第44話 “幕開け”
俺は駆け足で芽依の元へと戻り、日にちが判明したことを伝える。
「芽依! 分かったぞ! あの悪夢の日は今日じゃなくて明日だ!」
「本当に!? 何か思い出したの?」
「あぁ、コンビニの広告が夢とは違ってたんだ。そのおかげで、日にちが分かったんだよ!」
「やるじゃない。誠人! じゃあ……誠人はもう帰っても大丈夫そうね」
「えっ? その言い方だと、もしかして芽依はまだ残るのか?」
「えぇ。万が一記憶違いの恐れもあるし……それに誠人はそろそろ電車、やばいでしょ?」
そうなんだよな……芽依の言った通り、神奈川から埼玉に帰るには、そろそろ終電の時間が近くなってきている。
その理由もあり、この場を離れるリスクを冒してまで、コンビニまで見に行っていたのもあった。
それにしても芽依は用心深く、まだここに居残るみたいだ。
すでに長時間が経過していたため、疲労はかなり溜まっていることだろう。俺は芽依の体調が心配だった。
「無理するのはやめよう。芽依。明日に備えようよ」
「でも……」
「そうしたい意味も気持ちも分かるけど、本当に明日だったならば、今日だけでかなりの体力を使うことになる。明日にすべてを賭けるべきだ!」
「う~ん……」
「それに今日が日曜だからか、人が中々減る気配がないだろ? そこも考慮すると、明日の可能性が高い」
「……そうね、分かったわ」
やっとの思いで俺は芽依を説得させる。
確かに100パーセントの確率とは言えないが、それなりの根拠もある。
今日はしっかり休んで、明日に全力を尽くした方がきっといい。
「何だか本当に帰るんだか心配だな。嘘ついて残ったりしないよな?」
一応返事はしていたが、根性ある芽依のことだ。
とりあえず今だけは口で合わせて、帰ったフリをするなんてことも考えられる。
「大丈夫、そんなことしないわよ! ちゃんと帰るから! なんなら私の家まで来て、帰るとこ見届ける?」
「そうだな……そうした方がいいかもしれないな。危険だし! 家まで送るよ!」
「──えっ!? 本当に来るの!? 冗談のつもりだったんだけど……」
「冗談かよ……」
だから……その普通の声のトーンでの、分かりにくい冗談はやめてくれ!
俺が心の中で、そう嘆いていると、芽依は1人勝手に深読みまで始めていた。
俺からしたら、親切のつもりだったのに……
「もしかして誠人……うちに押し掛けて、上がり込もうとしたんじゃないでしょうね!」
「いやいや! そっちから先に、そう話を振ったんだろ!」
「はて? そうだったかしら?」
「とぼけるなよ! ったく……ちゃんとまっすぐ家に帰れよな!」
「……怒った? ごめんごめん! 私のこと心配してくれたんでしょ? ありがとう。近所だから本当に大丈夫。誠人こそ遠いんだし、帰り気を付けてね!」
この変わり身……芽依のニヤついた顔から察するに、全部わざとだな。こりゃ。
なんだか手玉に取られてる気がする……
以前、芽依のことをパーフェクトヒューマンと紹介した記憶があるが……
これは撤回しておこう。稀に意地悪気質になるところがある。
まぁ……そんなとこも、嫌いではないけど。
そうこうしている間に、終電の時間は近づいており、俺達はこの場で解散となった。
本番は明日だ。しっかりと明日に向けて、今は心と体を休めよう。
・・・
──翌日の夜9時過ぎ。同公園にて。
この日は昨日よりも、より一層暖かく、むしろ暑いくらいの陽気だった。
俺と芽依は再び公園内で合流する。
まだ少し疲れは残るが、一度帰って寝れた分、マシだったと考えるべきだろう。
あのまま残り続けたら、それこそ体力を消費し続けていたはずだ。
昨日の反省を活かして、俺達は集合を遅めにしていた。
俺の悪夢により日にちまでは分かっても、時間は未だに分からないわけだが、この公園はとても人気で、中々人がいなくならない。
ましてや今日は気候も良いため尚更で、犯行は遅い時間と予測ができる。
「よかった。まだ事件は起きてないみたいね。ベンチも特に変わった様子ないし」
「おいおい、俺の夢に俺の推測。信じてなかったのかよ?」
「ちょっとね。賭けに成功したわね、私達」
「あぁ、でもこっからだ。集中しなきゃいけないのは」
俺達は“コ”の形に並んだベンチの、縦線の部分に座った。
事件が起きる場所は、“コ”の下の横線に当たるベンチである。
あえてそのベンチを空けておくことで、犯人をそこに誘導させる作戦だ。
記憶違いを想定しなければならない俺達は、待つ間に何度もシミュレートした。
数多くの作戦パターンを用意している間に、時間は刻々と過ぎていく。
そして……意外にも“ヤツ”はすぐに姿を現した。
まだそこまで夜も深くない、午後11時過ぎ。
平日の月曜とあってか、公園内は閑散としており、人は俺達以外誰もいなかった。
芽依の情報だと、先に女性だけが座り、後から男性が遅れてやってくるとのことだったが……
早くも記憶違いは生まれ、雲行き怪しいスタートとなる。
20代後半くらいと思われる男女が、2人一緒になって、ゆっくりとこちらへ歩いてきたのだ。
男はこの暑い日とは思えないくらいに厚着で、頭には帽子を被っている。背中には大きなリュックが見えた。
来た……“ヤツ”だ。
俺達の2人きりの戦いが、とうとう幕を開けた。




