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星が墜ちた夜から  作者: Guru
6章 麗しきピアニスト
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第50話 “結婚式”

 6月はジューンブライド。

 多くの人達が、人生の中で最高に幸せな時が訪れる──結婚式のシーズンだ。


 弱冠20歳という若さにして、俺の友人は早くもその幸せを掴んでいた。

 しかも、相手は同じ小学校の同級生。

 新郎新婦共に、俺の顔見知り。本当にめでたいことである。



「おっす、誠人」


「おはよう。勇次」


 俺と勇次は、その小学校の友人の結婚式に招待されていた。

 親戚を除いた結婚式など、俺にとっては初めての経験だ。


「まさか“カズ”と“翔子”が結婚するとはな。信じられねぇよ」


 勇次は朝っぱらから、大変興奮した様子だった。

 あまり慣れない綺麗なホテルでの挙式のため、落ち着きを保てていないのかもしれない。


「確かに。付き合っているとは聞いてたけど……そのままゴールインまでしちゃうとはね!」


 カズとは小学校だけでなく中学も一緒で、部活も同じテニス部だった。そのため、それなりに交流もある。


 高校時代、2人が付き合っている噂はよく耳にしていたけど……まさかこのスピードで結婚するとは。

 未だに驚きは隠せないけど、幸せな報告なら、いくらあってもいい。


「いいか、誠人。俺達の戦いはすでに始まってるんだからな。例え式の間でも、気抜くなよ?」


 突然しかめ顔で勇次はそう言ってきたが、俺には何の話か、全く分からなかった。


「えっ? 何? 悪夢の話?」


 勇次は右手で顔を隠し、深い溜め息と共に天を仰ぐ。


「何言ってんだよ……おまえの頭の中には、常に悪夢のことしかないのか?」


「なんだ。違うのか?」


「違ぇよ! ほんとおまえはまだまだだな。いいか、覚えとけ! 結婚式にはチャンスが転がりまくってるんだよ!!」


「はぁ……」


「結婚式で幸せそうな新郎新婦を見た女性達は、『私も今すぐ結婚式挙げたい……』っていう、乙女の気持ちになるんだ!」


 いつの間にやら、勇次の寸劇は始まっている。

 両手を握って合わせ、1人でなんかやってらー。


「だから誠人、今日はチャンスだぞ! いつにも増してみんな“恋”をしたいはずなんだからな。常にアンテナを張っていろ! どれどれ……」


 勇次は待合室に集まる女性を吟味するように、見渡し始めた。

 それはとてつもなく、やらしい目付きである。


「ほら! いた! あそこに美女発見!!」


 勇次の興奮気味の声に誘われ、俺はその方角を見た。


「いたって……何言ってんだよ勇次」


「ん? なんだ。誠人の好みじゃなかったか?」


「いや、そういう話じゃなくて。あれは──“芽依”だろ!」


「うそっ!? あれ……芽依か?」


 勇次はあんぐりと大きな口を開けている。

 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だろう。

 

 勇次が見間違えるのも無理はない。

 芽依は普段降ろしている髪の毛を束ねてアップしており、化粧もいつもの数倍は濃かった。

 淡いブルーのドレス姿も珍しく、いつもとは全く違う雰囲気だ。


 芽依は新婦の翔子と仲が良かった。

 だから俺達3人の全員が、カズと翔子の結婚式に招待されていたのである。



 勇次の熱い視線に気付いたのか、芽依がこちらを見ている。

 そして、友達との話を切り上げ、芽依は俺達のもとへとやって来る。


「誠人! 勇次!」


 だが、何やら芽依の様子がおかしい。どこか急いだ様子で、険しい表情を見せているのだ。


「よかった……2人がいてくれて!」


「ん? どういうこと?」


「私……見ちゃったのよ! 悪夢を!!」


「悪夢だって!?」


 結局、どこにいっても“こいつ”は俺達に付きまとうのか。こんなにもめでたい席だというのに。


 芽依は状況を説明した。


「その悪夢はまさに、この披露宴の最中に起こる出来事だったの。私、今日は余興として、ピアノを演奏することになっているのよ」


 それはすでに周知の事実だ。

 俺はよく知っている。芽依がこの日のために、必死にピアノを練習していたことを。


「それはもちろん知ってたけど、それと何か関係があるのか?」


「えぇ、私がピアノを弾いてる途中に……“停電”が起きるの。部屋は真っ暗となり、そこで私の演奏は止まってしまった……」


 悪夢といっても、色々種類はある。

 人の命に関わるような、俺達が共有する大事件となる悪夢や、個人のみに降りかかる、ほんの小さな悪夢。


 もちろんこれは俺の悪夢として見ていないため、芽依個人の悪夢だ。

 そこに俺は気付いたが、デリカシーのない勇次は、自ら地雷を踏みにいった。


「なんだ。そんなことか。なら、もう一度やり直してもらえばいいじゃねぇか。アクシデントだし、停電が復帰したら、また最初から始めてもらえるだろ」


「“そんなこと”……ですって?」


「えっ……いや、その……」


 今頃勇次は自分の過ちに気付いたようだが……もう遅いぞ。勇次。

 ここから芽依の怒濤の攻撃が始まる。


「いい? 勇次。私はこの日のために、一生懸命練習してきたの! 失敗は許されないのよ!!」


「は、はい。分かります……」


「仮にやり直したとしても、二回目の演奏で、初めて聴いた時と同じ“感動”は味わえる!? 全く同じリアクションが取れるの!? 勇次は!!」


「……いえ、できません」


「だから勝負は一度きり……一発勝負なのよ!! 私はその一回に、賭けて来たんだから!!」


 もう勇次はたじたじだ。

 何の反論も許されない。何の言い訳をする余地もない。

 ほら……言わんこっちゃない。口は災いのもとである。


「だから誠人、勇次、お願い!! 2人に協力してもらいたいの!! 何としても、私の演奏を成功させて!!」

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