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星が墜ちた夜から  作者: Guru
7章 4つの点
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第63話 “形ないもの”

 現田警部補は園長室に連れられ、必死に説得を行っていた。

 部屋には2人きり。園長大原による、遠慮なしの怒号が飛ぶ。


「ジェットコースターが事故を起こす? そんなバカな話、あるわけがないだろ!!」


 現田はパンフレットに書かれた、イベント要項に注目した。


「この用紙を見ますと、いつもよりジェットコースターの速度は速くなっているとあるじゃないですか。それにフリーフォールも、通常よりも高い……安全面は大丈夫なのですか?」


「もちろんだ。アトラクションってのはな、すべて安全面を考慮して、限界の遥か下(・・・)の設定となっている。それは速度も高さもだ。それに加え、このイベントの設定も限界ギリギリってほどでもない……素人は口を挟まないでくれるかな!」


「ならば……ジェットコースターだけでも、止めていただくわけにはいかないでしょうか?」


「それも無理な願いだ。このイベントのすべては、ジェットコースターから始まる作りとなっている。音楽にも合わせているし、今更プログラムは変えられん。イベント自体中止となってしまう!!」


「そう……ですか……」


 現田は何も言い返すことができなかった。

 無論、現田は誠人達を信じている。

 それゆえに、その理由を園長に話すことができずにいたのだ。


 話しても信じてもらえるわけがない……ましてや、根拠すら何もない……

 “信用”という“形ないもの”でしか、表現する術を持っていないのだから。


 現田が黙ったことをいいことに、園長大原は現田を捲し立てる。


「第一、去年もこのイベントは行い、大盛況を収めたんだ。機体だって今日もしっかり点検した。閉園後に走行テストだって何度もしている。我々に不備はない。さぁ、諦めて帰りたまえ!」


 大原は現田を部屋の外に追い出そうとした。

 しかし、想定外の現田の行動に、大原は驚愕する。


「あ、あんた……何を……」



 それは……現田は地面に頭をつけて──土下座をしていたのだ。


 こうするしか……今の現田には誠意を伝える手段がなかったのである。


「お願いします。どうかイベントを……中止してください」


「やめないか! 土下座なんてみっともない! あんたは警察の人間だろ? しかも、それなりに立場のある……プライドはないのか!?」


「そのようなものは関係ありません。人の命が懸かっているのです。どうかお願いします!」


 現田は更に深く頭を下げ、床にべったりと頭をつけた。


「なぜそこまでして、あんたは……」




・・・




 時刻は8時50分。

 イベント開始の10分前。


「ゲンさん……中々戻ってこないな……」


 イベントのために足を運んだのか、次第に客も増えてきている。

 実際にこれから事故が起きてしまうのなら……指揮官のゲンさんは正直居て欲しいところ。

 ゲンさんの力は、その手腕だけでなく、精神面でも作用する。

 ゲンさんいるいないでは、現場は大違いだ。


 俺達は予定していた持ち場に、それぞれがすでについていた。

 被害が一番出ると予想される連絡通路及び、下の一般道路は、数名の警察を配置してもらい、この時間は通行禁止となる。


 金子さんが機転を効かしてくれたおかげで、通行止めの理由はあくまでイベントのため。

 事故が起きるからというわけではなく、『単にイベントを理由に止めているだけ』という説明を客にしている。

 周りに不安を与えないような、そんな配慮までしてくれた。



「とうとう10分を切ったぞ……」


 俺は逐一時間を確認していた。

 客はイベント開始を心待ちにし、わくわくした笑顔の表情で溢れている。

 こんな不安な顔で“その時”を待っているのは、俺達3人と、警察の人達のみだろう。


 あと残り8分……といったところで、園内全体にアナウンスが流れ始めた。



『お客様にお知らせいたします。本日予定されていました、イルミネーション、花火のイベントは……強風のため、中止とさせていただきます。繰り返し、お知らせします──』



「えっ……中止? もしや……やったんだ! ゲンさんが園長を説得させたんだな!」


 俺は1人ガッツポーズをしていたが、周りの客からは、大量の溜め息と文句が飛び出ている。


「はぁー? 強風? どこがだよ! 全然風なんか吹いてねぇじゃねぇか!!」


「花火はできなくても、イルミネーションはできるだろ!! ふざけんなよ!!」


「私、わざわざこのために来たんですけど……最悪」



 このイベントを楽しみにしていた客が多かったのか、愚痴を溢しながら多くの人が出口の方面へと歩いていく。


 俺はしばらくその場で待機し、人の波が収まってきたところで、ジェットコースター乗り場の方へと向かった。

 そこにはすでに芽依、勇次、金子さんの姿がある。


「あっ、誠人!」


「やったな。ゲンさんが説得に成功したみたいだ!」


 それを聞いた金子さんが、開いていた2つ折りの携帯を閉じながら答える。


「そうみたいです。先程連絡が入っていました。あんな頑なに断っていた園長を、どう説得したのかは分かりませんが……」


 金子さんがそう言った、まさにそのタイミングで、ゲンさんがゆっくりこちらへ歩いてくるのが見えた。


「おっ、噂をすればゲンさんだ。おーい!」


 俺達はゲンさんに向かって手を振る。

 すると、手を振り返してはくれなかったものの、ゲンさんはこちらへと駆け足でやって来てくれた。


「みんな集まってたんだな」


 ゲンさんは俺達と合流する。全員が笑顔で出迎えていた。

 

「さすがね! ゲンさん!」


「ほんとだぜ! やっぱ頼りになる! それにしても、どうやって説得させたんだ?」


「それは……内緒だ」


 ゲンさんははぐらかし、あの頑固親父をどう口説いたのかは、何度聞いても答えてはくれなかった。

 まぁ結果的には、事故を未然に防ぐことができたんだ。細かいことはもういいか。


「終わったのか? これで……」


「なんだか達成感ってのが、ないわね」


 こんな終わり方は初めてだ。

 いつもは事件が起きてから、ギリギリのところで防いできていた。

 それに、今回の相手は“人”ではなく“機械”。何か起きてからではもう遅い。

 何事もなく終えたのなら、それは喜ばしいことのはず。


「でも……まだ俺と芽依の悪夢の日にちが残ってる。終わりと決まったわけではない」


 残された悪夢は、24日と26日のあと2日ある。まだ安心はできない。

 今日は20日のため、少し日にちが空く。

 ひとまず肩の力でも抜いて、ゆっくり休もうか。




・・・




──翌日の夜。

 あれから俺達は気の抜けない生活を送っていた。

 全員が『本当にこれで終わりなのか?』


 心の中で、そう思っていたからだ。

 そして、その全員の嫌な予感は──まさに的中する。


 俺はこの日の夜……前回見た悪夢と、まるで同じ悪夢を見ていた。



ーーー



『ここは……東京遊園地……』


 目の前にあるのは、前回と同じ真っ暗なメリーゴーランド。

 俺が呆気に取られた、その僅か数秒後。流れ始めた音楽と共に、点灯されたジェットコースターが動き出す。


『これって……まるで同じじゃないか!!』


 事態を把握した俺は、全速力で走った。

 “あの位置”を見るために。


『フリーフォールが倒れる……どこなんだ……その位置は!!』


 二度と見たくもない映像、聞きたくもない悲鳴……

 目も耳も塞ぎたくなるような、残酷な悪夢が再び俺を襲う。


『まだ終わってない……この事件は……終わってやしなかったんだ!!』

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