第51話 “努力”
「もちろんだよ! 芽依の努力が報われて欲しいし、協力するよ!」
「俺も……どうか協力させてください!!」
不思議と俺と勇次の温度差はあったが、俺達は芽依のピアノ演奏を成功させるために、力を貸すことした。
「ありがとう。2人とも!」
俺達は待合室を出て、ロビーのソファーへと移動する。
何だかいつもと同じ、作戦会議をしているようだ。
問題が起こる場面は、昼頃の披露宴の余興。
今は午前中のため、まだ数時間はあるが、まずは披露宴の前に教会で式が行われる。そこに参加しなければならない。
それまでの時間は約10分だ。時間は少ないが、ひとまず作戦を立てよう。
「式まで10分か……時間がないな。芽依もこんなことなら、もっと早く言ってくれればよかったのに」
「それが私も昨夜この悪夢を見たのよ。昨日の今日の出来事だったし、どうすることもできなかった……」
念のためではあるが、日にちと時間について、俺は芽依に尋ねた。
「一応だけど、その悪夢は今日で間違いないんだよな?」
「時計は着けてなかったから分からなかったけど……間違いないと思う。そもそも結婚式なんて他に入ってないし、ピアノ演奏する機会も、今日以外ないでしょうから」
結婚式のマナーとして、時計は着けないのがルールである。
時計を見ると、『時間を気にしている』と思われ、それが『早く終わらないかな』といった考えに繋がるらしい。
最近はそこまでうるさくないみたいだけど、友人の結婚式が初めてとなる俺も、それなりには調べては来たつもりだ。
まぁ何の理由であろうと、時計を着けながらピアノ演奏をするわけはないか。
どうやっても、この状況下で時間を確かめることは難しかったみたいだ。
「そうか。なら日にちは合ってるとしても、正確な時間までは分からないんだな……」
「うん……ピアノ演奏中ってのは間違いないんだけど……」
時間については悩ましい限りだが、勇次は別の観点での不安要素も割り出していた。
「それと停電をどう防ぐかだよな。電気はフロアごとか? 他の会場の電気は、さすがにどうすることもできないだろうし」
「だろうな。仮にカズの披露宴の会場だけでよかったとしても、俺達だけで電気のコントロールは難しくないかな?」
「それもそうか……とりあえず分電盤の位置でも調べとくか?」
あまりにも勇次の大胆な発言に、芽依は釘を刺す。
「なるべく事を大きくさせるのはやめましょう。今日はめでたい席だし、騒ぎにしたくない。第一に考えなきゃいけないのは、翔子達のことよ。2人の結婚式を台無しにはできない」
あくまで主役は、新郎新婦である。
そこに俺達は花を添えるだけ。勘違いしてはならない。
「そうか、わりぃ。けど……そうなると、できることは限られてくるな……」
勇次が反省したところで、スタッフの声がロビーに響き渡る。
「小暮家、田村家のご両家の皆様。まもなく式が始まります。参列希望の方は、お集まりください」
「小暮って……カズのことだ。えっ? もうか?」
式まで10分あったといっても、俺達は移動時間のことをまるで考えていなかった。
どうやらロビーからチャペルまでは少し距離があり、時間がかかるらしい。
そういったわけで、俺達は具体的な案を何も出せないまま、時間を迎えることになってしまった。
・・・
いざ、チャペルでの結婚式がスタートする。
俺は人生初の洋装での結婚式だ。何をしたらいいのか分からず、正直戸惑う。
まずは新郎であるカズが出てきた。
顔が強張り、緊張しているのが分かる。
けど、見た目はバッチリ決まってるな。カズは背が高くスラッとしているので、タキシードがよく似合う。かっこいいぞ。
──ここで、カズの話を少々。
カズは中学時代、俺と同じテニス部だったから、どんな男かよく知っているが……はっきり言ってしまえば、彼は運動音痴だ。テニスも部員の中で一番下手だった。
それでもカズはテニスを愛し、中学卒業後もテニス続けていった。
数年後、大学生になった俺は、カズにテニスに誘われ、久しぶりに再会することになる。
カズは高校卒業と共に就職しており、社会人のテニスチームに入っていた。俺はそのチームの集まりに誘われたわけだ。
カズと一緒にテニスをやるのは中学以来で、今でも一応俺は、大学のサークルでテニスをやっている。
だからあのカズに、テニスで負けるわけはないだろうと、余裕こいていた。
しかし……カズはびっくりするくらいテニスが上達しており、俺は完全に打ち負かされてしまったのだ。
信じられない……あの下手っぴだったカズが、こんなにうまくなっているなんて……
俺がテニスサークルという名の飲み会サークルで遊んでる間に、コツコツとテニスを続けていたカズ。
努力とは、本当に実るものなのだと、俺は改めて思い知った。
きっとカズの嫁さんの翔子も……こんな直向きに努力をする彼の姿勢に惚れたのだろう。
ちょうど、その翔子の話をしていると……
新婦である翔子が、お父さんと一緒にゆっくりと歩いて来ていた。
人前で見せる、初めてのドレス姿。それは目を奪われるくらい綺麗だった。正直、カズが羨ましく仕方がない。
翔子が俺の真横を通った時。
隣から「俺も結婚してー」と、小さな声が聞こえた気がしたけど……
聞かなかったフリをしておこう。
なぜなら、俺も同じことを思ってしまっていたからだ。
それくらい──“結婚っていいな”と、感じたんだよな。




