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星が墜ちた夜から  作者: Guru
7章 4つの点
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第56話 “夢の濃さ”

──その日の夜。いつものバー・眠れる羊(スリーピングシープ)にて。


 時間通り俺は店についたものの、すでに2人はやって来ていた。



「おう、来たか。誠人」


 いつになく勇次が真剣だ。あの明るいテンションではない。


「大事件ね。これは大変なことになりそう……」


「あぁ、今日はなんだか飲む気になれないな……ソフトドリンクにするよ」


 さすがに酒を飲むような気分でもなく、3人ともノンアルコールにし、適当に注文を頼む。

 

 まずは、全員が見た夢について語ろうか。

 ある程度はメッセージの段階で、話も出ている。

 場所は“東京遊園地”。そのジェットコースターが脱線し、フリーフォールに衝突。大事故に繋がる。この辺りは共通事項だ。

 始めに勇次が口を開いた。


「みんな時計は見たよな。俺の日時は、20日の夜9時06分だ」


「──えっ……全然違う……」


 勇次が言った日時に、芽依が驚きの声をあげる。


「私が見たのは、26日の夜9時32分よ」


 実を言うと、芽依同様に、俺も驚きを隠せずにいた。なぜなら、俺も日時が違かったからだ。


「どうなってるんだ……俺は24日の夜9時04分だった。全員の日時がバラバラだ……」


 みんな事件が起きた時間帯は9時台。特に俺と勇次の時間は2分しか違わない。

 しかし、日にちが全員違う……こんなことは初めての出来事である。


 日時で早速つまずくとは、勇次も予想外だったようだ。


「こんなことが起きるとはな……じゃあ、他はどうだ? 雨……降ってたよな?」


 自信なさそうに言う勇次。

 俺の夢でも雨は降っていた。一致している。俺は胸を張って答えた。


「降ってた降ってた! だから勇次、自信を持って発言していけよ!」


 だが、芽依はすぐさま一蹴し、再び俺らを不安に陥れる。


「いえ……私の夢では降ってなかったわ。もしかして、日にちが違うことに関係があるのかしら……」


「まさか。こんな大事故、何日も分けて起こるわけねぇしよ! どれかが記憶違いなんだよ!」


 今までの悪夢は日時が合っていたため、多少の記憶違いも受け入れることができたが……

 今は半信半疑の状態になっている。選択肢がある分だけ、惑わされてしまう。

 そして、用心深い芽依は、更に俺達の不安感を煽る。


「それに……本来ならもうひとつ、智の分の悪夢があるはず。智の悪夢もまた、別の日にちだったのかしら……」


「智の分か……そうかも分からねぇな。でも、そいつを確認することはできねぇぞ? 俺達の日にちを疑い出したらキリがねぇよ!」


「そうよね……だとすると、智も私達のどれかの日にちと同じだったのかしら……」


 確かに勇次の言う通り、疑い始めるものなら(らち)が明かない。

 もちろん芽依の推測が、完全にないとは言いきれないが……

 何だか元々俺らにあった予知夢の法則と、少しズレてきている気がする。

 その点に気付いた俺は、すぐさま言及した。


「いや……一旦冷静になって、思い返してみようよ! 本来俺らの予知夢は、“4人でひとつ”になるはずなんだ。今までだって、すべてがバラバラだったことなんて、一度たりともなかった!」


 俺らにあった従来の“予知夢の形”は、一致するものは現実として起こり、異なる点が記憶違いとして発生していた。

 それらを考慮すると、たまたま俺ら3人が別日の悪夢を見ていただけで、きっと智の悪夢は、このどれかの日時に当てはまるはず。すべてがバラバラなはずはない。


「確かに……そうだったわね……肝心なことを忘れてたわ。ありがとう誠人。少し自分の予知夢に自信を持てた気がする」


 そうだ……その調子だ、芽依。

 もうどうやったって、智の悪夢を確認することはできないんだ。

 だから、俺達は何にも惑わされずに、自分達の──“予知夢の力”を信じるしかない。


 それに加え、これまでの傾向から、俺はある分析をしていた。


「今回の悪夢は、相当な死傷者を出す大事故だ。それに比例する形で、悪夢の照らし合わせも困難になってるんじゃないかと思うんだ」


「なるほどね……言われてみれば、先月の結婚式の時の私の悪夢……あれは、ほぼほぼ記憶違いが発生しなかった。そう考えると、誠人の説は当たってるかもしれない!」


「そうだろ? だから俺達は、複数の選択肢に惑わされてるだけなんだよ。きっと、もうひとつの智の悪夢があれば、日時の照らし合わせだってできてたはず」


 俺の説に芽依が納得したところで、ここで勇次は思いがけないことを言い始める。


「じゃあよ、もしどれかの日時が正しく、他のは全部間違いだってんなら……俺は誠人の悪夢の記憶が正しい気がするな」


「えっ? なんだそれ。どういう根拠なんだ?」


「俺が一度まともに参加しなかった、神奈川の公園の殺人事件があっただろ? あの時のこと、詳しく聞いて思ったんだ」


「あぁ、あの事件か……いや、でもそれのどこが? あれは芽依が大活躍した事件だぞ? 芽依の推理が冴え渡ったんだ」


 べた褒めされた芽依は、どこか満更でもない様子だ。


「あれは犯人の性格が読みやす過ぎたからね! 何度もうまくいくものじゃないわ。でも勇次。私も勇次の言う意味が分からないんだけど……」


「いや、俺が言いたいのはそこじゃねぇ。あの時は誠人が日にちを見抜いたんだろ?」


「あぁ、悪夢で見たコンビニと、現実のコンビニの違いに気付いて──」


 話の途中にも関わらず、突然勇次は俺の顔を目掛けて指差した。


「それだよ、それ!」


「──えっ? それが……そんなに変なことなのか?」


「おかしいだろ。たいして頭がいいわけじゃないおまえがだ。そんな夢の中で見た一瞬の景色を、何で覚えてるかって話なんだ!」


「……た、確かに」


 若干、ディスられた気もするが……

 勇次が言う通り、俺はそんなに記憶力がいい人間ではない。この中で一番頭がいいのは芽依だろう。 

 何だか自分で言ってて悲しいが、何の反論もできない。 


「だろ? それに俺達の最初の自殺未遂の悪夢もそう。誠人は唯一、夢と現実の違いに気付いた。だから俺ずっと思ってたんだ」


「思ってたって……何を?」


「きっと誠人は、俺達と夢の見え方が違うんじゃないかって。もしや誠人、おまえが見る悪夢って……周りがはっきりと見えてたり……しないよな?」


「う~ん……夢の始まりは、ぼやっとした感じだけど……徐々に景色がくっきりと映し出されていくんだ。そうなると、もう夢か現実か、見分けがつかないほどにまでなってくるな」


「……だとよ。芽依」


 よほど俺の発言はおかしかったのか……

 2人はとても驚いた様子だった。

 俺はただ、実際に起きている夢の現象を述べただけなのに。


「信じられない……私の悪夢は近くはよく見えても、遠くの方はなんとなくで、ずっとぼんやりとしたままよ。だからそれが夢だと、すぐに気付けるのだけど……」


 夢と現実の見極めが出来ないのは、単なる俺の経験不足によるものなのかと思ってた。

 その点も(いな)めないかもしれないが、そもそも2人とは見え方が違ってたみたいだ。


 それを知った勇次は、無責任な発言をする。


「どうやら誠人は俺達とは見えている“夢の濃さ”が違うようだな。何か迷った際には……俺は誠人の記憶を信じるぜ!」

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