第61話 “下見”
俺達3人は時間があるうちに、遊園地内の下見を始めた。
今日は祭日で、学生の夏休み初日とあってか、人もそれなりに多く賑わっている。
「すでにけっこう人がいるな……」
「イベントの時間になったら、もっと人は増えるかもしれないわね」
まず俺達は芽依が悪夢の時にいた、ジェットコースター乗り場へと移動した。
・・・
「あそこよ。私が夢で見た位置は。あの階段の1階部分にいたの」
芽依が指差すところには、ジェットコースターの順番待ちしている人達の姿がある。
やはり遊園地の人気アトラクションなのか、多くの人が列をなして並んでいた。
ジェットコースターの搭乗部分は、4階に当たる場所。
その4階から一番下の1階まで、ぎっしり人の列は続いている。
「こんなに並ぶのか。俺がさっき乗った時は、そこまで人はいなかった。ラッキーだったな」
そうか……勇次は集合前にこのジェットコースターに乗ってたんだっけ。
あまりそれも意味のない行動だったみたいだけど。
「私の悪夢……なんでここに並んでたんだろ……」
芽依は自らの悪夢に、疑問を感じているようだ。
俺達が共有して見る悪夢は、皆別々の視点から見ている。
それを考えると、そのいる場所には、何かしらの理由があるはずなのだ。
「あれじゃねぇか? すべての起点は、このジェットコースターから始まる。つまり、ジェットコースターさえ止めれれば、事件は起きない」
「そうね……私がジェットコースターの発車を、何としても防げ……ってメッセージなのかしら」
まさに勇次と芽依の言う通り、すべての原因はジェットコースターにある。
こいつを食い止めさえすれば、事故そのものを防ぐことができる。
だが、念には念をだ。万が一に備え、激突時のことも考えなればならない。
俺達は次の場所へと移動した。
・・・
「ここだ……俺がいたのは」
次は俺がいたと思われる、メリーゴーランドの付近。
メリーゴーランドには、多くの小さな子供達が楽しそうに乗っている。
「なんだか想像するだけでも怖いな……あのメリーゴーランドの上に、分裂したコースターが落ちるだなんて……」
夢の中でのスタート時は、明かりも点かず、メリーゴーランドは真っ暗だった。
しかし、これは曖昧な記憶の部分で、それでもメリーゴーランドには人が乗っていた気がするのだけど……
もしかして、あのイルミネーションイベントの最中も、アトラクションに乗ることが可能なのか……?
疑問に感じた俺は、改めて2人に尋ねてみた。
「なぁ、確かメリーゴーランドには人が乗っていた気がするんだけど……ジェットコースターからも悲鳴は聞こえたし……2人の悪夢はどうだったかな?」
「あぁ、そのことなら……」
芽依はカバンから、パンフレットを取り出す。
それは俺が一昨日用意したものではなく、芽依が現地で直接調達したものだ。
「ここに小さい文字で書いてあるわ。『もしイベント中に乗り物に乗ることができれば、この夏いいことがあるかも?』……ってね」
「なるほど。付加価値をつけようって訳か。それなら運試しとばかりに、こぞってみんな並ぶだろうな」
これで、アトラクションに人が乗っていたことは間違いないと証明され、その理由も分かった。
仮にジェットコースターの衝突が起きたら……俺はこのメリーゴーランドの人達を避難させる役割があるのか?
ならば、俺はこの位置にいるべきだ。
俺の持ち場はここに決めよう。
・・・
再び移動した俺達は、勇次がいたと思われるコーヒーカップ付近に辿り着く。
「俺はこの辺りにいたんだけど……そうだ、あそこだ。コースターのひとつが落下したのは」
勇次が指差したのは、その近くにあったトイレだった。
俺の悪夢では、唯一コースターの落ちる位置が確認できなかった箇所である。
「俺の夢では見えなかったんだけど……トイレの上に落ちたのか?」
「あぁ、中に人がいたのかまでは分からないが……落ちたのは間違いねぇ。イベントの時間になる前に、警察の人達に封鎖をお願いしようか」
アトラクションと違って、トイレなら封鎖することも容易いはずだ。
立ち入り禁止にしとけば、誰も中には入らないと思われるが……一応悪夢通りに、勇次はこの場に着いてもらうとしよう。
・・・
次に、コースターの最後の1つが落ちたと思われる、フリーフォールの場合へと移動した。
このフリーフォールの支柱に、最高速度に達したジェットコースターが激突し、折損する。
支柱は円錐状の形をしており、正確な横幅や長さまでは分からないが、1つの乗り場に最大8人が乗れる作りになっている。
どうしても機械の作り的にも、その横にスペースはできてしまうため、全部の横幅は大人10人分くらいといったところか。
その幅の乗り物が、80メートルも続いているわけだ。それが倒れ、下敷きになったと考えると……犠牲者の数は計り知れない。
フリーフォールの下にも、警察の人を配置してもらうように、ゲンさんにお願いしよう。
俺らの夢では、そこには誰もいなかった。ここは警察の力を借りるべきだ。
・・・
そして、俺達は階段を昇って2階へと行き、遊園地の外へと移動を始めた。
この施設は、入場券なしでも色々移動することができる。
隣接する、野球場からのお客にも気軽に足を運んでもらう魂胆だろう。
俺達は大きな連絡通路を渡る。
下には車道が見え、何台もの車が走っている。また、道路の脇には歩行者も見えた。
ここか……フリーフォールの支柱が倒れると予測される場所は……
この位置は、誰も夢では見ることができなかった。
恐らく、この位置から悪夢を見ていたのが、俺達のもう1人の仲間──智だ。
正直、ここが一番俺達の知りたい場所。
肝心の場所だって言うのに……
なぁ、智……一体どこに倒れるんだ? 支柱は……
なぁ、頼むよ。教えてくれよ……智……




