第55話 “最大級”
この日は、いつに増して蒸し暑い夜だった。
7月に入り、些細な悪夢はあろうとも、しばらく大きな事件となる予知夢を見ることはなかった。
しかし、その分を蓄積していたかのように……過去最大級の悪夢は、突然訪れる。
ーーー
雨が降りしきる暗がりの中、徐々に俺の目に、景色は映し出されていく。
『ここって……もしかして……』
この場所がどこなのか、すぐに俺は分かった。
『東京遊園地か』
そこは小さい頃、何度か行ったことがある、都内のテーマパーク。
最近は行ってなかったため、いくつかアトラクションは変わっているが、目の前にはメリーゴーランドが見える。
この景色……間違いないだろう。
だが、場所がはっきりしても、不思議な現象が起きている。
それは前にあるメリーゴーランドの明かりが消え、真っ暗となっていることだ。
お客はあちらこちらにおり、決して今が閉園時間というわけではない。
疑問を感じた俺は、辺りを見渡した。すると、おかしいのはメリーゴーランドだけではなかったようだ。
その他のアトラクション、すべての明かりが消えてしまっている。
『なんだこれ……どうなってるんだ?』
何が起きているのか分からず、俺は戸惑ったが、今度は上空から女性達の悲鳴が聞こえてきた。
俺はその声の原因を確かめるために、空を見上げる。
『……なんだ。ジェットコースターか』
けれど、何てことはない。悲鳴は悲鳴でも、それは楽しい悲鳴だった。
ジェットコースターに乗った人達が、スリルを味わい、絶叫しているのである。
しかし、不思議とそのジェットコースターは、他のアトラクションと違い、コースターに明かりが点いている。
暗闇の中で唯一光輝くジェットコースターは、視覚的にも栄えて、とても綺麗だ。
今度は、そのジェットコースターが動き出したのを皮切りに、前にあったメリーゴーランドの明かりも点灯し、動き始める。
更には横に見えたコーヒーカップ、少し離れた位置にあった、この遊園地の目玉のひとつのフリーフォールにも、明かりが点いていく。
即ち、園内の明かりが、アトラクションと共に順番に灯されていっているのだ。いつの間にか音楽まで流れ出している。
『なるほど。徐々に色々なアトラクションに光が点いていく仕組みなのか』
これはこういうイベントなのだと、なんとなく理解はしたが、それと同時に俺は違和感も覚えていた。
しかし、その原因は深く考えるまでもなく、すぐに解明する。
『──そうだ。先月の結婚式の時も、暗闇から明かりが灯る演出をしていたんだったな』
芽依が発案し、大成功に納めた演出に相似している。どこか見た気がしたのも、きっとこのせいだ。
つい先日の出来事ではあるが、「あれはいい演出だった」と、感慨にひたっていると……
次の瞬間、信じられない出来事が起こる。
度々聞こえた悲鳴につられ、俺は上空を見上げるも……
ジェットコースターは最高速度を保ったまま、レールではなく、“空中”を飛んでいたのだ。レールから完全に脱線し、外へと放り出されてしまっている。
『う、うそだろ……』
俺が目を疑っていると、更に事態は悪化した。
まるで玉突き事故でも起きてしまったかのように……事故は連鎖する。
遥か高く飛び上がったジェットコースターは、そのままの勢いで、高さ最大80メートルある、フリーフォールの支柱に激突した。
その際、4つに連なったコースターは、激突した衝撃により、いくつかバラバラになり地面に落ちた。
そのうちの連なった2つは、俺の近くにあったメリーゴーランドに落下。
もう1つは、フリーフォールの真下に落ちたのが見えた気がする。
残りの1つは……コーヒーカップの方か? 俺の位置からでは詳しくは分からなかった。
これで終わったかのように思われたが、負の連鎖は止まらない。
激突した衝撃により、フリーフォールの支柱は、しばらくの間、ずっと揺れ続けていた。
そして、ついにはバランスを崩し、支柱が倒壊し始めたのだ。
コースターが直撃した、支柱の半分よりやや下の部分から、その上の柱が折損。
園内の端に位置していたフリーフォールは、園内の外の方角へと倒れていく。
この東京遊園地には、隣接して野球場がある。恐らく倒れたのは、その野球場の方だ。
何人……いや、何百人の悲鳴がこだまする。
『くそっ……なんて事件なんだ!!』
あまりの衝撃の出来事により、すっかり日時を確認することを忘れていた。慌てて俺は時計を確認する。
『日時は……24日の午後9時04分!!』
日時をしっかり確認できたところで……俺は目を覚ました。
ーーー
「はぁ……はぁ……時間は確認できた……ギリギリ間に合ったな……」
以前は悪夢の中で、時計すらしていないこともあった。
よかった……まずは日時が知れて……
俺は忘れないうちに、要点をまとめた。
恐らくこれほどの悪夢だ。勇次と芽依も見ていることだろう。明日、詳しく聞こうか。
今はもう深夜の時間のため、メッセージを送るのは明日にし、寝ることにした。
しかし、あまりの興奮状態からか……中々この日は眠りにつくことができなかった。
・・・
翌朝。俺がスマホを手に取ると、すでに2人からメッセージが届いていた。
珍しく勇次も早起きしている。それくらい衝撃の出来事だったのかもしれない。
案の定、全員が遊園地の事故の悪夢を見ていた。
やはりこれは避けることのできない悪夢……大変なことになりそうだ。
みんな色々用事はあったろうに。たが、今回はあまりにも事件の内容が過激だ。
早速、その日の夜に集まることとなった。




