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星が墜ちた夜から  作者: Guru
6章 麗しきピアニスト
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第52話 “演奏時間”

 チャペルでの結婚式が終わった。

 終わった後にカズと話せる機会が少しだけあったけど、まだカズは緊張が解けていないように思える。ありゃガチガチだ。

 まぁ友達だけじゃなく、職場の先輩やお偉いさん、相手方の親戚など色々な人が集まるわけだしな。そりゃ緊張もするか。


 外で記念撮影を何枚か撮り、次はブーケトス。

 なぜかやたらと芽依が張り切っている。


「見ててよね」


 芽依が俺の横を通る時、そう言ってたけど……もうすでに取る気満々だな。


 あいつ……もしかして……


 俺がその芽依の自信の意味に気付いた頃には、新婦の翔子が投げたブーケを、芽依がガッチリとキャッチしていた。

 それは少し強引で、なんだか横取りにも見えたけど……まさかな。



「やるじゃねぇか! 芽依! 次結婚するは、芽依の番ってか!?」


 勇次は何の疑いもなく、芽依の奮闘を褒め称えている。


「もちろんよ。実現させてやるんだから」


 息巻く芽依に、黙っていようかとも思ったが……気になった俺はさすがに聞いてみることにした。


「もしかして芽依、ブーケの落ちる場所……悪夢で見てたとかじゃないよな?」


「えっ……バレた?」


 やっぱり……

 芽依は舌を出して誤魔化そうとしている。

 しかし、さすがにここはツッコまざるを得ないだろう。


「それじゃ取っても意味ないんじゃないか?」


「いいのよ! 取れれば何でも! 迷信や、まじないみたいなものだしさ」


「まぁ好きにしていいけど……それにしてもそんな長い悪夢だったのか? ピアノ演奏までは、だいぶ時間があるよな」


 実を言うと、そのことも気になっていたのだ。

 今まで数時間もかかる悪夢を見たことがない。そこにも俺は疑問を抱いていた。


 芽依はそのからくりを暴露する。


「あぁ、それね。実際私が見てたのは、このブーケトスのシーンじゃなくて、披露宴のテーブルよ。同じテーブルの友達がブーケを持ってたから、それで場所が分かったのよ」


「なるほど……」


 でも、それって……本来その友達が取るはずだったブーケを、奪ってることになるんじゃ……


 そこに俺は気付いたけど、幸せそうにブーケと記念撮影する芽依には、とてもじゃないが言えなかった。


「なぁ、そろそろ作戦を立てないか? 披露宴開始まで時間があるしよ」


 しかし、そこで俺の代わりに勇次はやってのける。

 この惚気(のろけ)た雰囲気を簡単に壊し、場を仕切り直したのだ。

 ブーケキャッチの真相を勇次が知ることはなかったが、浮かれる芽依に再び気合いを入れさせる。


「……そうね。切り替えるわ」


 さすがは勇次だ。式の前に芽依から集中砲火を受けたばかりなのに、それでも物怖じしていない。鈍感力はこういう時に役立つ。


 俺達はロビーへ行き、今一度作戦会議を始めた。

 全員がソファーに腰をかけた直後、芽依は早速ひとつの案をあげる。


「翔子には悪かったけど……私、式の間に少し考えてたのよね。それで、策を思い付いたの」


「おっ、すごいな。どんな作戦なんだ?」


「最初から暗闇になるのは分かってるんだから……暗くなったらその間、何かしらのライトで私を照らすってのはどうかな?」


「もう停電になるのは受け入れて、そのあとどうするかって話か」


「えぇ。私の手元と楽譜さえ映ってれば、演奏は何とかなるわけだし」


「ライトね……でも停電して、電気は使えなくなるんだよな」


 ライトと言われ、俺は披露宴会場を想像し、真っ先にあるものが浮かんだ。


「あ! あれはどうだ? キャンドルサービスとかって、大体あるだろ? その光を使うとか!」


 すでに芽依も同じことを考えていたのか、俺の考えは却下される。


「それがあったら、あんな暗闇にはならないはずなのよね。最近って、キャンドルサービスをやらないパターンも増えてるみたいなの」


「そうなのか……じゃあだめか。懐中電灯でも持ってくればよかったか……」


 それにしても、やけに詳しいな、芽依。

 やはり女性にとって結婚式は憧れ。もう今からリサーチは始まっているのだろうか……


「だったら、もう式場の人にお願いするしかないんじゃねぇのか? 懐中電灯じゃないにせよ、こういう所だし、電池タイプのライトなんていくつもあるだろ」


 それもそうだ。勇次、ナイスアイディア。

 急遽のお願いになるが、頼み込んでみるしかない。


「仮にライトは借りれたとしても……あとは時間だな。それをどうするか……ずっとライトを点けっぱなしでも、問題ないっちゃないけど」


「誠人……ずっとライトを点けっぱなしだなんて、センスがないわね。華がない……そんなカッコ悪いこと、私したくないわ!」


「おいおい……こんな時に、カッコつけてる場合か?」


「これは普段の事件と違い、“ショー”でもあるからね。大事なのは、いかに魅せるかよ! そこについても、すでに私、考えてあるから!」


 センスないだの、華がないだの……

 随分とボロカスに言われたが……


 芽依には何か考えがあるようだ。

 とりあえずは、その考えとやらを一旦聞いてみようか。


「今日私がやる曲は、『G線上のアリア』っていう有名な曲なんだけど……誠人達も聴けば分かると思う。私の悪夢が正しければ、弾いていた曲の箇所で、停電の部分はもうそれとなく分かっているのよ」


「なるほど。曲の第何小節とかで分かるってことか! でも……俺達楽譜とか読めないし、どこがその停電の場面か分からないぞ?」


「えぇ、それも承知の上よ。だから“演奏時間”で考えて欲しいの。私が弾く『G線上のアリア』の演奏時間は……3分15秒。そして、停電が起きる場面は……2分10秒の部分よ!」


 芽依の提案にあっさり乗った勇次は、自分のやるべき事を簡潔に示す。


「だいたい芽依のやりたい事が分かったぜ! スマホのストップウォッチ機能を使って、芽依がピアノを弾き始めたと同時にスタートを押す。そこから2分10秒たった時に、俺達はライトを芽依に当てればいいわけだな!」


「そう、その通りよ! そしたらきっと会場の皆はこう思うはず……これは“演出”なんだと!」


「すげぇじゃんそれ!! 本当は停電で暗くなってるはずなんだけど、この暗闇は“あえての演出です”──と思わせるわけだな! カッコいいじゃねぇか! それ、最高だ! 芽依!!」


 芽依の作り出す演出に、勇次は大変興奮した様子だった。

 でも……勇次は簡単に騙されても、俺はそうはいかないぞ? 芽依。


「──ちょっと待った。その作戦!」


 俺は手をパーに広げ、2人を静めさせた。


「な、何よ。誠人……」


「その“演奏時間”のことなんだけど……それって、ちょっとしたことでズレるものなんじゃないのか? ましてや人の前で弾く演奏だ。芽依だって緊張してるはず。その中で、いつもと同じように、練習と全く同じ時間で弾けるもんなのか? ピアノを知らない俺でも、それくらいは分かるぞ」


 図星を突かれたのか、芽依は黙った。

 そこで俺は、芽依とは違うやり方を提案する。


「だから、演出にしたいのは山々だけど、やっぱりここはライトはずっと付けっぱなしでいこう。そうすれば、いつ停電が起きても───」


 しかし、芽依の覚悟は俺が思っていた想像以上のものだった。

 俺の言ったことなど、演奏者の本人は当然分かっている。それすら承知の上だったのだ。


「知ってるわよ。それでもやらせて欲しいって言ってるの。私の演奏時間は、3分15秒。これは狂わない! 私は必ず──本番でも練習(いつも)と同じ時間で弾いてみせるわ!!」

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