俺らに向けたものかどうかは、実際のところは分からない。
芽依から再び写真を手にした俺は、ボーッとその写真を眺めていた。
すると、おばさんの口から、まさかの言葉が飛び出す。
「ねぇ、せっかくだし、その写真、持ってってあげてくれる?」
「──えっ!? 数少ない遺品なんですよね? だったら保管してた方が……」
俺は慌てて拒否した。
こんな大切なもの……簡単に受け取るわけにもいかない。
しかし、おばさんは智の仏壇の方を見ながら、静かな口調で言う。
「ううん。いいの。小さい頃の写真なら、他にもたくさんあるから」
「いや……でも……」
再度俺は断りをいれるが、どうしてもおばさんは俺達に写真を渡したいのか、一向に退く気配がない。
「ちょうどこの写真に写るみんなが来てくれたんだもの! ねっ? だからいいでしょ? 形見として持っててあげて! これは私からのお願いよ!」
何だかお願いとまで言われると……さすがに俺も断ることはできないな。完全に根気負けだ。
「……はい、分かりました。それならありがたく、受け取っておきます」
こうして、俺達は智の形見も貰い、智の実家を後にした。
・・・
──山梨県から帰宅中の車内にて。
運転中の勇次は、助手席に座る俺に話しかけた。
「元気そうでよかったな、おばさん」
「あぁ、あれから1年以上たってるしな……元気で何よりだよ」
「俺達も来てよかった。何だか智からパワーを貰った気分だぜ!」
勇次のテンションは、いつに増してあがっている。
俺も勇次と同じ気持ちだ。久しぶりに智に会えてよかった。来て正解だったな。
それと……パワーを貰ったと言えば、この写真だけども……
どうしようか。1枚しかない。誰が持っておくべきだろうか?
「なぁ、この写真……誰が持っとく?」
その問いかけに対し、芽依は後部座席から返答した。
「それは誠人でしょ。誠人がおばさんから貰ったわけだし」
「いや、俺がたまたま受け取っただけで、それは関係ないだろ? 勇次はどう思う?」
「俺も誠人が適任だと思う」
「どうして!?」
「ここは……この中の“リーダー”が持っとくべきだと思うんだ。智は俺らの中で、リーダー的な存在だった。そいつを受け継ぐためにもよ」
そういう理由か。けど、その勇次の理論から行けば、全くもって俺ではだめだ。
いつも俺はみんなの足を引っ張ってばかり……それこそ勇次が適任だろう。
「なら、勇次だろ? いつも勇次が率先して、話を仕切ってくれる」
「それか……それはな……」
ちょうど車の信号待ちだったためか、勇次はここで一旦顔を伏せた。
「──少しでも智の代わりをやろうと……無理してただけだ。智がいないんだから、このメンバーで集まったら俺がしっかりしないと……ってな」
俺は今更ながら気付かされる。
元々勇次は俺達を振り回すくらい、自分の話をしたがりのやつだったけど……
言われてみれば、話をまとめたり仕切ったりするのは、得意な方ではなかった。
大学生になって、勇次も大人となり変わったのだと思っていたけど……
決してそういうわけじゃなかったんだな。
勇次は無理して、兄貴分を演じてただけだったんだ。
「だから、誠人。リーダーはおまえだ。おまえはいつも冷静な立ち位置で物事を見ることができてる。それに俺は一度は辞めた身だしよ……そんな中途半端な俺に、リーダーは務まらねぇ」
「まだ言ってんのかよ、その話……」
そう話してる間に、信号が青へと変わる。 今は運転に集中してもらうよう、勇次の心情を探ることはやめておくが……
意外にもあの出来事のことを、勇次は未だに後悔しているようだ。
冷静さで言えば、芽依のがしっかりしてる気がするけど……
勇次からしたら、女の芽依よりは、男の俺にやってもらいたいのだろう。
「分かったよ……俺がリーダーかは知らないけど、とりあえず写真は俺が持っとく」
写真は俺が持つことにするけども、本当にリーダーの件だけは保留だ。勘弁して欲しい。
俺は写真を綺麗に半分に折って、智同様、財布の中へとしまった。
「で、リーダー。昨日の夜も、あの悪夢を見たのか?」
「だからリーダーじゃないって! けど……まさにそうなんだ。昨日も同じ悪夢を見た」
実は、あれから続けて毎日、俺は遊園地の悪夢を見ている。
何度も嫌な気分を味わったが……その分だけ、成果も得られていた。
勇次が見ていた悪夢の記憶とのズレに、新たに気付いたのだ。
「忘れないうちに言っとくけど、勇次がいるはずのコーヒーカップ前のトイレ。元々はあそこにコースターは落ちるって、話だったよな?」
「あぁ、そのはずだが……なんだ? 違うのか?」
「ちょっとな。実際に落ちるのは、トイレの上じゃなくて、トイレの左横の道端部分だ」
「マジか!! やっぱ何度か悪夢を見たことは役に立ってるみたいだな」
「まぁな。だからと言って、結局勇次のやることは変わらない。トイレを封鎖して、近くに人を近寄らせないようにしてくれ」
「分かった。人が寄って来ないよう、しっかり見張っとく」
「それと、コースターは落下した際に衝撃でバラバラに砕ける。破片が刺さらないよう、十分注意して欲しい」
「あぁ、なるべく身を低くして、体を守るようにしなきゃだな。これは他の刑事さん達にも伝えといた方がいい。それで……肝心の支柱の倒れる位置はどうだった?」
「いや……それは残念ながら、分からずじまいだ……」
そう……何度悪夢を見ようとも……
支柱の倒れる位置は見えては来ない。
どう足掻いても距離が遠いため、時間が足りず、悪夢はいつも途中で終わってしまうのだ。
「なぁ、芽依。短い悪夢の時間の中で、どうすれば支柱のとこまで見れるかな?」
なぜか話にずっと入ってこなかった、後部座席の芽依の方に俺は目をやる。
すると、芽依はいつかの時のようにメモ帳を取り出し、何かを書き込んでいた。
考え事をしてたのか……だから俺達の会話に参加してこなかったんだな。
芽依は自分の顔を見られてることも気付かずに、適当に俺の質問に回答する。
「何度も同じやり方してるからだめなんじゃない? 無理なら諦めて、別の方法を取るべきよ」
適当な返しに関わらず、意外と的は得ているな……
「ふ~ん……別の方法ね……」
俺が渋々納得したところで、芽依は突如として大声をあげる。
「──そうか!! そういうことなのね!! 分かったわ!!」
突然の芽依の大声に、俺は耳を塞いだ。
「うわっ!! びっくりするな!!」
「そうだぞ、芽依!! 危うく事故るとこだ!!」
「ごめん、つい……でも、私、分かったのよ!」
意味深な発言をする芽依。
さっきから芽依は、メモ帳に何かをずっと書き込んでいた。
よほどの大発見でもあったのか?
「分かったって……何が?」
芽依は真剣な眼差しで、勇次に指示を送る。
「それを今すぐ説明したいから、勇次。一旦路肩に車を停めて!」
「あぁ……いいけど、何だよ急に……」
真に迫る芽依の表情に、勇次は言われた通り車を停車した。
そして、芽依は興奮冷めやらぬまま、俺達に説明を始める。
「いい、2人とも。これから私が話すこと…….よく聞いててよね!」




