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星が墜ちた夜から  作者: Guru
1章 悪夢の始まり
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第5話 “後悔”

 工事現場の中から聞こえる、子供達の声。

 俺の見当は大きく外れていた。


 くそっ……この中だったのか。何度も通ってたぞ、ここの前の通りなんて。


 狙いを公園や学校に定めており、この工事現場には見向きもせず、何度も自転車で素通りしていた。

 急いで俺は自転車から降りて、中へと入る。



 どうやら一軒家を建設中の場所のようだ。

 本日は業者も休みらしく、外の見回りも現場の方にも、誰もいない。

 それをいいことに、5、6人の子供達が中に入って、はしゃぎ回っているのだ。


 家の外周には、足場と呼ばれる骨組みのような鉄パイプが組まれている。

 その鉄パイプを、まるでジャングルジムで遊んでいるかのように、至るところを子供達はよじ上っていた。


 何て危ないことをしているのか……

 見ず知らずの子供ではあるが、俺は怒鳴ろうとするも、一旦冷静になって考え直す。


 うっかり俺が叫んだことに驚いて、慌てて足を滑らせてもいけない……

 そう考えた末に、ゆっくりと近づいて行くことに決めた。


 俺は恐る恐る近寄って行く……だが、あの悪夢は、決して避けることはできない。


「あっ! やべっ……」


 1人の男の子が足を踏み外してしまったのだ。

 そのまま落ちると思われたが、かろじて鉄パイプを片手だけを掴み、空中でぶら下がった形となっている。


「た、助けて……誰か……」


 おいおい……結局こうなるのかよ!


 いち早く、その危機に気付いた俺は全力で走った。

 他の子供達も助けを呼ぶ声で気付くが、その場で立ち尽くし、どうすることもできない。

 

「たっちゃん! このままじゃ……たっちゃんが危ない!!」


「怖いよ……助けて……」


 今にも落ちそうなほどに、男の子の手は震え始めている。

 3階分くらいの高さはある。小さい子供からしたら、とんでもない高さだろう。


「も、もう……だめ……」


 限界が訪れたのか、とうとう男の子は手を離した。まだ俺との距離は、数メートルはある。


 なんとか……間に合え……!!


 俺は精一杯、手を伸ばした。

 片手だけで、落下する子供を支えきれるのかは分からない。

 それでも懸命に、必死に手を伸ばした。


 しかし…………




──間に合わなかった。

 あと僅か、一歩及ばず。男の子は転落した。



「たっちゃん!!」


 涙目で周りにいた子供達は、その男の子の名を呼んでいる。


「見るな! こっちは見るな。そうした方がいい……」


 俺は声を荒らげた。

 今はこっちを、見ない方がいい。

 周りの子供達は、一斉に目を覆い隠し、そっぽを向く。


 大至急、救急車を呼んだ。




・・・




 俺は病院の待合室で腰を落とし、うなだれていた。

 幸いにも、男の子の命に別状はなかったようだ。

 ただし、落下した際に、両足を骨折してしまったらしい。


 男の子と面識はないが、救急車には同乗した。

 後に保護者が病院まで来て、俺に感謝の言葉を述べていたけれど……

 

 全くもって何を言われたか覚えていない。うわの空だった。

 俺の頭の中は──


『どうして救えなかったのか? どうやったら助けられたのか?』


 そのことで、いっぱいだったのだ。



 すでに男の子の親は病室へ向かっており、俺の前には誰もいない。

 しかし俺は俯き、ずっとその場で考え続けていた。


 見つけたらすぐに声をかけるべきだったのか?

 いや、原因はもっと前だ。何で早くにあの場所を見つけられなかったんだ……



 俺はひたすらに自分を責めた。


 今まで見た予知夢とも呼べる悪夢は、未然に防ぐことができていた。

 きっと今回だって、うまくやれたに違いない……


 後悔は、いつまでたっても消えることはなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterから参りました。……悪夢、と聞くとなんだか霊が出てきそうでホラー嫌いとしては身構えてしまうのですが、「人が死ぬ」のを見るというのはそれと同じくらい嫌な気分になりそうですね。た…
[良い点] ぐるさん、こんにちは!読みに来てしまいました! 突如予知夢の能力を手に入れてしまい、それを回避しようとする主人公が丁寧に書かれていてとても読みやすいです。 一話一話の文章量が短いため、通勤…
2020/08/17 10:33 退会済み
管理
[一言] 悪夢は避けられる場合とダメな場合があるんですね。当たり前かもしれませんが。 これによって主人公の努力次第といったところですかね。 この手の小説は予知夢は絶対避けられないという絶望感から入りま…
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